なぜか剣聖と呼ばれるようになってしまった見習い魔法使い異世界生活(習作1)

田中寿郎

始まりの章

第1話 初めての戦闘~ゴブリンくらいは敵じゃない

森の中。


地面に魔法陣が浮かび、一人の青年が出現する。


『コジロー、準備は良いか?』


声が響いた。


「いつでも」


姿なき声にコジローと呼ばれた青年は答え、腰から短剣を抜いた。


短剣は、青年が魔力を込めると光を放ち、刀身が伸び始める。


小太刀 のようであった剣は、日本刀ほどの長さになり、それでもさらに伸び続け、ついには異様な長剣へと変貌を遂げる。


コジローは八相に構え、呟いた。


「剣には多少自信がある・・・『小次郎が行く』はバッチリ読み込んでる!」


子供の頃から大好きだった剣道マンガにあやかって、この世界ではコジローと名乗ることに決めたのだった。


知識は万全───とは言っても、マンガから得た知識だけで、実はコジローは実際に剣道をやったことはなかったのだが。つまり、剣術に関してはコジローはド素人である。


もちろん本人もそれは分かっており、「自信あり」と嘯いたが、それは半分冗談であった。


ただ、『小次郎が行く』は真面目な剣道マンガだったので、知識はそれほど間違ってはいないはず。何も知らないよりはかなりマシだろうという思いはあった。




青年の周囲に複数の魔法陣が浮かび、十数匹のゴブリンが現れた。


「ちょっ、多くないですか・・・? 師匠?」


『"試運転" にちょうど良かろう。その程度は独りでなんとかできんとこの世界で生きていけんぞ?』




突然転送されて来たゴブリン達も戸惑っていたが、やがてコジローの存在に気付き、棍棒を振り上げ襲いかかってきた。棍棒と言っても、葉もついたままの、ただの太めの枝なのであるが。


コジローは力任せに長剣を水平に振る。正面から近寄ってきたゴブリンの首が飛ぶ。


長剣であれば遠い間合いから攻撃できるのでリスクが少ない。そう考えたコジローの狙い通り、長剣の攻撃が先に当たる。


返す刀でもう一匹。


クビを狙ったつもりが逸れて肩に当たったが、そのまま一気に上半身を切り飛ばしてしまう。持っていた棍棒も途中からキレイに斬りとばされている。


恐ろしい切れ味である、ほとんど抵抗も感じない。


『この世にあるモノはおよそ何でも斬れる』


と、この剣をくれた "師匠" が言っていた。


本当に "なんでも斬れる" なら、長剣にして振り回すだけでほぼ無敵だろうというコジローの予想は当たっていた。


ましてや相手はゴブリンである、それほど苦労することはない。




ゴブリンというのは、この世界ではかなり弱いモンスターである、一対一なら一般人でも勝てるだろう。


しかし群れで行動するので、弱いと言っても多数に囲まれると危険である。


コジローは剣の達人でもなんでもない。"背後からの攻撃を察知してかわす" などというマンガのような芸当はできはしない。


背後に回られるとやっかいだと警戒していたのだが・・・そもそも、最初から取り囲まれた状態でのスタートとなってしまったのだ。


そして、危惧していた通り、コジローの背後にいたゴブリンの攻撃がコジローに襲いかかろうとしていた。


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