第12話 食物連鎖でも食べ過ぎには要注意

 異界との門の前では、侵入してきた異界人と衛士達との攻防が繰り広げられている。 武装していない、あるいは明らかに非戦闘員と思われる異界人の存在に気づいている衛士もいるが、その意味を思考する余裕はなかった。

ただ、外の世界からの突然の侵入者、しかも意思疎通が困難だと思われる外観の相手に対しては、武力をもって対処するしかない。

しかし、

(待った!!)

現場に到着したロイの声が衛士たちの耳に、いや、頭の中に届いた。

魔法ではない、ロイの言葉をレアンの念波に乗せて直接、脳に伝えているのである。 もちろんこれは超能力といった超常的、あついはオカルト的なものでもない。 レアンがいた世界においては、通信手段をテクノロジーの代わりとして、思考を音波として飛ばす能力を長い年月において勝ち得た進化によるものであった。 レアンの種族が他の異界人と比べ、頭部が少し大きく角があるのもその為である(レベッカ説)。

(可能な限り、捕縛してくれっ)

「な、何だとっ? 相手は侵入者であり、しかも司祭様を襲った襲撃犯と同族であることは明らか………………」

念波だとすぐに理解したラッチが抗議の声をあげるが、

(レベッカ…………いや、アリア司祭のご意志だ)

レベッカに直接言われたわけではないが、彼女ならおそらくそうするであろうと、ロイは思って言った訳ではあるが、偶然ながらその判断は正解だった。

アリアの名を出されては、ラッチも他の衛士もそれに従うしかない。

「わ、分かった」

渋々承諾し、同じくロイの声を聞いた他の衛士達に目配せをして、対応を指示する。 彼らもまた、戸惑いながらも持つ武器を警棒に代えた。

現場に到着したロイも片刄のマチェットを峰側に持ち替え、レアンは拳を撲殺モード60%OFFで握った。

そうこうしている間にも、異界の門からは次々と異界の住人達がなだれ込んで来る。 ラッチも言っていたが、意思疎通が出来るかどうかも分からない相手に対し、どう対応していいかは手探りで試す他はなかったが、幸いなことにラッチの危惧は外れていた。

見た目が異様な異界人ながら、その全てが必ずしもこちらに対し敵対的ではなかったのである。 武装している異界人でさえ、戸惑っているような雰囲気があり、こちらを見るなり武器を捨てる者や、応戦しようとする者を諌める者までいた。

「?」

その様子に、衛士達はもちろん、ロイもまた困惑していると、

「ロイ………………」

声を潜めてレアンが声をかけてきた。

「あそこ」

彼女が視線で示す方を見ると、少し離れた建物の屋上に佇む人影が見えた。

あれは……………………、

「クラブマン………………………か?」


 ロイとレアンは建物の壁を蹴って駆け上り、クラブマンのすぐ背後にまで移動した。 ロイは拳銃の銃口をクラブマンに向け、

「あんたの負けだ。 此の期に及んで抵抗はしないでくれ」

「ああ、予定が狂ってしまったからな、もうどうしようもない」

言ったクラブマンは、さっきまでの敵対的な雰囲気はどこへやら、絶望したように頭を抱えている。

「?」

「君らの想像した通りだ。 私は異界人を利用してアリア司祭の始末を考えていたよ。 もちろん、あの程度の数の異界人でどうにかなるほど、ここの衛士を甘く見たりはしないがね」

「ならば………………?」

「彼らは襲撃のきっかけにすぎない。 本命はその後………………」

クラブマンが話の続きを言いかけたところで、

「ロイ、……………………あ、あれ…………………」

レアンが割って入り、異界人が現れた次元の門を指差した。

すでに門を通ってこちらの世界に来てしまったタコやカニや他の異界人の数は、優に100人を超えているものの、大きな戦闘等のトラブルは見受けられないが、最後の方の異界人が門を通ったところで、予想外のモノが門を通って現れた。

それは………………………………、

「に、逃げっ………………………………」

距離があって届かないと分かっていても、思わずそう叫んでしまった。

最後に門を通って来た何かの爬虫類が進化したような姿の異界人を追うように、門から現れたのは巨大な口、何かトカゲのような、恐竜を思わす巨大な顎門がその異界人を一飲みにしてしまったのである。

