第三章:細胞

14.アキラ、住まわれる。

 雷の精霊か、なかなかにファンタジーなの来たな・・・。


精霊は僕の考えを読んだかのようにムッとした顔をする。


「もう失礼ですね! この世界で魑魅魍魎の生物たちに出会っておいて、雷の精霊は受け付けないのはおかしいですよ。」


まぁ、確かに言われてみればそうだな・・・。いやでも、精霊はねぇ・・・、めっさファンタジーやん。


「ふーむ・・・宿主のファンタジーの基準がよくわかりません。ですが、電気ショックによって、私のことを思い出してくれましたね。」


「思い出したよ、その節はどうもお世話になりました。」


僕はそうお辞儀をすると、


「いえいえ、こちらこそ大変優良な宿主やどぬしとさせていただきましたので、お相子ですよ。」


「おっ、そうだね・・・。僕、優良な宿主になってしもうたんやなって・・・? 」


なるほど、つまり、この自称雷の精霊は僕に寄生したと・・・。


「え、なにそれは、ちょっと気味悪い。」


間髪入れずに、精霊をぶん投げる。だが、精霊はその動作を予測したように、手にしがみ付いてくる。


「なんだこの寄生虫! 放しやがれ、さっさと僕の身体から出ていけ! 」


「言い間違えましたぁ!! あなたは最高の共生主ですっ!! ですが、さらっと投げようとするあたり、さすが私が見込んだことはありますね!!」


いや、それどっちにしろ僕の身体に寄生してるじゃないか。やっぱり、この精霊を取り出さなきゃ、そう思い手を強く上下にブンブン振っていく。


そう思った瞬間、


「わ、私が離れたらあなたの心臓は止まりますよ。本当ですよ、嘘じゃありません。」


そんな怖いことを言い始める。僕はそれに思わず、手を止める。振りをして、不意を突こうとするが、僕の直感がそれを制止する。


「ふぅ・・・。やっと、冷静になってくれましたか。宿主の摩訶不思議な心臓が動いているのは、私のおかげなんですよ。」


そう言って、僕の胸を指さす。その言葉に偽りは感じられず、本当なんだと理解する。つまり、僕はこの精霊に運命を握られているということになる。


「まぁ、そう否定的に捉えないでください。共生と言ってもあなたにもメリットはあるんですよ。例えば、宿主が放った雷撃とか、そのほかには、彼女さんとも話せるようになっていったり・・・。良い事だらけですよ。」


その言葉に僕はハッとする。テラと話せるようになるのか、よし受け入れよう。


その考えを感じとったのか、精霊さんは呆気にとられる。


「宿主、本当に彼女さんのことが大事なんですね。」


「まぁね、それで精霊さん。君が僕にとりつかれてどんなメリットがあるのか聞きたいんだけど。あとそれと僕のデメリット。」


当然の質問を精霊さんに問いかける。精霊さんはその質問に少し考えてから答える。


「そうですね、強いて言うならあなたの身体の居心地がこの世界で一番だと思ったからですかね・・・。宿主のデメリットは、少し多くの食事をとってもらうようになることぐらいですよ、後は私もわかんないですけど・・・大丈夫ですよ、多分。」


