第39話
「まさかあそこから勝つなんて! どうやったのさ!?」
「サラちゃん!! わたしゃ心配だったんだよ!! だけど、さすがはサラちゃんだね!! わたしゃ勝つと信じてたよ!!」
攻城戦専用フィールドから戻ると、先に戻っていたクランのメンバーが迎えてくれた。
倒れたプレイヤーは、残っているメンバーに情報を与えれないようにするため、通常のフィールドに強制的に戻され中の様子を見ることはできない。
だから、セシル以外は私たちがどうやって勝ったか知らない状況だ。
私は何があったかかいつまんで説明した。
「そんな薬が作れたとは……凄まじいですね。素材を集めることはかなり困難でしょうが、切り札として、今後もぜひ用意しておきたい」
「そうだね。レアボスを狩るってのも良いけどさ。この前だってやっと倒せるくらいだったし、それにそもそもレアドロップなんでしょ? クランクエストを貼っておいたら?」
ハドラーの言葉にカインが続ける。
確かにレアボスを狙って倒し続けるのは、なかなか難しい。
それなら、いっそのことクランクエストを貼っておけば、薬製作以外に役に立たない【魔血】を売ってくれるプレイヤーもいるかもしれない。
どうせあちらから見たら役に立たないアイテム、ギラが手に入るなら喜んで出すだろう。
「でも、【魔血】を集めるなんてクエスト貼ったら、俺らがレシピを知っているってバレないか?」
ギルバートが口を挟む。
確かに、他に集めるクランはせいぜいレシピ探索をする薬師が多く集まる生産クランくらいのものだろう。
「別に、想像するだけで、漏らさなきゃ真偽なんて誰も分からないさ。まぁ、今回戦った相手や、今後使う場面があれば、その素材だろうと類推はされるだろうけどね」
「うん。別にレシピをバラすことはしないし……って、あ!」
アーサーとの約束を思い出し、私は思わず声を上げてしまった。
他のメンバーは何事かと私を見つめる。
「そういえば、この素材をくれた人に、効果とレシピを教えるって約束しちゃった……」
「誰だい? それは。レアボスのレアドロップをくれるなんて、よほど上位のプレイヤーかな?」
何故かセシル声が少しトゲのある口調に聞こえた。
気のせいかと思い、私は返事をする。
「昔お世話になったことのある人でね。大丈夫。信頼のおける人だよ」
「なんだいサラちゃん。こことは別に、そんな知り合いが居たなんて。ひょっとして、サラちゃんの良い人かい?」
アンナが冗談を言う。
そんな訳ない、と両手を振る私を、何故かセシルだけじゃなくカインまでがジト目で見つめているように感じた。
「とにかく、私もクランクエストを貼るのは賛成かな。もっと色々と試してみたいし。ただ、ギラとクランギラがかかるけど、大丈夫かな?」
「それは問題ないよ。むしろあの性能の薬が手に入るならいくら払っても安いくらいさ」
セシルのその言葉で、【魔血】収集のクランクエストが張り出されることが決まった。
これで、セシル以外にも試すことができるかもしれないと、私は心を踊らせていた。
☆
「――と、言うことなんだ」
私は約束通り、アーサーに連絡を取り、改めて素材をくれたお礼と、その素材から作ることのできた【神への冒涜】の効果とレシピを伝えた。
アーサーは黙って真剣に私の話を聞き入っていて、私が話し終わるとようやくその口を開いた。
「なんとまさか。本当にあの素材を使ったレシピを見つけちゃうなんてね。恐れ入ったよ。しかも、その効果も驚くな」
「まだ、一回しか使ってないから、詳しいことは分からないけどね。検証するような場面でもなかったし」
「それでさ。レシピは分かったけど。その【魔薬】って言うのは、どうやって作るかは教えてくれないのかい?」
「うふふ。約束は約束だけれど、あくまで約束は【魔血】を使った薬のレシピと効果を教えるってことだからね。【魔薬】についてはまだまだ秘密よ」
新エリアの素材を用いて調合することのできる【魔薬】は、アーサーの話によると、わたしいがいで作れるプレイヤーやクランを知らないらしい。
全ての【魔薬】が揃わないと【神への冒涜】を作れないのだからアーサーは素材を揃える術がないと言うことだ。
