第4話

「それじゃあ、改めて自己紹介。私はサラ。職業は【薬師】。アバターは見ての通りノームだよ」


 私は始まりの街アルカディアに戻ると、セシルに説明する。

 ここに来る途中で色々話したけれど、なんとセシルは高校生!


 しかも受験生なんだとか。

 頭が良いらしく、息抜きにこのゲームをやっているのだと言うから恐れ入る。


「ああ。えーっと、何を言えばいいのかな? 名前は知っての通りセシル。もちろん本名じゃない。職業は【騎士】。アバターは……かっこいいと思ったんだ」

「うんうん! かっこいいよね。ドラゴニュート!」


 セシルの発言に同意すると、何故か少し恥ずかしそうな仕草を見せた。

 うーん、やっぱりこの子、見た目は竜なのに仕草は犬かなにかだ。


 戦ってる時はまさに竜みたいにかっこよかったけれど。

 ギャップ萌えってやつかな?


「それで、どうすればいいんだ? クランを作るのは」

「うーんとね。クラン設立のためには、まずはレベルを10以上に上げることと、クラン設立クエストをクリアすること。この二つが必要だね。後は設立のための資金10万ギラ」


「レベル10はさっきのオーガを倒したから上がっているな。クエストを受ければいいのか。それよりも……金の方が問題だな。10万ギラなんて、どうやって稼げばいいんだ」

「大丈夫大丈夫! お金なら私がぽーんっと出すから!」


 薬作りには素材が必要で、薬ほどじゃないが素材もそれなりにする。

 私の場合は狩りじゃ稼げないから、作った薬を売ってその差額で儲けている。


 自慢じゃないけれど、かなり儲かっている。

 プレイヤースキルが必要なのは薬作りも同じで、いわゆる理系女子の私は天職と言っていいくらい薬作りが上手だ。


 これで資金の問題も解決するから、クエストをさっさとクリアしてクランを作ろう。

 そう思っていたらセシルはまた額に手を当て何か考えている。


 この仕草、何度も見ているうちに好きになってしまった。


「それじゃあダメだよ。サラさんがクランマスターやるなら別だけど?」

「え!? ダメだよ! 私がクラマスだなんて。無理無理!! それに【薬師】がクラマスなんていうクランに強い人が来てくれるわけないもん!」


 クランを作っても人が集まらないと意味が無い。

 【薬師】がクランマスターで攻城戦上位目指してます、なんて言っても嘲笑の的だ。


 それになんというか、柄じゃない。

 みんなの前に立ってぐいぐいなんて、考えただけでも目眩がする。


 出来ることなら人に知られずこっそりと薬だけを作って、それで好きな人に喜んでもらえればそれだけでよかったのに。

 ああ、ダメダメ。こんな考えだったから『都合のいい女』にされてしまったのだから。


「だからさ。資金は自分で稼ぎたいんだ。ただ、恥ずかしながら始めたばっかりで金策もよく分からない。金策って言うんだよね? こういうの」

「うんそう。えーっと、いくつか良さそうなのを知ってるけど」


 金策というのはお金を稼ぐ方法、その中でも効率のいいものを指す。

 私の場合の金策はさっき言った素材を買って作った薬を売ること。


 生産職は大抵がこれ。

 逆にセシルのような戦闘職は狩りなどになる。


 ただ、ソロ狩りというのはあまり効率が良くない。

 出来れば釣り狩りや範囲狩りなどをしたいところだけれど、【騎士】一人ではどちらも無理だ。


 ちなみにゲームによってはマナー違反とされる釣り狩りや範囲狩りも、サーバーも狩場自体も豊富なこのゲームでは特に問題にならない。

 それはそれとして、今はソロで金策を考えなければ。


「ねぇ。セシルは人と戦うのは問題ないかな?」

「人と? ってことはプレイヤーと? 特に問題ないな。俺らが目指す攻城戦ってのはプレイヤー同士の戦いなんだろ?」


「うん。じゃあね。取っておきがあるの。多分10万ギラくらいすぐに稼げるよ。闘技場ってのがあってね」

「闘技場?」


 闘技場というのは、プレイヤー同士の戦いの場。

 攻城戦みたいにそれぞれランクがあって、同じランク同士で戦う。


 勝つと増え、負けると減るポイントがあり、それによってランク内のランキングと、ランク自体が決まる。