「あ、あれは……………………………………………………?」

「この世界では数の少なさから自然淘汰されて滅んだ肉食恐竜、向こうの世界でさらにそれが進化したものだ」

異界の門により、この世界では太古の生物が複数存在する。

門の先が時間を超えた大昔なのか、それとも進化の止まった世界なのかは分からないが、偶然にも恐竜と呼ばれる類の生物が、この世界に帰化している。

しかしそれでも、個体数の少なさから肉食獣は絶滅しまっていた。

「さすがの君らでも、アレの相手は厳しいだろう? ヤツらはそれなりに進化しててな、多少のコミュニケーションがとれたのでね、絶滅から逃れられるぞと、言いくるめることができたのさ。 こちらの世界は安全でエサとなる人間も他の生物もいくらでもいるという言葉に、まんまと乗せることができたんだ。 まあ凶暴な肉食恐竜といえど、こちらの武装なら撃退は可能だろう、できればアリア司祭と取り巻き諸共と共倒れしてくれれば、と思っていたのだが………………」

「?」

「まさかあの連中に、連携がとれるとは……………………………」

クラブマンがそう言った刹那、さっき顎門を見せた肉食恐竜が、異界の門をこじ開けるようにして傾れ込んで来た。 その姿は、図鑑で見るような、手は小さく、それに対しやたら不自然に太く巨大な後脚を持つ、いかにもといったモノであった。 「T-レックス」もどき、とでもいったところだろうか? しかもよく見れば、そのT-レックスの亜種なのか、角の生えたもの、前脚が爪が巨大な鎌のような鍵爪になったもの、飛べないまでも進化の途中なのか背に翼のようなものがあるものなど、そんな映画でしか観たことのないような怪物が、異界の門から次々と姿を現したのである。 その数、すでに二十数体を超えていた。

「おいおいおい、何だあの数は…………………」

「さっき室内から意識を飛ばし、異界の状況を確認したら、門の前でこの大群の様を見てしまってな、まさか同族とコミュニケーションをとれる知恵があったとは驚きだ。 数匹にしか声をかけなかったのだがな」

つまり、この異界の肉食獣達は絶滅から逃れられただけでなく、新たな狩場を得た、というワケだ。 クラブマンがレベッカの部屋から逃げ出し、レアンの前で慌てふためいていたのはそういった訳があったのである。

「あ〜も〜、仕方ねえっ!!」

最悪の事態に半ばヤケになってロイは、先日レアンが持って来た、新たな銃を使う決心をした。 受け取った木箱を捨て、大急ぎで組み立てる。 通常の拳銃2丁分ほどの大きさの本体に、12インチの銃身をねじ込みバレルピンで固定、本体の3連装シリンダーに50口径の弾丸を装填した。

今までこの世界に存在しなかったリボルバー式の連発銃。 レベッカが異界から持ち帰った銃の知識から部品一つ一つに到るまで設計を起こし、何度もテストを繰り返してようやく完成した新しい武器。 金属加工技術が未発達のため、強力な銃弾を撃てるだけの強度に不安があり、アイ達の世界で同じ物を作ったとしても、それより少し大きくなってしまう。 弾頭と薬莢、雷管で形成される弾丸というものもこの世界では初だった。 制作には設計の段階から馴染みのガンスミスと共同で行ったが、実戦テストはまだしていない。

