第47話 領主に詰められるが拒否る1

領主の招待を受けたコジローだったが、アレキシに条件を一つだけつけた。それは、マロも同行すること。


美味しい食事を用意してくれるという話なので、マロにも食べさせてやりたいと思ったのだ。


マロ自身は


「わふぅ(別に、興味ない)」


と言ったが、尻尾がブンブン振られていたので行きたいのだろう(笑)




2日後、コジローは領主の館へ徒歩で向かっていた。


迎えの馬車を寄越すと言われたのだが、安宿の前に高級な馬車を横付けされても迷惑なのでそれは固辞したのだった。


ボロい安宿ではあるが、マロを同室に泊める事を許してくれて、人が少ない時間なら食堂に入れるのも許してくれる気さくな女将なのである、迷惑はかけたくなかった。


まぁ、領主の高級馬車が前に来たからと言ってどんな迷惑になるのか分からないのだが。

コジロー自身が、前の代官に連行された事を、まだ心のどこかで警戒していたのかも知れない。




領主の館に付くと、コジローは門番に声を掛けた。


『門前払いされたりして?』


と思ったコジローだったが、門番は


「聞いています」


とすんなり通してくれた。


門を通り、正面玄関に辿り付く前に、玄関から執事らしき人が出てきて迎えてくれた。門番から連絡が行ったのだろうか。何か、屋敷内の連絡手段があるのだろう。


しかし、玄関を入ろうとしたところで、執事にマロは厩舎のほうで待たせるように言われた。マロも一緒に室内に入るという条件を出したつもりだったのだが、ちゃんと伝わっていなかったか。


話が違うとコジローは少しだけ抵抗してみたが、厩舎の方でちゃんと美味しい餌を食べさせると言うので、ここでゴネても大人げないかと思い、マロに謝って厩舎で待つように言った。


「わふ(わかった)」


マロは特に機嫌を悪くすることもなく素直に案内に随いて行った。


聞き分けの良いマロを見て、執事が


「随分、躾けられているのですね」


と言った。


コジローは


「マロは人間の言葉が分かるからな、悪口など言わないほうがいいぞ」


とニコリともしないで答えた。




コジローは領主の執務室へと案内されたが、部屋の前で、また、ひと悶着起きてしまった。


武器を預かると執事が言い出したのである。


貴族や王族に会う場合、セキュリティ上の理由で武器を預かるのは当たり前なのだそうだ。


なるほど、そういえば、前にこの屋敷に呼ばれた時は、呼び出しの時点で武器は持つなと言われたので、次元剣はマジッククローゼットに隠しておいたのだった。


今回もそうしておけば良かったと思ったがもう遅い。


しかし、コジローは武器を手離すつもりはなかった。

この短剣=次元剣はゼフトに授けられて以来、一度も身から離さずに来たのである。次元剣はこの世界でのコジローの唯一の拠り所となっていた。


おそらく、最初から武器を持つなと言われていたら、招待は断っていただろう。


なにせ、この屋敷に前に来た時は、有無を言わさず牢に入れられたのだ。領主がどんな人間か分からないが、領主の機嫌を損ね、また、牢に入れられる可能性だってありそうだ。


アレキシが前回のような事は絶対にないと約束したが、しょせんは口約束でしかない。現に執事とは最初から、コジローの認識していた約束の内容から齟齬が生じているのだ。信用できない。


最悪、牢に入れられたとしても、いざとなったらコジロー自身は転移で脱出できる。しかし、剣を預けたら、それを奪い返す手間が増える事になるので非常に厄介である。


少し考えて、コジローは


「ならば、領主との面会はせずとも良い、気持ちだけ受け取っておく、領主にはよろしく言っておいてくれ。」


と言って踵を返した。


そもそも、招待も嫌々受けているのだ。マロの件で譲歩し、さらにここへきてまた譲歩を要求されたのである。大人げないとは思うが、このままズルズルと譲歩し続けるのも好ましくないとコジローは判断したのだった。




「お、お待ち下さい!!」


執事は驚いて、慌てて引き止める。しかし、コジローは止まらない。


この街に来てから、住民からは貴族の悪口ばかり吹き込まれてきた。牢にも入れられた。貴族に対する心象は極めてよくない。正直、そこまで貴族に媚びへつらう気持ちはコジローにはなかった。


面倒事になるなら、いっそこの街を出るか?とさえコジローは考え始めていた。




その時、領主の執務室の扉が開いた。騒ぎを聞いたアレキシが様子を見に出てきたのであった。


執事から事の次第を聞いたアレキシは執事を一喝し、コジローに謝罪した。武器は持ったままで良いから領主と是非会ってほしいとアレキシが言う。


コジローは、執事を叱るなと言った。


そもそも、執事は悪くない、真面目に仕事をしただけだろう。悪いとしたら、キチンと指示をしておかなかったアレキシの責任と言える。執事を叱って事を収めるのはおかしいのだ。


そう言われたアレキシは、意外にも素直に自分の非を認め、執事に謝罪した。


とは言え、おそらく、武器を持ったまま領主と謁見などアレキシも想定していなかっただろう事は想像に難くない。


さすがにコジローも、これ以上ワガママを言うのも憚られ、素直に領主に会う事にした。



部屋に入ると、書類の山に囲まれた領主クリス・ウィルモア辺境伯爵が居た。


書類に目を落としペンを走らせている。


どうしたものかと思ったが、アレキシが手をあげて少し待てと合図したので黙って待った。


ここまで来てこれか、とコジローは思ったが、我が身を振り返ればそこまで偉そうにする身分でもないかと思いなおし、黙って待つことにした。


十数秒ほど経って、ペンを置いたクリス伯がコジローに声をかけた。


「すまない、忙しいものでな。君がコジロー君か、はじめまして。いつぞやは助かった、礼を言わせてもらうよ。」


クリス伯の顔を見て、先日、街道でリザードマンに襲われていた馬車に乗っていた人物であったかと、コジローもやっと思い出した。


礼がしたいとは言われていたが、なんとなく、クーデターの時リヴロットと対決して負けてあげた事かなと思っていたのだが、よく考えたらそんな事で礼など言うために呼び出すわけがない。



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