第57話 亜空間魔法を使いこなそう2
だんだん、亜空間操作の魔法の魔力制御がうまくなってきたのであろう、カランとレベルアップの音が響く。
確認してみたところ、これまでは亜空間収納にモノを入れたり出したりするのに、直接手で持って出し入れする必要があったのだが、それが、触れるだけで収納できるようになったようである。
なんとなく、岩に亜空間を被せて収納できたのだから、うまく応用すれば、触れなくても出し入れできるようになりそうな気もするのだが、現状でも十分便利になったと思うコジローであった。
それよりも、これまで、亜空間収納の中に入っているものを取り出すのに、手が届く必要があったのが、手が届かなくても取り出せるようになった、それがとても便利であった。
とりあえず、クレーターを埋める作業が、亜空間魔法でできそうなので、やってしまうことにした。地面や山肌の中に、亜空間を作成し、そのまま "切り離して" 収納してしまう。それをたくさん作りだし、クレーターの近くに移動、クレーター上空で収納した土を出してやると、どんどんクレーターが埋まっていく。
どれくらいの量・大きさまで可能なのかちょっと試してみたくなって、採掘場から少し離れた場所にあった、巨大な岩を亜空間に収納し、クレーターの上空で取り出してみた。岩は無事クレーターの中に入ったのだが、空中から落としてしまったがゆえに、着地時にかなりの音と振動が発生してしまった。
しばらくして、城壁の上に様子を見に警備兵が上がっきたので、見つかる前に転移で姿を消した。
明日になればクレーターが埋まっているのは分かるだろうが、魔狼が魔物を退治してくれたのは、ゼフトの援助であったと領主から公式に発表があったので、これもゼフトがやってくれたという事にしてまえば問題ないだろう。
翌朝、クレーターで別の問題が発生していた。コジローが落とした岩が大きすぎて、今度は地面より上に飛び出ていたのだ。暗いし慌てて帰ったので、そこまで気が付かなかった。
地面より上の部分を次元剣で切ってしまおうかと思ったが、それだとまた、地面の高さぴったりに切れないような気がした。そうか、と思い、コジローは亜空間収納を使って切断してしまう事にした。亜空間は立方体の形で作成される。各面は、完全に真っ平である。岩の出っ張った部分を亜空間に収納し、地面と同じ高さのところに慎重に合わせて、空間を閉じる。そのまま、空間を切りはなして収納してしまうと、岩の上部がなくなり、真っ平な面が残った。
あとは、岩の周辺に足りない土を盛るだけなので、何日もかからずに埋め戻しは終わりそうである。
クレーターを迂回する経路ができたので、商人の馬車が出入りを始めたが、そうなると、護衛が足りなくなってしまった。まだ冒険者達は周辺の後始末に追われていて人手が足りないのである。
コジローは周辺に魔狼達がうろついていたのを思い出し、このまま街の周辺をパトロールしてもらうような事を頼めるかどうかゼフトに尋ねてみたところ、魔狼の群れを半分、アルテミル周辺で使ってよいと言われた。半分は死霊の森のマドリー&ネリーの家の周辺で縄張り管理をしてもらうらしい。実は、魔狼の群れはかなり数が増えており、分けても問題ないとのことであった。
アルテミル周辺に来た魔狼のグループのリーダーに就任した狼がコジローとマロに挨拶に来た。名前がないとの事だったので、アルバートと名付けてやった。アルバート、通称アル。一応、とりまとめのリーダーはアルであるが、その上のボスにマロがなるらしい。マロの上は、マロの母のフェンリルとなると。狼は犬と同じ、組織で活動するので、上下関係がしっかりとある。たとえ子供であっても、フェンリルはその他の狼(ディザスターウルフ)よりも上位ということになるらしい。
コジローは、必要に応じて、マロを通じて魔狼の群れに指示を出してもらうことになった。
そこで、コジローはアルテミルの周辺をアル達の縄張りとしてもらい、魔物を狩ってもらう事にした。領主にもそれを話し、魔狼を見ても冒険者や騎士、警備兵達が攻撃しないように通達してもらうことにした。
コジローは、勝手にやることなので、特に報酬などは考えていなかった、むしろ、勝手にアル達がアルテミル周辺に縄張りを作るわけで、許可をもらわなければいけないくらいに考えていたのだが、なぜか領主はコジローに報酬を払うと言って聞かなかった。
これ以上ゼフトにタダで世話になるわけにはいかないと。変に気を使いすぎているような気がしたが、金をもらうとなると、義務も生じるわけで、色々と面倒になる。そもそも、報酬をもらうべきはコジローではなく狼達のはずである。コジローが代表で受け取るにしても、何らかの形で狼達に還元してやらなければならないだろう。
とりあえず、報酬についてはまた後で相談しましょうということで、後回しにして逃げ出すコジローであった。
商人たちの護衛に魔狼を数頭つけて商売にする、などと言う案も一瞬浮かんだのだが・・・魔狼達の獣魔登録や管理・報酬、それに、護衛業で稼いでいる冒険者から職を奪うことになるなど、色々と問題がありそうなので、その案はすぐに却下となった。
とりあえず、魔狼達はアルテミルの周辺を縄張りとすることと、周辺の魔物を狩って食べる事の許可を、正式に領主から貰ったということ。状況によって、報酬が発生するならば、その都度、魔狼達に還元することを考えるということで、アルに説明した。
その後、城壁の外に居ても魔物に襲われる危険がなくなるのでありがたいと、街としても魔狼にどんどん増えてもらう方向で協力するようになり、魔狼と良好な関係を築き上げたアルテミルは、やがて後に、狼の街として有名になっていくのである。
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