「まぁ、しょうがないね。実際、タダでもあげるつもりだったし、そんな薬があるって知れただけでもめっけものだよ」
「そのうち他の人もレシピを見つけると思うから、そうしたらアーサーもきっと使えるようになると思うよ?」
「それにしても。強化を超えて超越者を作り出す薬、って言う設定かな? 神への冒涜だなんて、洒落がきいてるね」
「うん。使った相手がドラゴニュートだったからドラゴンのような姿になったのか。まずはそこら辺と、ステータスがどう上がるのか知りたいとは思うんだけどね」
私の意見を聞いて、アーサは大きく頷き、そして少し笑った。
「あはは。サラって、なんか本当の科学者みたいだな。研究者ってそんなイメージだよ」
「え!? そ、そう? あ、でも未来の研究者かもしれないし、あながち間違ってないかな?」
「未来の? ああ。歳を聞いたことはなかったけど、まだ学生だったんだ。俺のとこのサブマスも確か学生だったよ。って元サブマスか」
「元? 辞めちゃったの?」
サブマスターがクランを抜けるなんてよほどのことだから、ゲーム自体を辞めてしまったのだろうか。
アーサーといざかいをするなんて想像もつかないし。
「いや。抜けられちゃったんだよ。あっさりね。なんでもずっと探してた人が見つかったとか。うちに誘ったけどダメだったから、そっちに入るってさ」
「へー。凄い人もいるもんだねぇ」
そう言いながら、身近なプレイヤーにも同じような人が一人いたのを思い出す。
ふと、カインのいたクラン、最強の座に君臨する【理想郷】のクランマスターの名前が目の前にいる人物と同じだったことに気付く。
「ほんと、すごく頼りになる奴だったから、抜けられて困っちゃったよ。まぁ、そんな話よりさ、s級になったって? 攻城戦」
「あ、うん! ちょうどこの間の戦いに勝ってね! みんな高レベルだったから、全員倒してポイントが結構もらえて」
ふと、アーサーが笑みを作る。
何故かその笑顔は、何か含みを持っているような気がした。
「おめでとう。正直ね、実は無理だと思ってたんだよ。このゲームも、攻城戦もそんな甘くないってね。でも、まだ10人だっけ? それなのにもうs級に上がれるなんて、ほんと凄いよ」
「ありがとう。みんなのおかげよ。クラマスはセシルって言ってね。プレイヤースキルが凄いの。あと、カインっていう人がいて、その人のおかげで初めての攻城戦でも勝てたのよ」
笑顔のまま聞いていたアーサーが、カインの名前を出した途端、目を細めた。
どうしたのだろう。今日は何かいつもと様子が違うように感じる。
「うん。そうだ。ずっとさ、サブキャラのままで会ってたけど、久しぶりに俺のメイン持ってくるよ。ちょうどすぐ近くに置いてあるんだ。いいかな?」
「え? うん! ペンドラゴンも素敵だけど、確かにアーサーの見た目も知りたいかも!」
アーサーは頷くと、キャラクターを変更するため、一度ログアウトした。
目の前に座っていた、アーサーのアバターが消える。
「やぁ。お待たせ」
すぐにアーサーの声がして、私は後ろを振り向く。
本当にすぐ近くに居たようだ。
思い出通りの髪色のアーサーを見て微笑もうと思った瞬間、頭の上にある文字と記号に私は固まってしまった。
表示されていたのはクランマスターである記号と、私たちの目標である最強クラン【理想郷】の文字だった。
「驚いた? てっきり気付いてると思ってたんだけどさ。なんか、そんな雰囲気全然見えないから」
「アーサー。まさか……」
「うん。そのまさか。S級へようこそ。そのうち当たること楽しみにしているよ。そして、その時は全力で戦うことを約束する。ああ、うちの元サブマスにもよろしくね」
私とこのゲームを繋ぎとめてくれたプレイヤー、たった今、楽しく話をしていた人物が、私たちの目標としているクランのマスターだった。
あまりの事実に言葉を無くす私を、アーサーはいつもと変わらぬ笑顔で見つめ返していた。
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