病院にて 2
「ああ、そうね。戦争は終わったのね」
「ええ。色々ありましたけどもう平和ですよ」
秋村さんの髪を梳くように手を動かした。
前回迄の記録を参照し、春であること、学校が再開していること、桜が咲いていること、温かないい日和であること、街の再建が続いていることを彼女に伝える。
耳には風の音、子供たちの声、遠くから聞こえるようなかすかな工事の音が届く。
「ああ、良かった。もう、あんなこと起きてほしくないわね……」
ぽつりとした彼女の言葉に、私の視線が下を向いた。
「……もう起きません、きっと」
きっと、と言ったけれど此れは確実なことだ。
戦争を乗り越えて、戦争の後を乗り越えて。祖先達は何とか今生きているけれど、本当に僅かに僅かに積み上げることの出来るゆとりがある程度なのだ。争いに争い、疲弊に疲弊した人類に襲い掛かった天災から私達は何とか生き延びた。戦争は惨禍を生み出し、その惨禍には経済大国の保有する原子力発電者も巻き込み、地球をゆっくりと確実に汚染をはじめ、そして私達の星めがけて飛んできた災厄は地球その物を打ち砕き人類の歴史は途絶えかねなかった。
でも、それでも祖先達を殺し切る事はなかった、けれども代わりにそれを乗り越えるための代償として人類は種の持てる力を全てを引き出した。
争う事を不可能にするほどの疲弊を人類にもたらした。
一時的に。
「秋村さん?」
一瞬考えの中に沈んでいた、その間に彼女は静かに。
脳神経をモニタしていた画面に映るデータは完全にフラットなラインへと移行していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます