第12話 後始末

『とりあえず、この家の防御は強化しておいたのでもう心配せんでもよいじゃろ。』


結界機能を強化した後、さらにゼフトはコジローに預けたオーブもバージョンアップしてくれた。


コジローのレベルが上がるとそれを知らせてくれる機能と、現在どのレベルまでの魔法が使えるのかを表示してくれる機能が追加されたとのこと。


コジローがオーブを握って念じてみると、コジローの視覚の中にステータスパネルが表示された。これはコジローにしか見えないらしい。


現在は


加速:3倍

転移:転移可能距離=可視範囲無制限、既往ポイント転移(中距離)


少しレベルが上がっていたようである。


───────────────────


ゼフトが帰った後、コジローとマドリーはゴブリンの遺体を燃やす作業に入った。コジローが倒した魔熊も解体しなければならないので忙しい。もう一頭はマロの母のサンダーブラストで爆散してしまったので残っていない。


ゴブリン・コボルトの死体の数が多すぎて集めるのが大変である。


マドリーの火球は死体をまとめて火だるまにし、骨まで灰になるまでそのまま燃え続けるほど強力である。


しかし、威力が強ければそれなりに魔力消費も多い。一日に数発が限度だそうなので、大変でも集めるしか無い。


冒険者であれば、魔物や盗賊の死体、時には仲間の遺体も処理する必要があるので、火の魔法が得意な者は多い。


死体を放置しておけば病気の発生もありうるし、遺体がアンデッド化してしまう事もある。せっかく倒した魔物がアンデッド化して再び襲ってくるのも危険だし、仲間であればアンデッドになどせずに成仏させてやりたいと思うのが人情だろう。


冒険者をするなら今後必要な魔法かもしれない。

コジローは試しに火球を使ってみた。

時空魔法以外の魔法の知識も、コジローの中に既に刻まれており、ごく初歩的な魔法であれば、ほとんど使える事は使えるのだが・・・。


コジローとしては、マドリーのようにゴブリンを一撃で燃やし尽くしてしまうような火球をイメージしたが、結果は・・・やはり、爪の先ほどの小さな火が飛んだだけだった。


これでは、焚き火の "着火" することも難しそうである。。。

しかも、その程度の火でも、大量に魔力を消費して強い疲労感を覚えるのだった。


「わん!」


マロが吠えた。


モンスターか?!と一瞬身構えるマドリーだったが、


「手伝おうか?と言ってる・・・」


とコジローが通訳する。


マロの前に火球が浮かび、放たれる。威力はマドリー以上だ、一瞬でゴブリンの死体が炭になっていく。


「おお、これは凄いな、さすがフェンリル。」


マドリーが燃やした場合は骨は灰はなんとか灰になるが、魔石だけは燃え残っている。マドリーは後で拾い集めたりしていたのだが、マロが燃やしたものはそれも残らず炭になってしまったのだった。


しかも、マドリーは魔法の発動に呪文の詠唱が必要だが、マロは不要、さらにどうやら火球は同時に複数打てるようだ。マロは同時に複数の死体を燃やしてみせた。


マロの活躍で、あっという間に魔物の死体の焼却は終わった。


「魔力は大丈夫なのか?」


少し心配になってコジローは聞いてみたが、マロの答えは


まったく問題ないとのことだった。


頼りになる、ありがたい。




次は、サンダーベアの解体、これも結構な仕事である。これはマロは手伝えない。


マロの力を借りて燃やしてしまえばすぐに済むが、それはさすがにもったいないので、ちゃんと解体する。


コジローも初めての経験だったので、助手として勉強させてもらう。


熊の解体終わる頃には日が暮れていた。




ネリーが鍋の準備をしてくれており、解体した魔熊の肉を投入、夕食は熊鍋となった。


高ランクのモンスターほど肉が美味い傾向がある。(もちろん中には例外もあるが。)

魔熊はランクB、かなり美味い。しかも、サンダーベアは上位種でランクはAである。かなり美味い肉なのであった。


マドリー&ネリーの家の地下には倉庫があり、解体した肉や素材はそこに収納した。

倉庫はゼフトの時空魔法がかけられている。

内部は空間魔法で拡張され、非常に広い空間となっている。さらに時間が止められているので、そこに入れておけば食材が痛むこともないのだそうだ。凄い。


倒した魔獣の肉や素材、魔石などは売れば金になる。ただ、マドリー&ネリーの家は町から少し離れているため、素材は貯めておいてたまにまとめて町に売りに行くのだそうだ。




サンダーベアはコジローが倒したので本来はその肉や素材の所有権はコジローになるのだが、その分はマドリーが買い取ってお金を渡してくれた。


宿代にしてくれとコジローは遠慮したのだが、そもそも宿泊代はゼフトからもらっていると説得され、受け取ることにした。ゼフトは金は持たせてくれなかったため、コジローは一文無しだったので、正直助かった。




その日の夜、コジローは師匠に貰ったペンダントに向かって呼びかけてみた。


すぐに返事があった。姿は見えない、声だけ聞こえる。


『ワシを呼ぶ時は、声に出さずとも念じるだけで大丈夫じゃぞ。』


あ、そうだったんですね。


コジローは、魔法がレベルアップするための条件について尋ねてみた。


特にこれという条件はない。基本は魔力の量と、その制御力次第。魔力の制御訓練と、魔力を増やす訓練を地道に積んでいくのが結局は早道となるそうだ。


ただ、コジローの場合は、今は、色々な経験を積んでいく事、それから魔法を繰り返し使い、回数を熟すことが効果的だろうとの事だった。


とりあえず、回数を熟すことも重要ではあるようなので、もっと積極的に使ったほうがよいようだ。


『時空魔法については、才能をすべてそれに割り当ててしまっているから、上達は早いじゃろうが、その他の魔法には一切才能を割り当てなかったので、時間がかかるじゃろうの。まぁ、気長にコツコツやることじゃ。』




毎日コツコツやるしかない。


魔力を増やすトレーングの基礎その1は、まずは呼吸。


魔力、これは地域や研究者によって「魔素」や「魔気」などと呼ばれていることもあるが、実は空気同じように、微量ではあるが、大気中に含まれているのだそうだ。


静かに息を吸う、そのとき一緒に魔力を吸う、とイメージするだけで、魔力も吸い込まれていくらしい。それで吸収できる魔力は微量ではあるが。


その2は、簡単な体操である。


ラジオ体操程度の簡単な体操であるが、これをすることで、体内に魔力が満ち、滞りなく巡るようになるという。これも、健康法程度の効果ではあるのだが。


塵も積もればという事なのだろう、幼いうちからこれらを知っていた者と知らなかった者では、大人になるまでにかなり差がつくとのこと。



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翌朝、空が白み始めた頃、コジローは裏庭に出て、呼吸法と魔力錬成体操をする。終わった後は、素振り。数百回、普通に素振りをした後は、様々な角度から実践的な素振りを行う。


さらに、コジローは転移して剣撃を繰り出す練習を、繰り返した。


瞬時に移動し、移動した先で即座に剣を振る、振り終わると同時に即座に次の転移場所を決めて転移、斬りながら次の転移場所を決めて転移・・・と繰り返していく。更に、加速の魔法も同時に使っていく。


転移は希少な魔法なのであまり人前で使わないほうがよいとゼフトは言っていたが、多数の敵を相手にするとき、このような戦い方が必要になる事はあるだろう、慣れておくに越したことはない。




「恐ろしい技だな」


練習に集中していたコジローは、マドリーが庭に出てきたのに気づかなかった。

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