第6話

「なんだよそれ。隠し持ってたのか? 俺には使う必要なんか無いと思ってましたってか。馬鹿にしやがって! 使うのが遅かったと後悔して、逝け!!」

「そうじゃない。そうじゃないが、後悔はしたくないんでな。勝たせて貰うぞ!!」


 【暗殺者】の身体が溶けるように消えていく。

 相手が使ったスキル【ハイディング】の効果だ。


 使ってから10秒間、姿が見えなくなる。

 見えなくても攻撃は当たり、あちらが攻撃した場合も姿が見えるようになる使いどころが難しいスキルだ。


「う……!?」

「ふはははは。どこから飛んでくるか分からない攻撃は恐怖だろう!」


 効果が切れるギリギリを狙ってセシルの背後に移動していた相手は、背中に斬りかかった。

 間一髪でその攻撃を受けたセシルから距離を取り、相手は再び同じスキルを使い姿をくらます。


 あの技は簡単に見破れる方法があるのだけれど、今のセシルにそれを伝える方法がない。

 そしてまだレベルが低いため、範囲攻撃を持っていないセシルにはなかなか初見では厳しい相手だった。


「そこだぁ!!」

「う……ばかな……なぜ分かった……?」


 ところがセシルは二回見ただけでこのスキルの致命的欠点を見破ってしまった。

 そして、相手に向かって【三段突き】を使う。


 素早い突きが三回相手を突き刺す。

 攻撃が当たり消えていた姿も見えるようになった。


「影が消えてない。運営のミスなのか、仕様なのか知らないけれど、ハズレスキルだな……」

「う、うるせぇ!!」


 そこからは一方的だった。

 正攻法に切り替えた相手だったが、【強薬】で強化したセシルの敵ではなかった。


 さっきとは立場が逆転し、セシルは全ての攻撃を躱し、そして相手は全てを避けることはできなくなっていた。

 やがて心臓に当てた突きが致命傷となり、セシルは見事逆転を果たした。


「やった! 凄いよ!! 負け無しじゃない!」

「いや……正直、サラさんの言うことを最初から聞いていればもっと簡単に勝てた。ごめん……」


 何故かセシルは私に謝ってきた。

 そんなこと、全然必要ないのに。


 深々と下げたセシルの頭は、私が腕を上げれば届く位置にある。

 私は恐る恐る、セシルの頭を撫でてみた。


 鱗に覆われた髪の毛のない頭皮は、奇妙な感触だった。

 私に頭を撫でられたセシルは、驚いて顔を上げる。


「きゃっ!」

「あ、ごめん」


 急に頭が上がったため、手を上に引き寄せられる形になり、私はバランスを崩しセシルに抱きついてしまった。

 謝るのは私の方のはずなのに、何故か謝ったのはセシルの方だった。


「あの……もう大丈夫かな……?」

「あ! ごめん!!」


 恥ずかしい気持ちになりながら離してもらう。

 このゲームは感情が表情に出るからしばらく顔を隠さないと。


「じゃ、じゃあ。次も頑張ってね。あと4勝。いけるいける!」

「あ、うん! 頑張ってくるよ!」


 そういうとセシルは次の試合に向かう。

 そこからは初めから強化薬を使い、見事15連勝を決め、無事に10万ギラを手に入れることが出来た。


「やったね。じゃあ次はクエストだよ。行こうか!」

「うん。ありがとう。サラさんの薬、凄かったよ。こんな凄い力に気付かないなんて、やっぱりクソ野郎だな……」


「え? 最後なんて言ったの? 小さくて聞こえなかった」

「ううん。なんでもない。じゃあ行こうか」


 こうして私とセシルは、クラン設立に必要なクエストも難なくこなし、クラン設立へと至った。

 クランマスターはセシル。サブマスターは不在にしておいた。


 良い人が来たら、その人にサブマスターをお願いするつもりだ。

 まだ出来たてホヤホヤでクランレベルは当然の1。


 攻城戦に出るためには最低5人のメンバーが必要だけれど、急ぐことはしない。

 きちんと一緒に戦いたいと思う人を、セシルと一緒に決めて入ってもらう予定だ。


 その間にクランレベルもあげないといけないし、セシルのレベルや装備もある。

 やることは盛りだくさん。さーて、頑張りましょうかね。



~その頃ユースケは~


「いやー。今日の攻城戦は、マジで神がかってましたわー。薬のおかげっすね。マスター感謝っす!」

「お、おう! そうだろ? 感謝しろよ。全く!」


「もちろんっすよ! 次回もよろしく頼みますよ!」

「お? あ、ああ。任せろ……多分な……」


 前回の惨敗を受け、何人か不平不満を言っていたが、今回は今まで通りに薬が供給され、見事勝利を掴んだ。

 しかし、勝利を喜ぶクランメンバーとは裏腹に、ユースケの気持ちは焦りに満ちていた。


 というのも、自分でつくりあげた自分、つまり薬を自腹でクランメンバーに配布するマスターというのを、実際に行う羽目になったからだ。

 しかも買うのは消費アイテムなのに、と思いたくなるほど高い価格の最高級薬。


 既に元々持っていた資金は底を尽き、いつかサブキャラクターを作った時に使わせようと思っていたドロップアイテムの武具を、オークションに出して得たお金にまで手を付けていた。


「くそっ! なんで俺が! こんな目に!!」


 自分で蒔いた種なのは間違いないのに、どこまでも人のせいにして生きてきたユースケには、責任を取るという言葉の意味が理解できない。

 ただただ文句を言っては、クランマスター用のスペースで、備え付けられていた備品に八つ当たりをしていた。


「来週どうする……? 金が……くそっ! くそがぁああ!!」


 誰もいない専用スペースでユースケの絶叫が響き渡った。

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