第62話 転移ネットワーク計画2
リヴロットには現在、各都市を回って、その街の情報を集めること、代官が不正・圧政で領民を苦しめていないかの確認、できればであるが、信頼できる人材を確保することが命じられ、各地を旅していた。なかなか大変な仕事であるが、もし、転移ネットワークができれば、それもかなり楽になるはずであす。それどころか、各地に日帰りで仕事ができることになるのである。
領主は、最優先事項として、コジローに依頼して、転移ネットワークの構築をアレキシに命じたのである。本来であれば、アレキシはクリスの右腕であり、領政官としてなくてはならない存在であるのだが、今はそれよりも、転位ネットワークを構築する事が事態を大きく改善するのに役立つという判断であった。
コジローはクリス伯から転移魔法陣のネットワークを作るための報酬として、かなりの額を先払いで受け取った。
その額、500G。
足りなければその都度言ってくれれば必要なだけ出すとクリスは言っていたが、この世界の平均月収が15~30Gなのであるから、かなりの額である。
まぁ、実際に、馬車ですべての代官所のある都市を回ろうとしたら、ただ通過するだけでも2ヶ月、一人旅で100Gは掛かる。複数の領政官と護衛を引き連れて移動することを考えれば、安いものであろう。
もちろん、設置した後の、魔法陣の利用料(月額契約)はまた別契約である。魔法陣が増えていった時に、どのような契約にするのかは、また後日話し合う必要があるだろう。
ただ、コジローの転移は、コジローが行ったことがある場所にしか移動できない制約がある。これは、当然、転位魔法陣でも同様である。
実は、ゼフトならば、行ったことがない場所であっても転移で移動することが可能なのであるが、それは最高位の魔法であり、今の段階ではコジローには使えない。
ウィルモア領には、百を超える街と村がある。その中でも、代官所を置いているのは十数箇所であり、とりあえず、転移魔法陣を設置するのはその十数箇所だけなのだが、それでも、すべてを馬車で回っていたら、大変な時間が掛かってしまう。
一応、コジローは地図を見ながら、各都市の場所について説明を受けたが、当然地球とは単位から違うのでどうもピンと来なかった。正確には比較しようがないが、コジローの感覚で理解しやすいように、この世界の距離の単位を換算してみた結果・・・各都市間の距離は、およそ60km、遠いところでは150kmという感じのようだ。
転移が使えないとなると、徒歩か馬車で気長に各地を回っていくしかないが・・・しかし、コジローには奥の手がある、神速の移動速度を誇るフェンリル・マロが居る。
マロに載せてもらっての移動であれば、徒歩で3日の距離を1時間で移動できる。それでも、背中に乗せている人に配慮して、手加減しての速度である。マロだけなら、本気で走ればその三倍以上の速度で移動することは可能であろう。
実は、大人のフェンリルであれば、その最高速はさらにマロの倍以上となる。実際にフェンリルの速力について計測した人間はおらず、また個体差も大きいので、フェンリルの本気の全速力の上限がどれくらいなのかは誰にも分からないのであるが。
伝説に語られる「一歩で山5つ超える」はそのような高速移動を表現したものだったのだろう。
だが、一度乗せてもらって分かったが、マロに載せてもらうという事は、ジェットコースターに乗って移動するようなものである。コジローはジェットコースターが得意なわけではない、日本に居た時は、片手で数えるくらいしか乗ったことはないし、乗った時は結構怖かった。どちらかと言うと苦手なほうかも知れない。繰り返し乗っていれば慣れるのかも知れないが・・・
とりあえず、コジローはマロに乗って移動という考えは打ち消して、転移の繰り返しで移動することを選んだ。行ったことがない場所には行けないが、見える範囲であれば転移できる。それを利用して、短い転移を連続で繰り返しながら移動していくことで、高速移動が可能になるのである。
ただ、街道を転移で移動すると人目につくので、森の中を移動することにした。出会い頭に魔物と遭遇してしまう可能性を心配して、マロには先に森の中を走ってもらい、その中を短距離転移による高速移動でついていく事にした。もちろん、マロにはかなりゆっくり走ってもらいながらであるが。
コジローは、領主にもらった地図を見ながら、迷わないように街道に沿って、最初の街に向かった。
最初の街はデンドビル、サンテミルから70kmほど南下したところにある。
街道に沿って転移を繰り返しながら進む。障害物の多い森の中で、地図を確認しながらであったので、思ったより速度が出せなかったが、2時間ほどで到着した。
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