ハイスペック陰キャ、無人島で逆転する
急川回レ
第1章 上村一輝 篇
第1話
「ぎゃはははっ。にしても田村のヤツ、マジウケるよな。誰がどう考えたって嘘告白だってわかるってのに。なーにが「ごめん。みんなの気持ちは嬉しいけど応えられない」だよ。あんな陰キャがモテるわけねえっつーの」
客船で昼食を取っているときに上村
彼はクラスの中心人物だ。赤髪にピアスと目立つ格好ながら、運動も勉強もできる。
ユーモアもあり、女の子たちからもよくモテる。
正直なことを言えば俺は彼が苦手だ。
どうして上村のような男が女子からの人気が高いのか理解ができない。
と思うのはやはり、陰キャの烙印を押された俺、田村ハジメの妬みなのだろう。
言いたいことは山のようにあるものの、口を挟んだところでぼっちが加速するだけだろう。
それはこれまでの経験から学んでいる。
俺は昔から普通じゃなかった。その他大勢の価値観とズレているらしい。
空気を読め、今はノるところだろう、なんて言われてきた数は数えきれない。
俺からすれば空気は読むものじゃなく、吸うものだろう? そう答えるとますます孤立化が進んだ。
もちろん人生たった一度きりの高校生活を謳歌するため、努力を怠ったことはない。
中学時代にぼっちになったであろう原因を全て洗い出していた。高校では友人をつくる、そう決意していたからだ。
しかし、その努力は入学初日で水の泡になる。
自己紹介で渾身のギャグをやってみた結果、見事に撃沈。
あまりの絶対零度に冷凍庫に放り込まれてしまったのかと思ったぐらいだ。
結果、高校デビューは見事に失敗に終わり、俺の評価は【陰キャの変なヤツ】になってしまった。
けれど最近ではこのままでもいいかなと思い始めていた。
なぜなら、
「まさか私の告白を本物だと思い込んで振るなんて本当に身のほど知らずだわ。というか一輝、元はと言えばあなたが悪いのよ。良いこと思い付いたって、私たちに偽告白をさせるから」
「そうそう。あーしマジで鳥肌立ってたんだから。二度とあんな趣味の悪いことさせないでよね。ほらっ、結衣もそう思うっしょ?」
「うっ、うん。そうだね……」
彼女たちの名前は順番に黒石
高校三大美少女様たちだ。
俺はつい先日、彼女たち三人から同時に告白をされた。
人生で初めての異性から告白。それも高校でトップクラスの美少女三人からだ。
舞い上がるなという方が無理な話だ。冷静でいられるわけがなかった。
告白を受けてから俺は真剣に悩んだ。
そもそも俺は彼女たち三人のことをよく知らない。
そんな状況で付き合ってもいいものか。
しかし、そんな思考そのものが普通の高校生ではないのではないか。とりあえず付き合ってみるのが今どきの高校生のはずだ。
けれど三人のうち、誰か一人を選べば二人に悲しい思いをさせてしまう。
その思考が最後まで頭から離れなかった。
だから俺は決断をした。
痛み分けだ、と。
全員の告白を振れば少なくとも三人の間に優劣はつかない。
悲しみの差を最小限にできる。
青春というものを送ってみたかった俺にとってそれは苦渋の選択だった。
なぜなら俺はやっぱり彼女が欲しいからだ。
けれど、今回の件は俺の中で容認できる一線を超えていた。
偽告白など他人の想いを踏みにじる行為だ。
そんなことをする女と付き合うなんてこっちから願い下げだ。
だから俺はぼっちでも構わない。
空気が読めなくとも、ノリが悪くても気にしない。
これ見よがしと騒ぐ彼ら彼女を横目に空になった食器とトレイを返却口に持っていこうと立ち上がった瞬間。
『生徒の皆さんは今すぐ自分たちの部屋に戻ってください! 繰り返します、生徒の皆さんは今すぐ部屋に戻ってください!』
緊急事態が発生したであろうことは客船のスピーカーから響く乗務員の慌てた声ですぐにわかった。
長い長い、地獄の修学旅行が始まった瞬間だった。
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