第31話 子供心


 俺とみゆは駅の中にある格安でイタリア料理が食べれるで有名なサイ〇リヤに来ていた。


「名前だけはよく聞いてたけど、このお店に来るのは初めて」


「奇遇だな、俺もだ」


 店内は静かな感じで勉強とかするなら最適な環境なのではないだろうか? ドリンクバーもあるみたいだし。まぁ、勉強なんてする暇があるならバイトをしたい俺には関係ないのだが。それでも、学生御用達の飲食店で静かな雰囲気の店であるので俺としてはかなりこの店の好感度は高い。それに、なんと言ってもこの店の商品の値段だ。


「安いとは聞いていたけど、本当に安いんだね」


「だなぁ。ランチセットだとドリンクバーとスープバーが付いて700円を切ってるのもあるし.......」


「これで経営が成り立っているのがすごいよね」


「他の店での闇を感じるな」


 この店ではこれだけ安く提供出来ているのだから他の店でもここまでとは言わなくてももう少しリーズナブルに提供してくれてもいいと思う。まぁ、外食なんかしなくてもみゆの作ってくれるご飯で俺は満足なんだが。みゆの料理は本当に美味いからな.......。


「それじゃあ、私はこのハンバーグセットにする」


「俺もそれでいいかな」


 注文を済ませると、ドリンクバーもスープバーもご自由にとの事なのでそれぞれを取りに行き席に戻って、みゆと他愛ない話をしていると直ぐに注文していたハンバーグセットを店員さんが運んで来てくれた。


「.......美味しい」


「確かに美味しいけど、やっぱ俺はみゆの作るハンバーグの方が好きかな」


 前に1度だけみゆがハンバーグを作ってくれたことがあるのだがハンバーグも例に漏れず最高に美味しかったのだ。なんなら、カレーの次くらいに美味しかったかもしれない。そう考えると700円を切っているこのハンバーグセットも高く感じてしまうから不思議だ。


「.......どうして和哉くんはそういったことを不意に言うの」


「どうしても何も思ったことを言っただけなんだが?」


「.......和哉くんの馬鹿」


「やっぱ俺って人のことを褒めたらダメなの!?」


 本当に褒める度に馬鹿呼ばわりされるし気がするしそういう事だよね? これがいじめとかじゃないならそういうことだよな? というか、これいじめだよな?


「今日の晩御飯もハンバーグにする?」


「みゆが作ってくれるのか? それなら喜んでお願いするぞ」


「.......私の冗談が通じない」


「冗談なのか.......」


 みゆのハンバーグが食べられるなら1日のうちの2食がハンバーグであっても俺はいいのに.......。割とショックだ.......。


「.......そんなに食べたいなら作るよ?」


「本当か!?」


「和哉くんって、普段はクール系なのにたまに子どもっぽくなるよね」


「男はいつだって子供心を忘れたらいけないんだよ」


「たしかに好きな食べ物もカレーにハンバーグって完全に子どもだよね」


「それは偏見だろ。大人になったらカレーやハンバーグが急に嫌いになったりなんかしないのだから、それが好きだから子どもっぽいっていうのは間違いないなく偏見だ」


「ムキになるのが余計に子どもっぽいよ」


 そう言ってみゆは俺を小馬鹿にしたように笑ってくる。.......みゆに小馬鹿にされたりするのって何気に初めてだが、これも悪く.......落ち着け俺。それ以上はダメだ.......。


「好きな物は好きなんだから仕方ないだろ.......」


「ふふ。そうだね」


 なんか、今日のみゆは調子狂うな.......いや、今日に限らず最近のみゆには調子を狂わされっぱなしだ。それから、俺とみゆは30分ほど店にいたあと今日の本命であるクレープを食べに行くべく店を出る。


「それじゃ、払っとくから店出てて」


「わかった」


 一見すると俺が奢っているようにも見えるが全くそんなことは無い。みゆがバイトを初めてからは家賃と食費と言って給料日の度に5万円を渡されて(押し付けられて)いるので、ただ単に俺が会計をしているだけできちんと割り勘ということになっている。


「それじゃ、行くか」


「うん」


 会計を済ませて店を出て、クレープ屋さんに向かおうとすると


「あれ、黒嶋くん?」


「.......秋風」

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