第五話 西へ――――。④
薄暗い森の中を鞭と車輪のけたたましい音と共に馬車は疾駆する―――。ゴブリン達はどうやらこの速度に追いついてこれないようだ。ボブが後ろを確認すると引き離す事に成功し、ゴブリン達が大分小さく見えた。迂回した分予定より遅れるが集落の位置は大体分かるからあとはそこを目指せば――――、ボブがそう思った矢先の事だった。
「まさか――――、誘導されたのか……。」
辿り着いた先は断崖絶壁であった。橋のようなものはなく、集落へ行くには来た道を引き返すしか選択肢が無かった。荷台の中のビアンカからもその様子は把握できた。
「聖女様はそのまま荷台でお待ちくだせえ。ゴブリン達はこのボブが軽く蹴散らしてやりますけえ。」
ボブはそう言ってニッコリ笑った後、颯爽と馬車から降り、馬車とゴブリンの群れの間に仁王立ちした。この状況において何一つ役に立つ事ができないビアンカは自分を情けなく思い、半泣きでボブの無事を祈る事しか出来なかった。今度は木の葉が擦れ合う音ではなく、確かにせせら笑いを浮かべながらゴブリン達が木の影から姿を現した。
「おあがりよ!」
先手必勝―――。巨大なバトルアックスを握った巨躯のボブが重戦車を思わせる勢いでゴブリンに襲い掛かる。ドゴォン!という轟音と共に二匹のゴブリンが一瞬でぺしゃんこになった。ゴブリン達はその様子を見て反撃―――、はせず、ボブと一定の距離を保って扇形のような陣形を敷く。
「さあさあ遠慮せんで!おあがりよ!」
ボブはさらにその陣のど真ん中へ突進していく。その刹那―――、一匹のゴブリンがボブと馬車が離れた瞬間を狙って回り込むような形で馬車に向かって行き、持っている短剣で幌を切り裂いた。ビアンカの姿が丸見えになった。
「このぉ!」
踵を返したボブが鬼の形相でそのゴブリンを叩き潰す。仲間が次々と殺されているというのにゴブリン達は相変わらずせせら笑いをしながらボブと一定の距離を保った。
「セコイんだよぉ!」
今度は馬車とあまり離れないような距離からゴブリンに攻撃をしかける。すると悟られないよう陰に隠れながら木に登っていたゴブリンがビアンカに狙いを定めて矢を放った。ビアンカは咄嗟に急所を守るような防御態勢を取る。ブスっと鈍い音がした―――。しかし痛みが無い事にビアンカは気づいた。
「ボブさぁん!!!!」
矢は大木のようなボブの腕を貫通し、ポタポタと血が滴り落ちていた。
「いやぁやられたやられた。ハハハ。間一髪でしたね聖女様。」
矢が腕を貫通しているというのにボブは相変わらず屈託のない笑顔をビアンカに見せた。
私は国を――、人々を護る聖女のはずなのに―――。私のせいでボブさんがこんな大怪我をして――――。命懸けで戦う人を目の前にして何も出来ないなんて―――。ビアンカは大粒の涙をこぼしながらボブに言った。
「私を……聖女様と呼ばないで…。私は……ビアンカです…。」
「ほいだらビアンカ様ぁ。泣かないでくだせぇ。この戦いが終わったら―――、またダメルアンのお茶を飲みに行きやしょう。今度は馬車から降りてもらいますよぉ。茶屋で飲むのがまた美味いんですから。」
そう言うとボブはくるっとゴブリンの群れの方を向き、腕に刺さった矢を勢いよく引き抜き、大地を揺るがすような声で言い放った。
「我が名は元王族直属騎士団団長、ボブ・マッカートニー!教主アザールの命により命を賭して聖女ビアンカをお守りする!
死にたい奴だけかかってこい!!」
ゴブリン達からせせら笑いが消えた。次の瞬間キキィーと怒号をあげながらボブに襲い掛かる。
「おあがりよ!おあがりよ!」
200斤はあろうかというバトルアックスを振り回し、ボブはゴブリン達を駆逐していく。陣形を崩したゴブリン達はその半数を失い、勝負は決したかに見えた。しかし次の瞬間―――、ボブが片膝をつく。
「これは……、毒か…。さっきの矢の…。小賢しい真似を…!」
”毒!?毒がボブさんの体を蝕んでいるというの!?それなら…!”
意を決してビアンカは馬車の荷台から降り、浄化の祈りを施そうとした。
「キキィー!!」
その瞬間木のつるをターザンのように使い三匹のゴブリンがボブに体当たりした。ボブは突き飛ばされ崖から転落した。
「ビアンカ様ぁぁあああああああああ!!」
ボブの悲痛な叫びが森にこだまする。ビアンカはその場に膝をついた。
× ×
「キヒヒヒ。」
再びせせら笑いを始めたゴブリン達が短剣を片手にビアンカにじり寄ってきた。
”ああ……私はここで死ぬのだな。ボブさんには本当に申し訳ない事をしてしまった。”
死んだらいの一番に謝りに行かねば。短剣を振り上げたゴブリンを確認した後、ビアンカは死を覚悟し目をそっとつむる。しかし、その直後に聞こえてきたのは衣服を裁断する音だった。
”!?!?!?”
切られたのはビアンカの肉体ではなく、ビアンカの衣服だった。上半身が露わになった事に気付いたビアンカは両手で胸を隠そうとする。しかしそれも叶わない。ビアンカの左右に居るゴブリンがビアンカの腕を引っ張り、馬車の荷台に仰向けに乗せた後、ビアンカが大の字になるように手足を木のつるで荷台に縛りつけた。
「い…嫌っ…!!」
魔物に犯されるくらいなら死んだ方がマシだ。ビアンカは意を決して舌を噛もうとしたがそれもゴブリンに押さえつけられ叶わなかった。
そしてゴブリン達はゆっくりとビアンカを嬲り始めた……。
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