第20話トラブル、その後

翌朝、確認してみたところ、マジッククローゼットはちゃんと開閉できた。亜空間は昨日開いたものと同じで、ちゃんと中に入れた荷物もあった。荷物も出し入れできるし特に問題ないと判断したコジローは、荷物をすべてマジッククローゼットに収納した。


朝食にする。宿の食堂にパンとスープが用意されていた。


マロには別料金を払って肉を出してもらった。毎日のマロの食事は、結構痛い出費になる予感・・・。


サンダーベアの素材をマドリーが買い取って現金化してくれた────サンダーベアは高級素材なので意外と高額だった────ため、多少余裕はある。マドリーが気を使って高い値段で買い取ってくれたのかと思ったが、そうでもなかったらしい。そのため、多少は金に余裕はあるものの、贅沢はできない。


金を(あるいは肉を?)稼ぐ必要がある。

これからこの世界で生活していかなければならないのだ。


とりあえず、冒険者登録したので、依頼をこなせば多少は稼げるだろう。


そういえば、今日はギルドへ来いと言われていた。

ギルドって何時から開いているのだろう?と思いながらギルドへ向かう。


到着。


開いていた。割と早くから開いているらしい。早朝出発のクエストも多いだろうから当然か。


電気のないこの世界では、就寝が早く、朝が早い傾向が強い。みな、暗くなったらすぐに寝て、明け方、明るくなってくる頃には活動を開始するのである。明るくする魔法や魔道具もあるが、燃費も悪いのであまり長時間は使わないらしい。火を灯して使うランプのような道具も当然あるのだが、夜にロウソクの光だけでは、あまり長時間積極的に活動すると言うことにもならないのであろう。電気・ガスがなかった時代の地球の生活と同じである。


受付に声をかけると、ギルドマスターの部屋に通された。用件は当然、昨日のドジル達の件。


リエもドジル達が先に剣を抜いたのを見ていたので、コジローについては正当防衛ということでお咎めなしとの事だった。


ただし、やりすぎると罪に問われる事もあると注意された。


コジロー:「すみません、どうせポーションで治ると思ったので・・・(手が)くっつかないとは思わなかったもので。。。」


登録試験の模擬戦でリエの実力を身を持って体験し、またドジル達の後始末もしてもらった事もあり、なんとなく下手に出てしまうコジローであったが、相手はギルドマスターなのだからそれでよいのだろう。


リエ:「意外と常識知らずのようね。森の奥で生まれ育ったのなら仕方がないか・・・」


幸い、ギルドの備品である高級ポーションを使って、コジローが切り落とした腕はくっつけることができた。ただ、使ったポーションの価格は冒険者の年収数年分もするとのこと。予算的に、無料で提供する事はギルドとしてもできないらしい。


コジローは値段を聞いて青くなったが、今回はドジル達自身に払わせるから気にしなくて良いと言われ、ほっとした。


ドジル達は、過去の悪行も追求されペナルティとして「ランク引き下げ」と「受けられる依頼の制限」がかけられる事になったそうだ。


リエとしては、本当は冒険者資格の剥奪くらいしたいところだったのだが・・・


冒険者は、街にとっては魔獣と戦ってくれる頼りになる存在ではあるのだが、反面、荒くれ者が多い。当然、褒められたものではない性格や行動の者も多いのである。そして、戦闘訓練を積んでいるので、当然一般住民に比べれば暴力では圧倒的に強い。そんな者が好き勝手に暴れれば、大変迷惑な存在となってしまうのである。住民と良好な関係を維持するためにも、常に厳しく律している必要があるとリエは考えていた。


しかし、冒険者が不足気味の町の実情も有り、資格剥奪まではできなかったのだ。


「ドジル達は借金を返すため、今後は低ランク向けの安い依頼を必死で受け続ける事になるだろう、借金返済まで何年かはかかるかもな。」と笑うリエだったが、目が笑っていなかった。


リエ:「ところで、その剣は・・・?」


コジロー:「ああ、これは、師匠が持たせてくれたんです、私は攻撃魔法も防御魔法も使えないからと言って。」


リエ:「ちょっと見せてもらってもいい?」


コジロー:「いや・・・まぁ、見るだけなら。触れると危険です。盗まれないようにと師匠が魔法を掛けておりまして。俺以外が触ると電撃が流れます。。。」


コジローは剣を抜いてみせた。


リエ:「やはり短剣だな、昨日は長剣を持っていたようだが・・・」


コジロー:「魔力をかけると伸びるのです。」


コジローは剣を伸ばして見せた。


コジロー:「師匠の研究の成果だそうです、この世に斬れない物はないとか・・・」


リエは、昨日自分の胴を薙いだ木刀が、もしこの剣だったらと想像して少しヒヤリとするのだった。


リエ:「ところで、昨日のアレ、あなたの奥の手。ものすごいスピードで移動した・・・わけではなく、あれは 転移 ね?」


まずい・・・

転移魔法については、なるべく人に知らせないほうが良いと言われていたのだが・・・

結構人前で使ってしまっている気がする。。。


コジローの転移魔法は今の時代においては破格の能力なのである。それこそ国家を揺るがしかねないレベルの・・・隠しておいたほうが良いのはコジローも理解はしているのだが、結局、なんだかんだで人前でも結構使ってしまっているのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る