そう歯切れの悪いように言うが、その顔はそれ以上隠し事など無いような様子である。


「多分かぁ・・・。ちょっと引っかかるけど、精霊さんが助けてくれなかったら、僕死んでたんでしょ。まぁ、良しと思おう。」


そういうと精霊さんは、パァーっと晴れやかな表情に変わる。


「さすが、宿主。察しが良くて助かります。宿主の身体はこの世界では非常に異質な存在なのですよ。ところで、宿主少しお腹が減りませんか? 私は食べ物を所望します。」


僕はその言葉で、自分が昨日から水しか飲んでないことに気付く。すると、それに呼応するように腹の虫君が、ぐぅ~~~。と自己主張をし始める。


「テラに作ったお粥の残りがあったと思うから、今日はとりあえずそれを食べるか・・・。」


そう言うと、精霊さんは、あぁ~、いいっすね~。という感じに了承する。


そうして、テラを起こさないように家へと戻り、台所でお粥を鍋ごと食べる。麦の微かな味がするだけの味気ない食事である。ハチには、家に残っていた干し肉を食べてもらう。


お粥を食べ終われば、腹が少し膨れ、強い眠気と疲れを感じ始める。意識が虚ろになりはじめたので、寝床で少し横になったと同時に僕は深い眠りに落ちてしまう。


∴ ∴ ∴ ∴ ∴


 ひどく疲れていたので、この晩は夢を一切見ることもなく眠りから目覚める。


「宿主、おはようございます。」


そう自分の中に共生している精霊さんの声がして、昨日のことを思い出しながら、テラの様子を確認する。


テラはもう起きていたようであったが、その様子は暗い雰囲気で虚ろな表情を浮かべている。


そんな彼女を見て、ああ、僕は彼女を完璧に守ることができず、まして一人の少女の片腕を失わせてしまった事実に言葉が詰まる。


すると、自分の内に宿っている精霊さんから声がする。


「宿主、悔やむ気持ちはわかりますが、今はそれよりもテラさんの傷口の確認をするべきです。」


そう諭され、僕はハッと気付かされる。自責するよりも適切な処置をすることが先決であると思い、無反応な彼女の腕を手に取り、捲いていた布を解いていく。


その傷口は、素人目でもかなりひどい状態で、ひどく化膿していている。


「テラの腕の傷をこのままなにもしないまま、放置は少しまずいよね・・・。」


僕はそう呟くと、


「まずは、傷口の膿を洗い流しましょう。話はそれからです。」


精霊さんは傷口の洗浄を提案してくる。すぐに飲水用の水に新しい布を浸し、痛いだろうなと思いつつ、慎重に傷口を洗っていく。


案の定、虚ろな表情をしているテラはその痛みにひどく拒否反応を示す。


「デュケシェン!! デュケシェン!!」


彼女は大声で叫びながら、顔を手で叩いてくる。だが、僕は傷口を洗っていくのである。


そうして、粗方の膿を洗い終え、炎症している傷口を布で傷口を覆っていく。だが、これも適切かどうかはわからないが、ないよりかはマシである。


それよりも、このまま傷口の腫れを放置しているわけにもいかない。薬か何かを塗って炎症を抑える必要がある。


「宿主も精霊の私も、残念ながら薬草学にはあまり詳しくありません。然らば、ここはすぐにでも近くの集落らしき場所へ行き、薬を調合してもらいましょう。」


そう精霊さんが呟く。


「で、でも精霊さん。僕はここらへんの土地感がないし、周囲は森ばっかりで村なんてないはずじゃ・・・。」


僕がそう答えると、精霊さんはフフフと得意げに笑いながら、


「私は、宿主のことを空の上から観察していたんですよ。故にこの辺りの地形は大体把握済みです。」


「おおお!! さすが、精霊さん頼りになる。」


そう言うと、精霊さんは


「そうでしょう。そうでしょう。それでは、木の板にこの辺の地図を描きましょう。それで、宿主を集落まで案内しましょう。」


近くにあったまな板を準備する。


「それでは、宿主。両方の人指し指を木の板に近付けてください。」


僕はその指示に従い、人差し指を板に近付ける。すると、指から小さな静電気が放たれる。それは、器用に模様を描いていく。


そうして、しばらくの後まな板に付近の地形図が描きこまれるのである。


「ふぅ・・・完成です。それで今、私達がいるのはこの辺りで、集落らしき場所はここです。さぁ、荷物をまとめて出発です。」


 僕は急ぎ、薬と交換できそうなウサギの毛皮などを荷物にまとめて出発の準備を完了すると、


「宿主、テラさんに別れのあいさつをしなくていいんですか? まだ言葉は話すことはできないんですが、テラさんに触れて今の宿主の感情を伝えることはできますけど・・・? 」


「テラ、今から薬をもらってくるからね。それまでの辛抱だよ。」


テラの手を握り、そう念じれば、彼女は驚いた様子でこちらを見る。


「リニキオレイルマ・・・リニキオ・・・。」


そう呟きながら、僕の手をぎゅっと握る。その言葉はまだわからないが、彼女の寂しいという思いが伝わってくる。


そんな彼女を頭を撫でてながら、


「すぐ戻ってくるから、安心して。」


そう念じれば、テラは安心した顔をして目を閉じる。


彼女が眠りについたことを感じた所で、僕は静かに家を出発するのであった。

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