第28話 追い詰められるドジル

コジローとマロは、転移で街へ戻ることにした。とはいえ、街の中に直接転移するわけにはいかないので、街道に近い森の中に転移して、そこから歩いて戻ることにした。


数日ぶりの帰還である。


ギルドに立ち寄り、マジッククローゼットに入れてあった薬草を引き取ってもらおうとしたら、受付嬢のエイラに、何日も戻らないから心配していたと言われた。


すぐにリエに連絡が行き、ギルドマスターの執務室に呼ばれた。


コジローが薬草摘みに出たきり何日も戻らないと報告を受け、心配していたのだそうだ。


なにしろ、ドジルたちが


「森の中で魔獣にやられて死んだんじゃないのか?」


などと噂を流しているのが耳に入ってきたのである。


リエがドジルを呼び、コジローについて何か知ってるのか問い詰めたが、


「知らん。よくある事だから、そうじゃないのかと想像で言っただけだ。」


と逃げられたという。


コジローは、ドジルに毒矢で殺されそうになった事、矢に塗ってあったのは治療法のない凶悪な毒だったが、師匠に助けてもらい生き延びた事をリエに話した。


ドジルはコジローが生きていたと聞き引き攣っていた。コジローの訴えを受けリエがドジルを取り調べたが、


「コジローの狂言だ。」

「俺がやったという証拠がない」


と繰り返しすばかりであったという。


矢も証拠として持ち帰っていたのでリエに渡したが、それとて、科学捜査のないこの世界では、それをドジルが使ったという証明はできない。


一応、被害者であるコジロー自身の証言だけで裁判に掛ける事はできるが、明確な証拠がない状態で「知らん」と言い切られれば、確実に有罪を勝ち取れるとは言えないそうだ。


残念ながら、リエには、これ以上どうにもできないと頭を下げられた。もちろん、必ずなんとかするとは約束してくれたが、現状では監視を強める程度の事しか打つ手はなかった。


「本人が罪を認めてくれれば別だが・・・」


なるほど。。。


コジローは黙ってギルドマスタールームを出た。



◆ドジル追求


「チクショー、何故生きている?!何が起きている?これまで、あの毒で生還したものは居なかったのに・・・」


街の居酒屋で手下と酒を飲んでいたドジル。


ドジルが新人イビリをするようになってから、この街には新人冒険者が居つかなくなっていた。

居なくなった者達は、ドジルを嫌って他の街に移って行ったのだろうと思われていたが・・・


実は、ドジルの毒の実験で殺されたり、ドジルのストレス解消で嬲り殺され森に捨てられた者も何人も居る。随分と惨たらしい目に遭わされて死んでいった者も複数いたのであった。




ドジルの肩をポンポンと叩く手があった。


ビクッと反応するドジル。


「何の話だい?毒?」


肩を叩き、声を掛けたのはコジローだった。


コジローの顔を見て青くなるドジル。


「いやべべつに、、、なんでもねぇ・・・よ」


コジローはニヤッと不気味に笑いながら言った。


「トボけるなよ・・・やってくれたよなぁ?」




「てめぇ、やるってのか?!?!」


立ち上がり叫ぶドジル。


「騒ぐなよ、迷惑だろ?別に何もしないさ、ここでは、な・・・」


コジローはまたニヤリと笑って、店を出ていくのだった。


コジローが去った後、逃げるように店を飛び出したドジル。


ふと見ると、離れた場所にコジローが立っていて、不気味な笑顔を見せている。


「チキショウ、やる気か?面白ぇ、返り討ちにしてやらぁ!」


しかしコジローは、その後もドジルの後を尾行はするが、襲いはしない。


わざとドジルの視界に入るところに現れては、ニヤリと笑って見せる事を繰り返した。


そんな事を数日ほど繰り返した後、ドジルはギルドマスターに呼び出された。


「最近ちっとも依頼も受けていないそうじゃないか?借金を返すために働く気がないというのなら、犯罪奴隷に堕ちてもらって、強制労働で返してもらってもいいのだぞ?!」


リエに煽られ、依頼を受けるしかなくなるドジル。

そこでもまた、コジローはドジルの視界に入り、ニヤリと笑ってみせる。

ゾクリと寒いものがドジルの背中を走るのだった。




「チキショー、来るなら来い、返り討ちにしてやる!」


ドジルは手下と森に入っていた。借金を返すために働かざるを得ないドジル達だったが、森に入ればコジローに狙われる可能性がある。


「森で冒険者が行方不明になるのはよくあること。」


そう嘯いていたのはドジルであったが・・・逆に言えば、自分が行方不明になる事もありうるという事である。


一応、街を出る時に、誰も尾行(つけ)けて来ていないのはなんども確認していたドジル達だったが・・・


転移が使え、鼻が効くマロも居るコジローにはあまり意味がない事であった。


森の中、ドジル達の前に、コジローは立っていた。




コジロー:「もう一度訊くが、罪を素直に認めて、自首してくれる気はないか?」


ドジル:「認めたら死刑だ、誰が自主などするか!」


そうなのか?!


そりゃあ、認めるわけ無いか。


「今度こそ、しっかり殺してやるぜ!」


ドジルは剣を抜き叫んだ。


どうしようかと考えていたが、ドジルが先に剣を抜いた。

この世界では、これだけでも正当防衛は成立するそうだ。


ふふん


コジローは、不敵に笑ってみせた。


「ブッコロシテヤル・・・」


怯えていたドジルであったが、コジローの侮るような笑みに怒ったのか、叫びながら斬りかかってきた。


コジローはドジルが一歩踏み出した瞬間から "加速" を発動した。ドジルの動きがスローになる。現在コジローの加速は8倍速である。


コジローはゆっくり振り下ろされてくるドジルの剣を横にかわし、ドジルの体に蹴りを入れる。


数メートル飛ばされて尻餅をつくドジル。


コジローは腰に差していた短剣「次元剣」を抜き、構える。刀身がうっすらと光を帯びながら伸びていく。


先に剣を抜いただけで有罪は確定だが、さらに、斬りかかったのなら、返り討ちにあっても文句は言えないだろう。


コジロー:「仕方ないな・・・。」


コジローの目に殺意が浮かぶ。それを見た手下A・Bが後ざすり、逃げだす。


「逃がすわけないだろ」


いつの間にかマロが背後に回り込んでおり、唸って威嚇していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る