弓極狩人と雷精霊・THE ULTIMATE HUNTING

なんよ~

0.アキラ、炎熊を狩る。

 真っ赤に燃える大地を駆け抜けていく。その先はまだ熱を帯び、赤く爛れる炎が僕を導く。


その残火は、来る者を拒むかのような異世界の森へと続いている。それに誘われるかのように追いかけていけば、徐々にその火の勢いは増していき、獲物の居場所を語りかける。


生い茂る木々をナガサの山刀で切り開きながら、獲物に近づいてくごとに自分の中で、死の恐怖と狩人の血が鼓動を高鳴らせる。そして感情が最高に滾る。


その時、異能のスキル:ハンターセンスが危険を知らせる。


光の差さない暗い森の中で、真っ赤な炎を纏いながら悠然と歩く炎熊をついに捉える。


猛り狂うその炎は道を遮るものすべてを焼き尽くしていく。


『!!! 』


その圧倒的な姿!! その圧倒的なデカさ!! その圧倒的な迫力!!


その強者の風格に思わず我を忘れていた僕を、身体の中に宿る精霊さんが、


「宿主、見つかってしまいます。すぐに身を隠してください。」


そう警告をする。その声に慌てて、木々の陰へと身を隠す。


そして、物陰から先ほどの炎熊の隙を窺う。奴は、バリバリと巨木のブナの幹を噛み砕いていく。まるで、木の実を食べるが如く簡単に。


弓を構え、矢を手に取り、だが、まだ射る時ではない。安心しきった炎熊の後ろ姿は黙々と木を食べていく。ついに、ブナの木は自分の支える土台を失ったことにより、


『パキ・・・パキパキ・・・バキバキキキキキキキ!! ドォオオオオオオオオオオオン!!! 』


巨木が音を立てて炎熊に向かって倒れる。奴は倒れてくることを感じとり、全身から紅蓮の如き炎を纏いて、それを防いだ。


そうして倒れた巨木を嬉々として貪り喰らう。そして、姿勢をこちら側に向けて夢中で食べている。


その時、 弓に矢を番え、渾身の力で弓を引く!! 精霊の力が矢に流れ込み、尖端に黄色い火花が散る!


瞬間、矢を放つ! 金色の一閃が炎熊に突き刺さり、爆ぜるような音と共に肉の焦げる臭いが辺りに漂う!


だが、奴はその微かな殺気と異変に気付いたのか、身体の向きを変えて、


その僅かな変動により、矢は目という絶対的急所から、逸れて炎熊の左肩へと引き寄せられる。


一矢は燃えさかる炎に阻害されながらも飛び込んで肉を抉る。そして、内包する電流を奴の身体に流し込む。


炎熊の身体は一瞬だけ、震える。だが、それで奴はへばるようなものではなかった。


『ブォォォゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!! 』


低重音の恐怖心を抱かせる吠音を轟かす。直感で、それが威嚇音だとすぐに理解する。


炎熊は、どこかに潜む敵の気配を少し感じたのか、右肩から炎が噴き上げていく・・・。そして、手で地面を抉るが如き動きで、炎波を繰り出し辺りを焼き尽くす!!


一瞬にして、炎熊の目の前は焼き尽す。


∴ ∴ ∴ ∴ ∴


 一方の僕は、遠く離れた場所でなんとか生きている。


あの瞬間、ハンターセンスが事前に危険を察知してくれたおかげで、脱兎の如くその場から全速力で離れてなんとか難を逃れたのだ。


そうして、ハンターセンスが警告音を完全に発しなくなったことを確認した瞬間、一気に緊張感が緩み肩の力が抜けるのを感じる。


「あっ・・・生きてる。」


一秒でも、反応が遅れていたら死んでいたかも知れなかった・・・。


生きている感覚を徐々に感じ始める。


 その感覚が完全に戻った頃には、周辺に熊の姿は見当たらない。


このまま、炎熊を逃していいのだろうかと判断を迫られる。いや、これは千載一遇のチャンス・・・。


熊の胆嚢や毛皮、肉は高値で取引されている貴重な動物。そして何より、火を纏う炎熊はその中でも特別な存在。


しかし、もし仕留めれなければ死を招くと本能が語りかける。


結果、僕の中で、追うか追わないかという選択肢で揺れ動く。


「宿主、危険は承知で炎熊を追うというのなら、私も全力でサポートします。」


精霊さんが僕の背中を後押ししてくれるとのこと。僕も奴を仕留めることを決意する。


そうと決まれば、あの炎熊の痕跡を追っていく。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 痕跡を追っているうちに、松らしき樹木が生い茂る森の中で


