第54話
「え? 回復職の応募があった? やったね! すぐにいれてもいいんじゃない?」
いつものように薬の調合を終え、クラン専用スペースの共有部屋に戻ると、開口一番にセシルが入ってきた言葉に、私はそう答えた。
「いや、回復職はどこも貴重だし、回復職を入れたいのはそうなんだけど、レベルがね……」
「レベル? カンストしてないくらいはどうってことないんじゃないかな?」
回復職ならば引く手数多だから多少レベルが低くてもすぐに上がるだろう。
とにかく、アンナのグループにはもう少し回復職が欲しいと思ってたところだし、これを逃す手はない。
S級になったとはいえ、まだまだ知名度が低いから、募集をかけていてもこうやって応募してくるのはそこまで多くのないのだから。
「いや……それがさ。その人のレベル、10なんだよね」
「え? あ、もしかしてクラン入れるようになりたてってこと?」
「うん。だから、どうしようかなーって」
「うーん。本人のやる気次第だけれど、頑張ればそれなりに早くレベル上げる方法もないわけじゃないし……ひとまず会うだけあってみたら?」
このゲームはパワーレベリング、つまり高レベルの人が低レベルの人とパーティを組んでレベル上げを手伝うのは難しい。
難しいとは言っても、極低レベルの人を連れて高レベル帯のモンスターを倒せば、それなりに早く上がる。
ある程度上がった後は使えないけれど、今度はそれに応じた方法でレベル上げを手伝えばいい。
ただ、それをやって上げるだけのやる気が本人になければ、こちらとしても時間を無駄に使うことになる。
「そうだね。じゃあ、会う約束してみるよ――いますぐ会えるみたい。サラさんも一緒に行く?」
「うん。ちょうど手も空いたし、行ってみようかな」
待ち合わせ場所に着くと、すでにクランメンバー募集に応募した人が待っていた。
名前の横にはまだ所属クランの表示はない。
「えーっと、君がティファさんかな?」
「はい! 【龍の宿り木】のクランマンスター、セシルさんですよね! よろしくお願いします!」
元気な声でティファは返事をする。
声も若く、表情や仕草から同じ歳、もしくは若干若いくらいだと見えた。
「立ち話もなんだから、座れるところに行こうか。いいかな?」
「はい!」
私たちはハドラーが応募してきた時にも利用した、カフェに行きそこで話を進めることにした。
仮想空間なので食べたり飲んだりしてもお腹が膨れるわけではないけれど、雰囲気や味は楽しめる。
「わぁ! こんな素敵なところがゲームの中にあったんですねぇ。私、初めてです!」
「好きなの頼んでいいよ。お金の心配はしないで」
「ありがとうございます! ところで……隣の、サラ、さん……ですか? は、どう言った方なんでしょう?」
「え? あ、サラさんはね。このクランを一緒に作った初めのメンバーだよ。実質、このクランの創設者とも言えるかな」
セシルの紹介に私はむず痒い気持ちになった。
言ってることは間違いじゃないけれど、こうやって説明されると少し恥ずかしい。
「へぇー。でも、サブマスターじゃないんですね?」
「あ、ああ。そういえば、まだサブマスターは作ってないね」
指摘されて私もセシルも顔を見合わせる。
言われてみれば、人数が少なくて必要ないと思っていて作っていなかったけれど、今では30人ほどもいるのだからサブマスターを作ってもおかしくない規模になっている。
「サラさんの格好、すごい素敵なドレス姿ですけど、職業はなんなんですか?」
「私は【薬師】なの」
私の返答にティファは驚いた顔をする。
「え!? このクランってS級クランなんですよね? それなのに、【薬師】なんているんですか!?」
ティファの言葉にセシルが険しい顔付きになる。
一方、流石にこのタイミングでこの言い方は少し失礼だけれど、ティファの感想は概ね誰もが思うことなので私は気にしていなかった。
「君、かなり失礼じゃないか?」
「え? あ、すいません。つい。思ったことをすぐ口にしちゃうのが、私の悪い癖で……」
「君が【薬師】のことをどう思ってるかは知らないけれど、サラさんはこのクランの柱だ。S級になれたのもサラさんのおかげだと思ってる。そのサラさんを馬鹿にするような発言をする人には、正直入って欲しくないな」
「ちょっと、セシル。少し言い過ぎだよ。私は気にしてないから」
セシルがすごい剣幕でまくし立てるので、ティファは萎縮しまっているように見えた。
私は思わずティファを
しかもティファのアバターは私と同じノームだ。
竜の顔をしたセシルが、子供くらいの背をしたティファに怖い顔をしているのだから、
「う……すいません。気を付けます。それにサラさん、ありがとうございます」
「あ、いや。俺もいきなり悪かった。でも、サラさんが凄いのは本当だから」
「はい! それで、このクランに入れるかどうかは、どうやって決まるんですか?」
「ティファはまだレベルが10になったばかりみたいだけど、できるだけ早くカンストして、攻城戦で活躍したいと思う気持ちはある?」
私が一番重要だと思うことを聞いてみた。
回復職の場合はカンストしていなくてもそれなりに役立つことができるけれど、攻城戦のS級で、となると話は別だ。
どのゲームもそうだろうけれど、プレイヤー同士での戦いとなると、カンストは当たり前。
そこからがスタートとなる。
装備を充実させ、連携を学び、このゲームの場合は立ち回り等のプレイヤースキルも重要になってくる。
もちろんそれを無理に求めることはしないけれど、そのくらいをやるという意志があるに越したことはない。
私の質問に、ティファは少し考えたそぶりをみせ、そして答えた。
「はい! まだ、こんなレベルですけど、やる気はあります! このクランを選んだのも、せっかくなら上を目指したいと思ったからですから!」
「そうか。ところで、なんで俺らのクランに応募したの?」
「それは……S級クランで、応募要項に適応するのがこのクランだけだったからです……もともとダメもとで……」
「あ、なるほど……」
言われてみれば、普通の上位クランは応募にレベルや職業、その他強さの指針となるようなものの制限を設けていることがほとんどだ。
ただ、うちのクランはそれがなかった。
「セシル。悪い子じゃないみたいだし、やる気もあるみたいだし、入れてあげてみてもいいんじゃないかな。空きも十分あるし」
「うん。サラさんがそういうなら、俺も異存はないよ。じゃあ、ティファ、これからよろしく」
「わぁ! 本当ですか!? ありがとうございます。私、早く皆さんのお役に立てるように頑張りますね! ところで……最後に一つ聞いてもいいですか?」
「うん? なんだい? なんでも聞いていいよ」
「あの……二人は、付き合ってるんですか?」
ティファの思いもよらぬ質問に、セシルは飲んでいた飲み物を口から吹き出し、私も固まってしまった。
私が大慌てで否定したのはいうまでもないが、何故かセシルはその私を見て不満そうな顔をしていた。
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