『オリジナル大富豪』

1

「オリジナル大富豪をしましょう」


 四稜郭は束ねられたトランプを右手から左手へ、手品師のように一枚一枚跳ね飛ばしながらそう切り出した。本日のボードゲーム部の活動内容が、それらしい。


「オリジナル大富豪?」


 大富豪なら分かる。記憶喪失の僕にすら分かる、有名なトランプゲームである。

 場に出された札よりも大きな数を持つ札を順に出していき、先に手札がなくなったプレイヤーが勝ちというシンプルなルールに加え、スートや数字ごとの特殊な効果や、毎ラウンドごとの勝敗によって次のラウンドの有利不利が変わるという特徴を持つ遊びだ。

 七並べやババ抜きと比べるとゲーム自体の歴史は浅いが、知名度は遜色ない。


「大富豪レベルの不朽のタイトルにオリジナルと冠するだなんて、随分と挑戦的だな」


「いえいえ、むしろこの遊びは、かの遊戯が広く普及しているが故に生じる瑕疵かしを突いたものですよ」


 と言うと、四稜郭は握っていたトランプを机の上に裏向きにバラまき、その中から一枚を取り出した。選ばれたのはハートの八だった。


「例えば、この八の札。この札を、先輩はどう見ますか?」


「どうって、大富豪においてって意味だよな?」


「それ以外にどういう解釈があるんですか」


「いや、ハートの八って、淫紋を刻まれた女の子みたいだよなとか」


 カード全体を人の身体と見立てた時に、真ん中下のほうのマークの位置が、ちょうどそれっぽく見えるのだ。他の数字では、その位置は空白なことが多く、最も近い形式の十では、やや低すぎる。


「相変わらずの陋劣ろうれつぶりですね。そんな言葉を聴きたいわけがないでしょう」


 僕の斬新な発想を、四稜郭はお決まりのように呆れて流す。


「でもさ、四稜郭。実際、ハート柄なんて今時、トランプか、アダルトコンテンツぐらいにしか使われていないんじゃないのか?」


「そういう偏見って、一体どこで身につけてくるんですか? 私はそんな風に育てた覚えはないのですが」


「僕はお前に育てられた覚えがねえよ」


 売り言葉に買い言葉でそう言ったものの、しかし、今の僕の構成要素のほとんどは、四稜郭から得ているので、彼女に育てられたと言って言えないこともない。

 特にここ数日の四稜郭の振る舞いは、まさしく親代わりでもあった。

 僕が彼女に告白をして、正式にお付き合いを始めて(再開して?)からというもの、四稜郭は僕の身の回りの世話を、より一層、甲斐甲斐しく行ってくれている。

 両親が忙しく家を空けがちな我が家に毎朝訪ねてきては、目覚めの世話から朝食、昼食となるお弁当の準備をする。それに留まらず、未だに記憶が定着しづらい僕に代わり通院のスケジュール管理をこなしてくれたり、果ては入院で遅れていた学習過程の埋め合わせまで手伝ってくれている。後輩なのに。

 些かやり過ぎなんじゃないかと心配になる程だけれど、四稜郭にとってはそんな振る舞いは、彼女として当然の行いであるようだった。お付き合いをしている以上、相手に尽くすのは常識だと言っていた。

 それはそれで、偏った常識――偏見だが。


「まあ、常識だとか、偏見だとか、そんなものは、どうとでも変わるものだろ」


「それはそうでしょうね。常識とは、十八歳までに身につけた偏見のコレクションである――とは、私の遺した名言です」


「さりげなく権利を主張するなよ」


「ふん、要りませんよ、そんな言葉」


「歴史的名言にすごいこと言うな!?」


 アインシュタインに謝れ。


「私ならそんな無責任な発言はしません。実際、今やその言葉を盾に、愚かな偏見を振り回す無知蒙昧むちもうまい蔓延はびこっているでしょう」


 くるくると、横髪を弄びながら四稜郭は言う。

 本日の四稜郭は、短い前髪を左右にかき分けておでこを丸見えにし、後ろ髪をちょこんと縛ったスタイルだ。小型の室内犬のような愛らしい見た目ではあるが、語っている内容は、ドーベルマンのように渋い。