この銃が本当に、この目の前の怪物に有効なのかは、実際に試さないことにはまだ分からないが、今はコレに頼るしかなかった。

「レアン、クラブマンを見ててくれ」

「オケ〜」

ロイは予備の弾をポケットに詰め込み、今も次々と異界の怪物が入ってくる門に戻った。


 門の前まで大急ぎで戻るロイ。

予想外の肉食恐竜に苦戦していたラッチ、少し遅れてやって来たボルトに、

「すまない、遅くなった」

と、大口径の弾丸を恐竜の頭部に撃ち込みながら詫びを入れる。

剣で応戦していたラッチや衛士達、ボルトもそれに返事する余裕などないながら、剣で恐竜を威嚇しつつ間合いを空けた。

ロイの銃の威力を見て、それ以外にこの怪物に対抗する術がないと、今は彼の邪魔にならないようと、判断してのことだったが、

「やはりライフルングとかいうのがないと、貫通力が低いか…………………」

とっておきだった新作の拳銃でも、この相手には力不足を実感してしまう。

レベッカから連発式の拳銃、リボルバーの基本設計は知らされてたが、さすがに銃身の中を螺旋状の溝を掘る技術までは、簡単には真似できそうになかった。

そのため、折角の大口径の銃弾とはいえ、恐竜の分厚い皮膚を貫くには至らなかったが、それでもダメージは大きく、血液を飛び散らせてダウンさせるくらいの威力はある。

「ならば………………」

ロイはそのまま、他の恐竜の脚元に走り懐に飛び込む。 そしてそのまま上を、恐竜の喉のあたりを見上げ銃口を向けた。

 - バンッ!! -

多くの生物の頭部の構造において、喉から脳への軸線上に骨などの硬い部分があまりなく、弱い武器でもここを攻撃すれば、このような大きな獣をも倒すことができる。 危険な賭けであったが、今の状況では他に対処法がなかった。

ロイはそれと同じ方法で、他の恐竜にも対処しようとしたが、この恐竜達は我らの知る恐竜とは訳が違う。 言語を解し、自分達の世界が滅びようとしている事を察して、異世界に逃げる知恵を持った進化した肉食獣なのである。

ロイの戦い方を知った他の恐竜達は、姿勢を低くしてこちらを威嚇した。

(やばいな……………)

ある程度に知恵のある相手は手強い。

そこそこ知恵のある相手なら、次の手を先読みして対処する事はできる。

しかし中途半端に知恵のある相手では、次の出方が分かりにくい。

それは、後ろで戦いを見ているラッチやボルトのような歴戦の猛者も同じで、今の恐竜の反応を見て、どう対応しようか困惑している。

そうこうしている間にも、異界の門からは次々と同じような、または大きさも種類も違う、見るからに危なそうな恐竜が姿を現して来ている。

すでに五十体近い数が通ってきたところで、ようやく流入は止まったようだが、はたしてこれだけの怪物をどうやって………………………、

「何っ?」

その時だった、閉じかけた異界の門を再びこじ開けるように、向こう側から巨大な顎門が飛び出し、先ほど門の前で恐竜に襲われた異界人のように、今度はその恐竜が捕食されてしまったのである。

「っ?」

閉じかけの異界の門、それを無理に通ろうとするのか、大地を震わせ腹を地面にこすりながらも、更なる巨大肉食恐竜が続けざまに五匹、ギリギリ通ったところで、門はようやく閉じた。

最後に門を通って来た怪物、元々の大きさは不明ながら、今は全長は40〜50mに至り、一般的に草食恐竜と知られている大型四足歩行の姿をしているが、顔つきはまるで肉食恐竜そのものだ。 長年の進化で草食から肉食になったのだろう、もはや元がどんな恐竜だったのか分からない、巨大で凶暴なその姿は、博物館や図鑑で見る恐竜というより、特撮ヒーロー番組に出てくる怪獣に近い。


その様子を、さっきの屋上から見ているクラブマン。

「ああ、やはり来たか。 あちらの様子を霊体で見た時、もしやと思ったが」

彼はすぐ横にいるレアンの方を見ることもなく、呟くように言った。

「何、アレは?」

「こちらと違って絶滅しなかった恐竜の子孫だ、何千年もの歴史でどういった要因で、どういった進化をしたかは正確には分からないが、我らの想像を超える何か、あるいは食物連鎖の結果だったのかもしれない…………………まあ、異界に逃げる知恵はあっても、それでも知能は虫レベルだ。 話し合いが通じる相手と思うなよ」

諦めきった表情のクラブマンの視線の先で、さすがにボケキャラなのに驚きを隠せないレアンもつられて同じ方を見ると、急いで後方に退避するロイの姿が見えた。 彼の後ろにいるボルト達も、更なる敵の登場に困惑している様子も見える。 このままでは、ロイ達が危ない。 レアンも応援に駆け出そうとしたそのとき、視界の端にレベッカの姿を捉えた。

「レベッカちゃん…………………?」

大聖堂の屋根の上。 街を一望できる場所ではあるが、それだけに誰からも見える目立つ場所でもあった。 命を狙われている身なのだから、出来るだけ隠れるようにしていなければならないハズなのに?

慌ててレアンは、ロイより先にそちらに行こうとすると、

「え?」

一際目立ちまくるそこで、レベッカはさらに目を引くように、

 - シャンッ!! -

手にした錫杖を一振り、異界からの怪物侵入により混沌としている筈のこの場に、金具の音色が辺りに響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る