第81話 オーベルジュ マドリー&ネリーの家2
なぜそんなアバウトな管理になっているのかと言うと、街の外に家を作ったり住んだりするのはこの世界ではそんなに簡単ではないからである。この世界には危険な魔物が闊歩しており、街はほとんどが強固な外壁を持つ城郭都市となっている。街の外に住むとなると、強固な守備を自分で用意しなければならくなるのである。もちろん、城壁などなくても、住人が襲ってくる魔物を退治できるのであれば不可能ではないが。強い人間が多数集まれば可能ではある―――森の中に隠れ住む盗賊などはたいていそのようにしているが―――盗賊であっても、可能であるなら壁や堀、罠などを作ってできるだけ防御を固めたいのである。
また、死霊の森はそもそも、ウィルモア領の中でも治外法権地帯のような扱いになっている。領主のクリスに一応確認したところ、特に問題はない、税金も不要との事だった。
マドリー&ネリーの家は、かなり広めの敷地がすべて木の柵で囲われていて、ゼフトの結界魔法が施されているので、一軒家でも城郭都市の外で安全である。しかも現在は、街との街道と街の周囲までもゼフトの従えている魔狼達によって守られているので、護衛なしで移動しても魔物に襲われる事はほぼない。
ただ、敷地の中は一杯に畑が広がっており、その中に別の家を建てさせてもらうというのは気が引けたので、敷地の隣に建てることにした。現状では魔狼達に守られているので問題はないだろう。もし問題が出てきたら、ゼフトに相談しても良いだろう。
家を建てる代金は、一般的には小さめの一軒家で500Gくらい(材料費別)、通常は2ヶ月くらいは掛かるそうだ。地球の感覚で言うとかなり安いし早いのではなかろうか。(この世界の物価は、コジローの感覚では日本の半分くらいのようであった。)
だが、ゼフトの紹介してくれたドワーフは、一ヶ月掛からず建てられるという。優秀である。そして材料は、死霊の森の木を切って使って良いということなので、コジローが次元剣でバサバサ斬り倒して使わせてもらった。次元剣で木を切り倒し、枝を払ってから建設場所近くに運ぶ。コジローの重力魔法もかなりレベルが上がっているので、倒した木を運ぶのも苦はそれほどなかった。
死霊の森の木はかなり硬質で、普通の大工では斬り倒すのも苦労するらしいのだが、次元剣であれば問題ない。そして木材は建築素材としてはかなり良質だそうだ。この木なら、シロアリなどの被害もないらしい。切ったばかりの木はある程度寝かせて乾燥させ、狂いを出してから木材にする必要があるのだが、そこはドワーフの秘術かなにかで、すぐに使えるようにできると言っていた。なにかドワーフ族に伝わる魔法があるのかもしれない。木の調達にコジローが協力したので、材料費もほぼなしでよいということになった。
コジローの家は、それほど大きい必要はない。ただ、少し高めの木の塀で裏庭を囲ってもらった。そこで剣や魔法の練習を行うトレーニング場所にしたいので、かなり広めに作ってもらった。いずれは、体育館のようなものを作って雨天でも練習できるようにしてもよいと考えていたが、そもそもあまり雨が多い地域ではないので、とりあえずそのままとした。
家屋のほうは、それほど大きい必要はない。シンプルに、ベッドとキッチン、ダイニングテーブルが荒れば良い。コジローは収納魔法を使えるので、収納がほとんど不要なのである。とは言え、コジロー以外の人間が使う事も想定して、収納魔法を使って壁にいくつも棚を設置した。厚みはゼロで壁に扉だけがついているのだが、開くと中は亜空間で拡張されていて、食器棚やクローゼットとなっているのである。
風呂は当然、温泉を引いた。湯船の壁面に転移魔法陣を設置し、魔力を込めると温泉地からお湯が流れ出てくるようになっている。
キッチンは煙突があり、「かまど」で火を焚く仕様である。この世界にはガスコンロや電気コンロなどはない。魔石を使った調理器具などもなくはないが、コスト的に割に合わない。基本はかまどに薪をくべて調理するのだ。
薪は次元剣を使えばあっという間に作れる。乾燥させる必要があるので、できるだけ事前に切って放置しておくようにした。まぁどうしても必要な時はマロに炎の魔法で高火力で一気に乾かし点火してもらうので問題ないが。
コジローも、やはり火の魔法はもう少し自分でも使えるようになりたいと思うのであるが。練習は続けているが、なかなか成長しないのであった。
コジローはキッチンの外、半屋外にピザ窯のようなオーブンを作ってみた。昔、土を盛って石を積んで簡単に窯が作れるのをテレビで見たことがあった。やってみたら面白いし便利である。ピザなども作れるかもしれない。パンは既にこの世界にもあるので、生地を工夫すればピザもすぐにできるんじゃないかと思い、ネリーに相談してみたところ、すぐに挑戦して、良い感じに完成させてしまった。生地に野菜や肉・チーズを乗せて焼きあげればピザのできあがりである。モニカも喜んでいた。
ピザもまた、マドリー&ネリーの家の人気メニューとなった。
コジローも基本的にはマドリー&ネリーの家で食事をするので、自分の家であまり調理はしないのであったが。そうしないとモニカに会いに来る理由がなくなってしまう事もあったのであるが。
結局、マドリー&ネリーの家の横に、新たに宿泊用の別棟を建て、レストラン部分も増築して広げる事になった。改築費はコジローが出資という形で出し、利息付きで返すと言う話になった。コジローとしては別に返してくれなくてもよいくらいだったのだが、料理のアイデアはコジローが出したものなので、それでは申し訳ないというので、共同オーナーとしてその利益の1割を貰うということで話がついた。そもそも料理はコジローが考えたものではなく、日本の誰かが考えたものなので、コジローは権利を主張する気はないのだが。
だが、ふと気がつくと、コジローの家の裏に、ドワーフ達が家を作って住み始めてしまった。温泉とマドリー&ネリーの家の食事が気に入ってしまったらしい。コジローは、ドワーフ達の家にも温泉を引いてあげ、大変喜ばれたのであった。
そして、少し目を話すとすぐに、ドワーフの家が増えていった。話を聞いたドワーフ達が親方を慕って、移住してきてしまったのである。
最初に作られたのは鍛冶屋。気がつけば、武器屋兼金物屋のような店がコジローの家の隣にできていた。さらには、裏手のほうに酒蔵が、いつのまにか作られていた。裏の草原を開梱して畑にし、ぶどうのような植物を植え、酒造りを始めてしまったのである。
気がつけば、マドリー&ネリーの家の周辺が、ドワーフの集落のようになりつつあった。
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