「大抵の人は、コレクションと呼ぶに値しないたった数品の偏見だけで常識を語っていますが、コレクターと呼ばれるには、上質な品々を収集する必要があります。それだけの偏見コレクターが、一体どれほどいますか?」


「言っている内容には概ね同意だけれど、そもそもアインシュタインも、そういう意味で言った発言じゃなかったはずだろ」


 常識とはあくまで偏ったものの見方の積み重ねでしかないので、常識という言葉そのもの、認識そのものを疑うのが大事だという話だったはずだ。


「それに、その話が一体、今日のゲームとどんな風に関係があるんだよ」


「先に横道に逸らしたのは先輩のほうですが――とはいえ、今回のゲームはまさしく、常識を取り払うことを主題においたものですよ」


 散らばったトランプを再び束ねながら、四稜郭は言う。


「大富豪というトランプゲームは、非常に有名です。人口に膾炙し、広く遊ばれています。しかし、我々はこの遊戯に関して、共通する認識を持てているでしょうか」


「たしかさっきもそんなことを言っていたな」


 ハートの八を見て、何を思うか。


「大富豪でなら、八は『8切り』だよな」


「知っているじゃないですか」


「それぐらいはな」


 大富豪は場にある札よりも大きな数字を持つ札を順に出していくゲームなので、ある程度、手札を配られた段階で有利不利が決まってしまう。札の強弱が絶対的で、小さい数字ばかりを集めたプレイヤーにチャンスが生じない。

 そんな問題を解消するために、一定の数字に特殊な効果を持たせるルールが存在する。

 その代表的なものが『8切り』で、八の札を誰かが出した時点で流れを切り、そのプレイヤーが新たに場に札を出すところから再開するというものだ。

 新たに場に出す札は何でもいいので、手札にある弱い数字を処分したり、二枚ずつ出す流れを作ったり、八を支点に戦略を組み立てることができるようになる。

 このようなルールを入れることで数字が小さい札ばかりを配られたプレイヤーにも勝ち目が生まれたり、単純に、数字が小さい順に出していくという単調な手順の中に変化が加わりゲーム性面も補強されている。


「他にご存じのルールは?」


「そうだな……『ジャックバック』とか『7渡し』とかもあったはずだろ」


 この辺りは記憶が――知識が曖昧なので、やや茫洋としてしまう。


「Jを出して以降、そのラウンドの数字の強弱が反転する『ジャックバック』と、七を出した時に後続のプレイヤーに任意のカードを押し付けることができる『7渡し』ですね」


 四稜郭は手元にあるトランプを特に確認した素振りもないまま、その中から七とJを取り出しつつ言った。本当に手品師になる気だろうか。


「他には手番の回りを逆にする『9リバース』や、次の人の手番を飛ばす『5飛ばし』なんかも、有名どころではありますか。珍しいところだと、『ろくろ首』や『砂嵐』などもありますね」


「そこまで来ると、正直、記憶の片隅にも存在しないな」


 前半はともかく、後半は名前を聞いてもどんな効果なのか想像すらできない。


「ああ、分かったぜ、四稜郭。つまり、大富豪って、有名なゲームではあるものの、その根っこの部分だけが広く伝わってしまっていて、全てのルールを把握している人がいない――だから、大富豪をちゃんとプレイすることができないとか、そういう話じゃないのか?」


