第27話
「あ、待って。そこ罠あるよ」
相手の拠点に入ってから数度目のカインの静止の合図に、私たちは全員ピタリと足を止める。
少し前に進んだカインは地面にしゃがみこみ壁と床の間で何やら動作を繰り返す。
「はい。オーケー。行こうか」
「ありがとう。カイン。カインが入ってくれてて助かったよ!」
体感にして数秒の間にカインは罠を解除したらしい。
相手のクランレベルがそんなに高くないから簡単だとカインは言うが、それこそカインの実力の高さを証明しているだろう。
「もうすぐ着くはずだよ。広いって言っても30分しかないからね。ダンジョンみたいに何時間もかけて進むなんてことはないから安心して」
「うん。分かった」
先ほどからカインを先頭に入り組んだ相手の拠点内を進んでいる。
罠はカインが破壊し、カインの指示に従いポイントが入るオブジェクトは残りのみんなが破壊しながらの行進だ。
「ポイントが高いほどランキングが早く上がるってのは分かったけど、相手を全滅させるのと、コアを破壊するのとどっちがポイント高いんだ?」
「一番は一人残して全員倒して、コアを破壊の勝利かな。全滅ボーナスより、コア破壊の方が高いんだよね。ポイント」
カインの話では、プレイヤーを倒した際に入るポイントはレベルと同じ、罠やオブジェクトは1から5の間で、それに相手のクランレベルを掛けたポイントが入るらしい。
更に全滅勝利の場合は全滅ボーナスとして2000ポイント、コア破壊は3000ポイントが入るらしい。
勝利したクランは得たポイントの百分の一だけレーティングを上げる。
そのレーティング、つまりどれだけ勝利を続けたか攻城戦のランクと、ランキングが決まる。
ちなみに負けた方は、ランクに応じて一定数だけレーティングが下がる仕様なんだとか。
いずれにしろ、ランキング上位をそして一位を目指すなら勝ち続けなければならない。
「あ、着いたみたいだよ。気を付けて」
「さっきよりは骨のあるやつなんだろうねぇ? また一撃じゃあ、張合いはないよ!」
そんなことを言いながら私たちはコアの設置されている広間に入っていく。
中には先ほどと同じ五人の相手クランのメンバーが陣取っていた。
「うわ! 本当に来たよ。ってか早くない!?」
「気をつけろよ! あいつらみんな一撃で殺られたって言ってたぞ!!」
どうやら既に私たちの情報は伝わっているらしい。
浮き足立っているところを見ると、実力はさっきの人たちとそれほど変わらないようだ。
「ひとまず、コア破壊でいこうか。でも邪魔されたら倒しちゃいそうだなぁ。何かいい方法ある?」
「あ! 良い薬があるよ!! 一人だけ残して倒してくれる?」
私はそう言うと、すぐさまみんなが一人を残した殲滅に向かった。
セシルが先頭に立つヒューマンのアバターの男性を連撃で倒す。
その間にアンナは、ドラゴニュートのブレスを受けながらも、そのままスキルで打ち倒していた。
気が付けばカインの足元には一人のプレイヤーが横たわっている。
あまりの出来事に右往左往している二人のうち、片方にハドラーの魔法が炸裂し、その人も倒れていった。
残す一人はエルフの女性のアバターをしていた。
「あ、あ……」
驚きか、一人残された恐怖か、エルフの女性は何も出来ず佇んでいる。
そこへ私が用意しておいた【リリスの眠薬】を投げ付けた。
薬が当たり、状態異常【眠り】が付与される。
これで、攻撃を与えない限り、しばらくは眠ったままだ。
「よし。いいよ。今のうちにコアを壊そう」
私の合図でみな一斉にコアへの攻撃を始める。
まるで壊すのは自分だと、主張しているみたいだ。
一斉攻撃に耐えきれず、程なくしてコアが破壊された。
全面にヒビが入り、やがてガラスが砕けるような澄んだ音と共に、コアは粉々に砕け取り霧散していった。
七色に輝く無数の星屑のようで、とても綺麗だと思った。
「やったね! まずは初戦、勝利!!」
☆
無事に初勝利を決めた私たちは、その後も時間いっぱいまで攻城戦に挑んだ。
一回30分の攻城戦は、相手さえ見つかれば時間内で最大五回出来るようになっていた。
得られたレーティングのおかげでランクは順調に上がり最後の相手と当たる時には既にCランクまで上がっていた。
戦う相手はランクが同じクランから選ばれるので、初めてのC級クランとの戦いになる。
「さすがにこの位のランクになってくると、相手の人数が多いな」
「ええ。コアを移動できるからいいですが、もし守りながら攻めていたとなると、なかなか大変でしたね」
今日の最終戦の相手はどうやら、クランの最大人数である50人で参加しているようだ。
しかも初めっからコアを守る気はなく、拠点と拠点の間にある広場に全員が初めから整列していたようだ。
「ここは通さん! 俺らが全滅する以外にコアを破壊する方法があると思うなよ? って、うん? お前ら、まさか五人だけか?」
「だったらなんだと言うんだ!」
「ぷーっ! ウッソだろお前? みんな! 聞いたか!? こいつらさえ殺れば俺らの勝ちだぞ!!」
「おーーっ!!」
なんだか、事実を言われているだけなのに非常に腹が立つ。
あいつに毒薬を投げてやろう。
そう思って投げる薬を吟味していたところ、セシルが私の感情に気付いたようだ。
私の方をしっかりと見つめこんな事を言い出した。
「人数なんて関係ないさ。サラさん。サラさんのおかげで僕らは百人力だからね。だから5対50じゃないんだ。500対50だ。圧勝だよ」
「うふふ。何それ。そうだね。数じゃない! あんな奴ら、コテンパンにしてやろー!」
それを聞いていた他のメンバーも同意し腕を高く上げた。
私は張り切って、セシルのおかげで潤沢にある薬を惜しげなくみんなに使った。
結果はまさに圧勝。
仲間が次々にやられていくのを見て、初めに私たちを笑ったプレイヤーの驚愕の表情を貼り付けた顔は忘れられない。
こうして、私たち【龍の宿り木】の初攻城戦は、全戦全勝で幕を閉じたのだ。
これからクランの専用スペースでお祝いをするという話になり、私たちは移動を始めた。
「やったね。全勝できたなんて! みんな凄かったけど、今回はカインのおかげだね。色々教えてもらったし」
「いやいや。まぁ、僕も勝ちたいから情報を伝えるは当然だよね」
「うん。ありがとう。でも、カインは本当に良かったの? このクランで。どうして入ってくれたか、未だに分かんないんだよね」
「え? あ、そうか。えーっとねぇ。うーん、そうだなぁ。サラにだけなら教えてもいいよ。僕のこと」
周りのみんなに聞こえない、囁くような声でカインは私に耳打ちをしてきた。
それに気付いたセシルが若干険しい顔を見せる。
みんなには悪いと思ったけれど、気になるものはしょうがない。
私はカインに一度だけ無言で頷き、時間を作ることにした。
時間が遅かったので短い祝賀会を済ませた後、私はこっそりとカインに個別チャットを送った。
そうして、街の少し人気の少ないところで落ち合い、カインの話を聞かせてもらうことになった。
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