聖女である私を追放した王国は魔物に蹂躙されましたが、私は流刑地でイケメン暗黒騎士様に溺愛される日々を送っています。

ZERO ―叛逆のカリスマ―

第0章『バロンの聖女』

第一話 聖女ビアンカ追放

「今、何とおっしゃいました?」


 あまりに突拍子もない発言に耳を疑った。

 ビアンカの焦燥をよそにスネ王子はやれやれといった表情でため息をつき、鶯色の髪をかき上げて面倒くさそうにもう一度言った。


「だからお前、聖女やめていいよ。」


「し、しかしっ…!」


「しかしもカカシもあるはずがなかろう。これを見よ。」


 スネ王子が手をかざすと側近の近衛騎士達はやにわに書類を広げだした。それは聖女の祈りの信憑性を問う論文に始まり、聖女に割り当てられた税金に対しての投書、はたまた聖女という役職に不満を持つ人々の署名等であった。



 ビアンカは愕然とし膝をつく。だがどれだけ人々に蔑まれようと祈りをやめるわけにはいかない―――。

 祈りをやめてしまったら―――。


「王の許可なくこのような事はっ!」


「僕は父上からこの件については一任されている。僕の発言は即ち王の発言と心得よ。」


「そんなっ!?」


 そう言ってスネ王子は国王のサインが入った書類を突き出した。

 国王様までもが聖女の力は不要とお考えなのか…。


「祈りを怠ればバロンの地の魔物が―――!」


「魔物が活性化しバロンに危害を加えると申すか?テンプレの三文芝居はもう聞き飽きたわ。詐欺のような真似までして金が欲しいならそなたはいっそ自己破産でもしたらどうだ?バロンは破産者にも人間として最低限の生活を保障しているぞ?」


 側近の近衛騎士達がドッと笑う。

 ビアンカはその笑い声で抗う力を完全に失った―――。もう―――、どうにでもなれ―――。


「して小娘。どうする?そなたが聖女の祈りに力など無いと自白すれば我がバロンによる施しを約束しよう。そうでないならば…。」


「そうでないなら…?」


「バロンの庇護が及ばぬ地まで飛んでもらうまでよ。そうさの、不届き者や浮浪者が流れ着くというニシナーリなどはそなたにうってつけではないか?」


 嘘の自白など出来なかった。何代にも渡って祈りを捧げ国を護ってきた先代達を思えば出来るわけがなかった。


「自白する気は無いか。それもまた良し。では後日正式の書類とニシナーリまで馬車を用意しよう。束の間のバロンの生活を存分に味わうがよいぞ。ハッハッハ!」


スネ王子と近衛騎士達は高笑いしながら神殿を後にした――――。

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