「全然違います」


「全然違うんだ」


 知った風なことを言ってしまった。恥ずかしい。


「そもそも今言った効果のうち、公式なのは『8切り』だけで、後は全てオリジナル――地方限定のローカルルールに過ぎないんですよ」


「そうなのか」


「より正確に言えば、地方地域により異なっていた遊び方の中から、日本大富豪連盟が取り上げたのが『8切り』だったという順序ですけれどね」


「そんな連盟があることすら知らなかったよ」


 たぶん、記憶を失う前から知らなかったはずだ。

 僕の記憶喪失は、エピソード記憶――過去の出来事や、思い出に関する記憶を引き出せなくなるというもので、定着した知識に関しては、忘れていない。

 いや、四稜郭が話の出所である以上、かつての僕も聞かされている可能性はある。その場合は、ただ覚えていなかったというだけになるが。四稜郭の話を忘れるだなんて、なんて怠慢な男だ。僕だけど。


「それほど有名な連盟ではないですからね。無名で、権威を持たない連盟なんて、果たして存在する意義があるのか甚だ疑問ですが」


「そこはそれ、大富豪の公式大会とかで活躍しているんだろ」

 今日の四稜郭は、やたらと大きなものに噛みつこうとするな。見ていて危なっかしい。

 刺々しい言葉使い自体はいつも通りだし、四稜郭の毒舌は鍼灸しんきゅうのように心地好いものなのだけれど今日はとにかく鋭い――もしかして、機嫌でも悪いのだろうか。

 何か怒らせるようなことでもしたかな。覚えはないが、僕の記憶ほど頼りないものもない。

 しかし僕の心配をよそに、四稜郭は素直に頷いた。


「ですね。本来は私たちプレイヤー側が、連盟に寄り添うべきなのかもしれません」


 四稜郭の心中は分からないが、そう肯定したうえでこう続ける。


「それを怠ってしまっているがゆえに、私たちは大富豪をする度に、毎度、不要で不毛な議論を行わなければいけなくなってしまうのですから」


 議論? およそ遊びの準備で必要なものとは思えないのだが。


「ゲームをする前に議論がいるって、穏当じゃあないな」


「いえ、しかしそれが意外と盛り上がってしまうんです。その議論が芥もくたであれば、ここまであげつらうこともありませんでしたが、むしろそれがゲーム本編であるかのように、白熱してしまう――」


 珍しく憂いを帯びた口調だ。

 怒っているというよりも、悲しんでいるような。

 厳密に言えば、その感情の源泉は、どちらも同じだけれど――。


「大富豪を行う際に切っても切れない議論とは《ローカルルールをどこまで採用するのか?》のことです」


 どんなシチュエーションで、どんなグループで開催する時でも、確実に行われるその議論。

 それは大富豪の遊び方そのものよりもある種、普遍的で不変なものだという。


「ルールに対する共通の認識が得られていないがゆえの瑕疵ですね。プレイヤー間で同じ来歴を共有していない限り、《私のところではこうだった》《僕は違った》《俺のところのこのルールがあったほうが面白い》という議論が、確実に交わされてしまいます」


 ああ、そういうことか。

 ようやく四稜郭の言いたいことを理解した。


「つまり」


 と、僕は満を持して、再び言う。


「つまり、このゲームが流行りすぎていて、そして派生がありすぎていて、同じゲームなのにそれぞれが別々のルールで遊んでいて、自分の触れてきたルールが常識だと誤認しているがゆえに、そんな議論が巻き起こるわけだ」


「その通りです」


 非公式の場面においては、連盟ルールでどう裁定されているかなんて、関係ないのだろう。あくまで遊戯の域を出ない場なら、むしろ公式の遊び方なんて否定的に見られてしまう。


「しかし、私が問題視したいのは、そこですらありません」


 沸々と、混み上げる感情を押し殺すように唇を噛みながら、四稜郭は言った。


「遊び方が異なるだけなら、良いでしょう。ルールの擦り合わせで盛り上がるのなら、それも構いません。私が許せないのは――私が許せないのは、今、その場にいる友人を蔑ろにして、別の友人との思い出や、同郷の知人との記憶に浸ることが、公然と認められていることです」


 だってそうでしょう? と、だんだんと白熱してきた四稜郭が机の上に身を乗り出す。


「自分が今まで遊んだルールを掘り返すということは、昔、別の人と遊んだ時のことを思い出しているということです。今、ここにいる私を放り出してそんなことをするだなんて――ムカつくじゃないですか」