よく見ると、奴はそこにいた。体長は並みのクマよりも馬鹿でかい。そして、猛者の風格漂わせて燃え盛る毛皮からメラメラと陽炎が見える。


足音を出さぬように匍匐前進でゆっくりと風向きを気にしながら、だが確実に狙える位置を縮めていく。


炎熊も何かを感じとったのか、頻りに周囲の様子を警戒し始めている。


 ここらが限界と察知し、矢袋から矢を取りだし、電流を込める。呼吸を整え、弦を引く。


奴の眼、目掛けて狙いを定め、矢は雷鳴を響かせながら、稲妻の如く大地を駆け抜け、熊の目玉に喰らいつく!! 


「やったか・・・。 」


確かな手ごたえを感じる。


だが、熊から激痛の声が出すがまだ生きており、そして、残った右目は血眼になって、僕を探し出す。


「くそ、しぶとい奴。」


「宿主、すぐに退散を。」


「大丈夫。やつのもう片方の腕は、さっきの矢撃で頭の神経がイカれたみたいだ。だけど、手負いのくせに走るスピードが速いッ。」


「宿主! 今度は炎熊がまっすぐこっちに来ます。」


やばい・・・このままじゃ、追いつかれて殺される。


しかし、生きたいと願う本能と会得していたスキル【ライオンハート】が、その恐怖心をかき消していく。



 そして、自然と心が落ちつき、この状況をひっくり返す一手を思いつく!!


「精霊さん、僕を信じてくれるかい。」


「何時だって、信じてますよ。」


阿吽の呼吸、全身全霊の信頼を受けて、その一手に己の命を賭ける。


そして、僕は逃げから一転、炎熊に立ち向かう。


奴の鋭く尖った牙が大きく見える。それでも、心は一切の死への恐怖を感じない。


弓に矢を番える! 精霊の力が矢に流れ込み、電流を纏い火花を散らす!


瞬間、解き放つ!! 豪雷の稲妻を!!


しかし、それは炎熊には向かわず、近くの巨木へと向かっていく。


そして、それは突き刺さるに留まらず、勢いよく回転して、


『ガリガリガリガリガリガリガリガリ 』


木を一瞬で抉る!! その直後、その木は炎熊に向かって倒れ込む。それに奴も気付き、すぐに全身から紅蓮の如き炎を纏いて、それを防ぐ。


その瞬間を待っていた! 神速の早業で、弓を構えば僕達のの力をその矢に注ぎ込む。


黄金に輝く迅雷じんらいの一矢は、流星の如く駆け抜ける!!


倒れる木を燃やし尽くすと、同時に炎熊を纏っていた炎がなくなる。その瞬間に全身全霊の一矢は炎に邪魔されることなく、奴の口腔目掛けて突き刺さる!!



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 一瞬の出来事が終わった瞬間、僕の足もとに茶色の大きな塊が横たわる。


その顔は険しく今にも動き出しそうで、その場にあった木の枝をナガサを差し込んで、即席の槍を作る。


まだその周囲は、熱を帯びていて近寄るのは容易ではないが、ギリギリの場所から、胸部に止めを刺す。炎を纏う化物でも、血は流れていて、それは赤いものだった。


次第に、火は可燃物を失ったかのようにどんどん勢いがなくなっていく。


「宿主、熊を仕留めましたね。おめでとうございます。」


精霊さんが苦労を労ってくれる。


そして、放った矢を見ると、一発目は熊の左肩の肩甲骨辺りに刺さっていた。二発目は、眼輪の上部分から、左脳にまで達していた。


最後の一発は口腔部分から延髄を貫通していて、それが致命傷となった。


その瞬間、僕がこの熊を仕留めたことを実感する。


 さっきまで生きていた生物をこの手で殺めることに、今では何も感じない自分に気付く。


どうやら、この異世界に馴染んでいっていることを嫌でも痛感させられる。


しかし、そんな感慨に浸っている暇はない。


すぐに解体をしなければ肉や毛皮が血で痛んでしまう。


そして僕はまだ生温かい死体にナガサを突き立てて、その紅蓮の鮮やかな毛皮とを白銀の様なきめ細かい脂を慎重に分けていく。


そうして、手際良く黙々と炎熊の手足、胆嚢、内臓肉、内臓、赤身などを解体していくのであった。




この物語は、異なる世界からやってきた少年が、精霊と共に成長し生きていく記録である。

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