35.アキラ、三つの心。

 そうして、一通り芝を刈り終えた僕は、若干ながら精霊の力の使い方のコツがわかってきた。


「宿主、私の力の要領を得たようで安心しました。」


と、精霊さんが話しかけてくるので、得意げに


「バッチェ、大丈夫だよ。」


そう答える。使いこなせるようになってからわかったのだが、コツさえ掴めてしまえば応用が効きそうな感じだと考える。


いずれは、おじいさんが披露したようなブーメランカッターみたいなことも、出来るようになるのではないかと思いを馳せながら、


覚えたてのことを忘れないように電気を足に這わせて、スゥ・・・素早いおじいさんの歩みに置いていかれないように僕も素早く駆けるのであった。


スゥ・・・素早いおじいさんをしばらく追い掛けたの後、ツリーハウスの家の前まで来たところで、おじいさんは、


「お兄さん、今度は自分の力さで上がってみけれ。」


と、試練を与えられる。


 古い神社に生えてそうな大きな巨木の上に鎮座する家まで、飛べということだが、今の僕には出来ないことではない。そう自分を信じて、脚に意識を集中する。


すると、じんわりと暖かくなり始め、電力を感じる。


そして、高く飛び上がるを頭の中でイメージし、飛ぼうと決心した瞬間。あの夏の記憶が蘇ってきて、足が震え鼓動が早くなり、心の器に淡い紫の点が徐々に広がっていく。そして、気が付けば、手足が寒くなり、呼吸をもっと早くしなきゃと頻呼吸、どんどん身体は混迷を極めていく。意識が朦朧となりはじめた次の瞬間、


「おにいいいいさああああああああん。」


と、おじいさんが大声を出してくる。


「お兄さん、怖いのはわかる。だが、これだけは知っとってけ。

お兄さんが、もし落ちてもわしが受け止めるけ安心すけ。」


紫の心の中に、紅い朱色がポツリと一粒落ちる。


「宿主、飛ぶか飛ばないかはあなた次第です。そんなあなたと私は運命共同です。」


と、精霊さんは僕を優しい声で諭してくれる。


今の心の中は、紫の恐怖心や不安が三分の一、朱の安心、安全が三分一・・・。残りの空白の三分の一に自分の経験、根性、勇気の三つが重なり、自信と成りて、

友する対する心と混ざり合う。


その心は、少し飛ぶことに恐れている。だが、それがあるから緊張感を思って望める。


その心は、少し飛ぶことに安心を感じている。だが、それがあるから余裕ができて望める。


その心は、少し飛ぶことに自信を持っている。だが、それがあるから己を信じ、全力が出せる。


僕は平常心を取り戻して、呼吸を整える。


「おお自力で立ち直ったようですね、宿主。それでは呼吸を合わせて、参りましょう。さん、に、いち。」


精霊さんと息を合わせて、足裏から力を解き放つ。


その次の瞬間、大地蹴り上げ、空高く舞い上がり、迅雷が龍の如く昇っていく。


TAKE ME HIGHER


身体は宙を飛び、望む場所へと駆けて着地する。飛ぶというよりか、大きくジャンプしたというのが、正解だろう。だが、それでも、僕の中では空を飛んだという感触であった。


玄関に見事着地した僕は、その浮遊感に鳥肌が立ちながらも下を見る。


さっきまでいた所は、はるか下にありその事実にやはり身震いする。だが、緊張から解放されたと同時に、心地よい達成感が全身を包む。


飛べた、僕は飛べた。あの怖かった空に飛べたんだ。


「お~~~~い、お兄さん。やったべな、うめかったうめかったぞ。」


すっかり下に居たおじいさんの姿が、小さいとぼぉーーと眺めていたら


ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐわわわわわわわわわわンンンンンンンンンンンン


と、一瞬で大きくなり、目の前まで来る・・・。


思わず、僕は、


「うぉっぉぉおおおあおあおあおお。」


と、肝っ玉が冷えたかと思うくらい驚いた。


「なにをお兄ちゃん、驚いとるんや。さぁさぁ、刈った薪さそこに寄せてけれ。」


言われがまま、薪を所定の場所に置けば、ふぅ~~~。小休憩。


蒸れた布巾を脱がし、外の新鮮な空気を肌に感じながら、遠くまで広がる湖の景色に見入ってしまうのであった。

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