 いや、ムカつくって。

 友達に、他の友達がいることすら認めたくないらしい。


「……可愛いなあ」


「私は真面目に話していますよ」


「僕も真面目にそう思っただけだよ」


 淡泊なようで意外と嫉妬深い、そういうところも四稜郭の魅力の一つだ。

 四稜郭自身も、僕と違って友達が少ないタイプではないし、明らかに過去の経験に由来するそんな感情を僕に見せている以上、四稜郭が忌み嫌った行為を自分自身でしていることになるのだけれど。

 四稜郭がこうも感情を露わにするのは僕の前だけなのだから、愛らしく見えるのも仕方ない。

 何より四稜郭朱姫なのだから、何をしていても可愛いに決まっている。


「真面目に言っているのなら、真面目に聞き入れます」


 四稜郭は怒りを収めて座りなおす。褒められると弱いのだ。

 そもそも、今までの話は四稜郭の実体験で、怒っていたことも嘘ではないのだろうけれど、あくまでゲームの導入のための演説だ。

 ここからが、むしろ本題である。


「それで? 今日のゲームは一体、どんな遊びなんだ?」


 なんだかんだ、四稜郭オリジナルのゲームに触れるのは今回で二度目だ。

 一度目の『思い出すごろく』以来、部活動をする機会はあったが、市販のボードゲームばかりだった。それはそれで面白いのだけれど、四稜郭が作ったゲームを遊ぶ特別感は越えられない。


「今日の『オリジナル大富豪』はですね、先輩。大富豪で最も盛り上がる瞬間ともいえる、ローカルルールの挙げ合い自体を、ゲームにしたものです」


「でもそれ、お前が一番嫌いな部分じゃないのか?」


「嫌いなことからでも、好きな要素を見出していくのが、クリエイターの本質ですよ」


 ふふん、と得意げに胸を張る四稜郭。

 以前、二度とクリエイターを名乗るなと言われたのを都合よく忘れているようだが、それほど自信満々に語るほど、出来の良いゲームなのだろうか。

 未だにぴんと来ていない僕に気づいたのか、四稜郭は更に言葉を重ねる。


「この『オリジナル大富豪』には、ルールがありません。本来の大富豪から、ローカルもセントラルも関係なく、最低限の骨子以外を取り除いた状態でゲームを開始します」


「最低限って言うと――数字が低い順にカードを出していく、ってところか?」


「いい感性をしていますね」


 四稜郭が素直に褒めてくれるが、当てずっぽうが偶然掠めただけだ。

 それも、どちらかというと心配から出てきた予想である。


「数字を順番に出していくだけって、だいぶゲーム性が低そうだけど……」


 四稜郭のゲームクリエイターとしての腕前については、僕の中で賛否が分かれている。

 前回の『思い出すごろく』は僕専用の記憶トレーニングとして貢献してくれていたし、あれだけのサイズのゲームを独力で組み上げた技術力は認めるが、肝心のすごろく部分に、やや欠陥があった。

 今の説明だけだと『オリジナル大富豪』も、同じ轍を踏んでいそうだが。


「カードを配られた時点でほぼ勝ち負けが決まっちゃうだろ。そんな風にならないために『8切り』だとか『ジャックバック』だとか、様々なルールが制定されていたわけだし」


「もちろん、そんなことは分かっています」


 そう言うと、四稜郭はトランプを三角に立てて、タワーを組み上げ始める。

 どれだけ手持ち無沙汰なんだ。


「一ラウンド目は、たしかに数字を順番に出していくだけのゲームです。配られた札から出せるカードを出し切ったプレイヤーが上がりになる、配牌が全てを分ける勝負なのですが――ラウンドの勝者は、ゲームに一つ、ルールを追加することができます」


 大富豪の代表的なルールに、一位の『大富豪』が次ラウンドの開始時に『大貧民』から強いカードを徴収できるというものがある。前のラウンドの順位が次以降に影響を与えるというのが、大富豪の大きな特徴だ。