 これに勝つと回数に応じて報酬が貰える。


 連続でなくてもいいけれど、勝ち続ければランクも上がるため、なかなか難しい。

 だけどセシルはプレイヤースキルが高いから、いい所まで行けると思う。


 ちなみに、15回勝つと貰える報酬がちょうど10万ギラだったはずだ。

 そこまで勝ち続けると、下から数えて三番目のDランクになってしまう。


 レベル10のプレイヤーがDランクで勝つのは難しいだろう。

 攻城戦同様、闘技場は人気コンテンツだから真面目に勝ちに来るプレイヤーも多いからだ。


「面白そうだね。対人戦の練習にもなるし。やってみるよ」

「うん。このゲームはどんな行動でも経験値が入ってレベルが上がるから。もちろんレベルが上の相手に勝つ方が多くもらえるよ!」


 ちなみに攻城戦と違って闘技場は深夜から早朝を除きいつでも参加可能だ。

 早速セシルを闘技場まで案内する。


 ゲームの中の街はいくつかあるけれど、そのどれにも闘技場はある。

 そしてどこで受付しても、全ての街のプレイヤーと戦うことが出来る。


 こういうのはゲームのいい所だ。

 現実の世界だったらそんなことはできないから。


『やぁ。よく来たね。君、いい体格してるじゃないか。ここは闘技場だ。多くの人々が互いに自分の強さを示す場所さ!』


 受付のNPCに話しかける。

 筋肉質のお兄さん。熱血、というのが似合う見た目だ。


「どうすればいいんだ?」

「えーとね。ここで、ランク戦というのに参加すればいいはず。私自身はやったことないからね」


 昔ユースケに付き添って来たので概要は知っている。

 だけど結局闘技場で一番になれなくて、攻城戦を目指したんだっけ。


 一対一の闘技場は、プレイヤースキルが最も重要だ。

 どんなに強化しても勝てない相手がいて、私のせいだって怒鳴られたっけ。


「あー、嫌なこと思い出しちゃった」

「ん? なんか言った?」


 おっと、危ない危ない。

 こんなことをセシルに伝えたら、ただでさえの怒りがとんでもないことになっちゃいそうだ。


「ううん。なんでもない。じゃあ、頑張ってね」

「おう! 見てろよー。すぐに15連勝してきてやるからな!」


 そういうセシルを笑顔で手を振りながら送った私は、予め考えていた準備を始める。

 必要な素材がないからまずは素材を買って来ないと。


 幸い闘技場からそう遠くないところに露店の広場がある。

 珍しくもないものばかりだからすぐに見つかるだろう。


 その間セシルの戦いを見守ることができないが、Fランクなら心配いらない。

 そもそも見てても試合の結果に何も影響を与えることは無いのだから、私は私が出来ることをするのが正解だ。


 そうして私は露店が集まる広場、リベルテ広場に向かった。



「あ、あったあった。これとこれとこれと……これもちょうだい!」

「おう。毎度あり!」


 いくつか露店を巡り、これで必要なものは全て揃った。

 私は広場の端に行くとインベントリ、【薬師】の薬作製画面を開いた。


 必要なアイテムと量を指定し調合開始。

 これが【薬師】の本領発揮、腕の見せどころだ。


 実はこのゲームは同じアイテムでも色々な作製方法が存在する。

 またどういう手順で、どうやって作るかで収率、つまり一定の素材からできる薬の量が大きく変わる。


 もっと詳しく言うと、素材の使用量を一つじゃなくて0.9個分にするとか、言い出したらキリが無い。

 そして自慢じゃないが、私ほど効率よく薬を作り出せるプレイヤーは居ないという自負がある。


 何故なら、攻略サイトに書いてある最適と言われている方法よりも、効率がいいからだ。

 もちろん私は秘匿にしている。


 情報というのは握ってこそ価値があるから。

 と、うんちくはさておき、私は目的の薬をどんどん作っていく。


 今回作るのは【神薬】よりもずっと簡単な【強薬】。

 これを作ったのには色々理由がある。


 そろそろ必要になる頃だろうか。

 私はセシルが戦っている闘技場へ急いだ。

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