第54話 スタンピード

スタンピード、それは、ダンジョンなどから大量の魔物があふれ出てきて、周辺を荒らしたり街を襲ったりする現象の事である。


大量の魔物が現れ、アルテミルの街に向かっているという報告だったのである。


報告を受けて、クリスは即座に、自身の擁する騎士隊と町の警備隊に対応を指示した。また冒険者ギルドに「緊急クエスト」を要請した。


それを受け、リエとコジローはギルドに戻った。コジローの魔法で、領主の執務室からリエの執務室に転移したので移動は一瞬であった。


執務室から飛び出し、緊急クエスト発令を指示するリエ。


緊急クエストが発令されると、依頼はすべて中止され、冒険者は、半強制的にその緊急クエストへの協力を義務付けられる。緊急クエストが発令される時というのは、街が危機的状況にあるという事なのである。


大量の魔物が街を襲ってくる。騎士達、警備兵、そして冒険者で協力して事態を打破しなければ、街が滅ぶ。そして、もう既に、街の周囲にはかなりの数の魔物が集まってきている状態であった。




偵察の報告では、向かってくる魔物は、ゴブリン、コボルト、リザードマン。さらに数は多くはないがモンスターベアなども確認された。そして、一番数が多いのは、アルマジロリザードであった、その数、千を超えるとの事。


通常であれば、街に近づく前に迎撃すべく、騎士や冒険者達がすぐに撃って出るのであるが、今回は、アルマジロリザードの数が異常に多いとの報告があったため、出撃できないでいた。


アルマジロリザードは、背面に強靭な外皮を持っており、体を丸め球状になって体当たりしてくる魔獣であるが、その外皮の鎧は普通の鋼鉄の剣や槍では貫けないほど頑丈なのである。


コジローの次元剣や、ミスリル製の剣や槍であればアルマジロリザードも切り裂けるが、そのような武器を持った者は多くはないのである。


そのアルマジロリザードの数が、千体以上、二千体近くいる可能性もあるとの報告であった。


体当たり自体は、衝撃は大きくダメージはあるが、致命傷となるほどではない。しかし、他の魔物と戦っているときに体当たりで妨害されると、倒せる魔物も倒せなくなってしまうのである。その数が千異常ともなると、外に出て迎え撃つのは危険過ぎる。


幸いにも、アルテミルの街は高く頑丈な城壁に囲われている。とりあえずは魔物の攻撃を受けたとしても、簡単には揺らがないであろう。城門を閉じて籠城していれば、とりあえずは危険はない。そのための城郭都市なのである。




ただ、門を開くことができず、場内に閉じ込められてしまうと、商人も出入りできず、経済的にダメージを受けることになる。あまり長期間籠城戦が続くのは好ましくない。


ただ、魔物が通りすがりという事であれば、城門を閉じてやり過ごせばよいのであろうが、これは意図的な攻撃である可能性が高い。現に、種類の違う魔物が集まっているのに、魔物同士で争うことは一切なく、すべての魔物が街に向かって強烈な敵意を向けているのである。


そうなると、時間が経っても魔物は減らない、それどころが増えていく可能性もある。


さらに悪い報告がもたらされた。


魔物の中にAランクモンスターのサンダーベアが確認されたとのことであった。


サンダーベアが攻撃してきたら、城壁や城門が破壊される可能性がある。簡単に破らはしないだろうが、繰り返し攻撃されればいずれ破られてしまう可能性がある。


できるだけ早急に解決する必要がある。




とりあえず、クリスは魔物を呼び寄せている魔道具の捜索を警備隊に指示した。


すでにいくつか見つかっているが、見つけ次第破壊する必要がある。本当は破壊せずに調べたいところなのだが、今の状況ではそうも言っていられない。




それから、コジローには急ぎ、死霊の森に飛んでもらい、ゼフトが何か知っていないか訊いてもらう事となった。

城門が開けられなくとも、コジローならば転移があれば移動は自由である。コジローは即座にマドリーの家に転移した。


ゼフトの研究所────ゼフトは森の中の隠れ家をそう呼んでいた────へ直接転移は、コジローの技量ではできない。ゼフトの結界を超えられないのである。いずれ、もっと上級の転移魔法が使いこなせるようになれば、それも可能になるらしいが・・・それまではとりあえず、マドリーの家からオーブのペンダントで呼ぶ事になっていたのである。




マドリー&ネリーの家につき、中に入ると、コジローの知らない少女がいた。

日本に居た時にコジローが少し好きだったアイドルに似た美少女であった。


少女はモニカ、以前、奥の部屋で病気で寝ていると聞かされていた、マドリーとネリーの娘であった。




コジローは状況をマドリーとネリーに説明した。すると、その件は、解決しつつある、とマドリーに言われた。


「しつつある」というのはどういうことなのか???




以前、マドリー&ネリーの家がたくさんの魔物に襲われ、コジローも一緒に戦った事があったが、その後もたびたび、魔物が襲ってくることがあったそうだ。


ゼフトが結界をグレードアップしたので、魔物が襲ってきても被害はなかったが、別の問題が起きてしまった。


新しい結界は、空間を捻じ曲げて反対側に通過してしまうものだった。魔物が柵を超えようとしても、柵の中に入ることはできず、家の反対側の柵の外に抜けてしまうのである。


だが、これだと、魔物にも特に被害がないため、状況が理解できない魔物がいつまでも家の周囲をうろつく事になってしまう。


内側からマドリー達が弓などで攻撃して仕留めていけば、いずれは殲滅できるだろうが、時間がかかるし、矢の数も有限である。


そこで、ゼフトは、使役している魔狼(フェンリル=マロの母)に命じて、魔狼の群れを使って、家の周囲の魔物を排除してもらうようにしたのだそうだ。


定期的に周辺の魔物を魔狼がパトロールして退治してくれるようになったので、以降は平穏な状況に戻ったのだそうだが。


それにしても、なぜ魔物が異常な行動をとるようになったのか?




ゼフトが調べたところ、マドリー&ネリーの家に、魔物を呼ぶモノがある、ということが分かった。

探してみたところ、娘のモニカの寝ているベッドの下にある魔道具が発見された。

また、その時の調査で、モニカの病気は心を封じるような魔法の攻撃を受けたためであったと判明。

ゼフトがその影響を排除した事で、モニカは意識を取り戻すことができたのだそうだ。




その、魔物を呼ぶ魔道具というのは、アルテミルの街で見つかった魔道具と同じものだろう。そして、それを作った者は、ゼフトが既に捕らえたとの事だったのである・・・


ゼフトは魔狼達を使って森の中を広範囲に捜索させ、怪しい男を捕らえたのだそうだ。現在はその男をゼフトが "研究所" で尋問中なので、目的なども程なくして分かるだろうという事であった。




ゼフトが隠れ家で尋問・・・一体どんな恐ろしい目に遭わされているのであろうか・・・?と一瞬考えてしまったコジローであったが、そんな必要はない、ゼフトは心を読むことができるのを思い出した。


ゼフトの前では、スパイも隠し事はできないであろう。


程なくして、縛り上げられた男とともにゼフトが現れた。

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