 そこを踏襲しているわけか。

 ふむ、と僕は一考する。


「例えば『8を出したら、場を流すことができる』とかを追加できるわけだ」

「そうですね。もちろん『7切り』でも『9切り』でも構いません。だからこその『オリジナル大富豪』ですから」


「でも『前のラウンドの勝者が次のラウンドも勝利する』みたいなルールを追加したら、終わっちゃうんじゃないのか?」


 あえて突拍子もないルールを挙げてみる。前ラウンドの勝者が好きにルールを追加できるという条文だけでは、こんな風な文言を挙げてくる人だっていてもおかしくはない。


「その場合は、本当に終わりですね。その時点でゲーム終了です」


 四稜郭はそんな意見は想定してあったようで、あっさりとそう言ってのけた。


「厳密に言えば、前ラウンドの勝者はルールを提案することができる――になるんですかね。ルールを提案し、他プレイヤーに承認を受けなければ、採用されません」


「なるほどね。まあ、このゲームを遊ぶ時にそんなことを言い出すプレイヤーがいたら、トロール以外の何者でもないし、妥当なところか」


 トロール。いわゆるゲームにおける荒らし行為、ゲーム性を度外視した迷惑行為を繰り返すプレイヤーをそう呼ぶらしい。


「そもそもカードゲームやボードゲームのような、テータテートで行う対人ゲームで、対戦相手への配慮を欠くのは勝敗以前の問題でしょう。ゲームというのは、突き詰めていけばコミュニケーションツールでしかないのですから」


「それも、昨今の電子ゲーム、オンラインゲームの隆盛を見ると、その限りではないんだろうけどな……たしかにアナログゲームで礼節を欠いたら終わりか」


 対戦相手が離席して、ゲーム終了だ。

 それを勝ちだと見做せるのなら構わないけれど、そんな空虚なことはないだろう。


「まさしく、大富豪の前に行われるやりとりそのもののゲーム化だな」


「追加するルールは、カード効果だけでなくても構わないというのが、やや異なるかもしれませんね。本家のものから借りると、同じ数字の札を四枚同時に出すことで恒久的にカードの強弱を入れ替える『革命』や、『同じ数字の札を同時に何枚も出してよい』、『同じスートの連番は三枚以上から同時に出してもよい』みたいなルールも、追加することができます」


 それでゲームについての説明は終わったようで、四稜郭はようやく一息ついた。

 自分の頭より高く組み上げていたトランプタワーを、指先でつん、と崩し、山札としてまとめ始める。そんな四稜郭を見ながら、僕は思う。

 これは意外と、面白いんじゃないのか?

 そもそも大富豪において一番盛り上がるのが、どんなルールを採用するのか話し合っている時間だと言うのなら、そこ自体をゲームにしてしまおうというのは、コロンブスの卵のような、発想の大転換だ。


「質問がなければ始めようと思いますが」


「一つ、聞いてもいいか?」


「もちろん、一つと言わずいくらでも」


「まだプレイしていない時分に言うのもなんだけど、このゲーム、かなりの完成度だろ。お前の言ってた、商品化とかしないのか?」


 このボードゲーム部の部活動の本来の目的が、たしかそれだったはずだ。

 オリジナルボードゲームの制作と販売。

 四稜郭と僕の二人で、不労所得で暮らしていくこと――というのは、さすがに冗談だとしても。プレイしていなくともここまで面白さが確信できるゲームなんだったら、商品化すればそれなりにヒットしそうなものだが。

 それともこれは、未プレイがゆえの勇み足で、実際には欠陥のあるゲームなんだろうか。

 果たして、四稜郭は僕の問いに答える。


「いえ、『オリジナル大富豪』は商品にしていません――することができません」


「何でだ?」


「だって、考えてもみてください」

 まるで子どもに諭すかのような、はきはきとした、優しい口調で四稜郭は言う。


「このゲームに必要なものは、トランプだけです。それで一体、何を売れというのですか?」

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