美人な先輩がアホすぎる!

古野 けた

第1話 ファストフード店

 

「おや、ボブじゃないか!こんな所で何をしてるんだい?」

「先輩、人を洋画でなんだかんだ最後まで生き残る主人公の友人役みたいな名前で呼ばないでください。俺の名前はミノリです」


 放課後、俺は学校近くのファーストフード店で1人シェイクを飲みながら勉強をしていた。するとそこにポテトを山盛りに積もらせたトレーを手に持つ制服姿のマキ先輩がやってきた。


 マキ先輩は腰まで伸びた綺麗な黒髪とお淑やかそうな美少女顔とスタイルの良さを面倒くささで全てドブに捨てた人物である。

 もしマキ先輩について簡潔に説明しろという問題があれば『見た目の綺麗なドリアン』と書けば満点を貰える。


「あぁ、今はミノリ君だったね。流石に5回も名前が変わると覚えるのも大変だな」

「そんなソシャゲ内のニックネームみたいに名前変わってませんよ。産まれた時から俺はミノリです」

「そうだったのか。それにしても1人で4人席に座るなんて贅沢だね」

「今の時間は人が少ないので……混んでくる前には帰ります」

「そうかそうか、それなら私も座らせてもらうよ」

「なにが『それなら』なんですか。嫌ですよ、別のところに座ってください。集中できないじゃないですか」


 俺はシッシッと片手を振ってマキ先輩を追いやろうとする。


 しかし、マキ先輩は気にする様子もなくテーブルにトレーを置き向かい側にどっかりと座る。

「知ってるか?3年A組担任の中村、3年D組の田中と中学の時同じクラスだったらしいぞ」

 マキ先輩はそう言ってポテトを口に放り投げる。


「まったく興味の無い話題で話をそらさないでください。だいたい俺は2年なんですからどっちもあんまり知らないですし」

「それは残念だ。せっかく『中村の自動追跡チョークの回避方法』について話そうと思ったのに」

「少しだけ気になる題名付けないでくださいよ」

「私の101歳の曾お祖父さんが東京に1人で住んでる話をしてもいいぞ?」

「それは色々と心配ですけど遠慮しときます!俺は勉強がしたいんです。座るのは許可しますけど邪魔しないでください」

 俺はキッパリとそう言ってノートに目を移す。


「ふむ、それなら仕方ないな。分かった、私は黙ってポテトを食べよう。……ところでミノリ君はシェイクだけなのかい?」

「先輩は自分の発言を忘れながら話してるんですか?」

「いや、どうしても気になってね」

「そんなに気になることですかね?まぁ、これだけですけど」

 俺はシェイクを持ち上げる。


「ふふ、私はこれだけだぞ」

 何故かマキ先輩も便乗してトレーを持ち上げる。


「え、ポテトだけ?飲み物とかいらないんですか?」

「おいおいポテトだけって、1000円もしたんだぞ!飲み物なんて買ったら破産してしまう」

 ポテト1000円分ってLサイズ3つも買ったのか……どうりでそんなに量が多いわけだ。


「別に何食べるのも先輩の勝手ですけど、喉乾いても俺のシェイクはあげませんからね」

 俺は先に釘を刺しておく。


「ふん、そんなの分かっている。しかしこちらは地面に頭を擦り付ける心構えが出来てるんだぞ?良心のある君がそれに耐えられるかな?」

 めちゃくちゃ貰う気満々じゃん。しかも土下座までやるのかよ、この人に羞恥心はないのか。


「そうなったら縁を切る代わりにシェイクあげますね」

「なっ!?それは困るな……ポテト少しあげるからダメか?」

 マキ先輩は目の前にどっさり盛られたポテトを指さす。どうやら本当に飲み物を買いに行くお金が無いのだろう。


「いりませんよ。手が汚れますし」

 ノートに油や塩が付くのが嫌なのですぐに拒否する。


「わ、分かった!私が食べさせてやろう!それでどうだ?なんならその写真を撮ってSNSにあげてもいいぞ?」

「いやいいですよ。なんでリア充アピールしなきゃならないんですか」

 確かに美人(笑)な先輩を載せれば知り合いから羨ましがられると思うが、俺のSNSが汚れるのでやらない。


「とにかくシェイクはあげませんから。何か飲みたいんだったら水でも貰ってきたらどうですか?」

 マキ先輩は偉そうに腕を組む。

「私が易々と人に頼み事をするわけないだろ」

「土下座覚悟で頼み事してた人がよく言いますね」

 俺はそう言って冷たいシェイクを飲んだ。


 ……うわっ、めっちゃ見てくるこの人。


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 それから俺は勉強に集中し、マキ先輩はスマホを弄ったりポテトで遊んでいたりした。


 数分たった後、マキ先輩はポテトを片手いっぱいに持ち俺に話しかけてきた。

「なぁなぁ、ポテト二十本一気食いするから見といてくれないか?」

「なんでそんな脳に悪影響しか与えないような行動を見とかなきゃいけないんですか。嫌ですよ」

 俺はシャーペンを動かしながら答える。


「おいおい、後で見せて欲しいとお願いされてもやらないからな?」

「言わないですし、今もやって欲しくないです」

「じゃあまず一本目!」

 聞いてないなこの人。

 俺が顔を上げるとマキ先輩はどんどんポテトを口に運んでいた。


 絶対むせるだろ……。

 俺はそう思いながら立ち上がり、早めの対策として水を貰いに行く。


「んー!んんー!」

 マキ先輩はどうしても見て欲しいのか俺を引き止めようと手を伸ばしてくる。

「先輩、むせてもノートは汚さないでくださいね」

 俺はマキ先輩の手を払いのけた。


 カウンターに着くと爽やかな笑顔で若い女性店員が接客してくれる。

「すみません、水貰っていいですか?」

「かしこまりました。お1つでよろしかった___」

『ゴッホゴホッ!ゴッホ!』

 店員さんは店内に響き渡る大音量の咳き込む声に心配そうに顔を向ける。


「気にしなくて大丈夫ですよ。すみません迷惑かけて」

「あ、アハハ……す、すぐにお持ちしますね」

 事情を把握したのか店員さんは苦笑いしながら水を用意しに行ってくれた。


 水を持って戻るとマキ先輩は苦しそうに下を向いていた。

「ゴホッゴッホ!ゴッホ!ひまわり!星月夜!」

「咳と一緒にゴッホの代表作言わないでください。はいこれ水です」

 俺が紙コップを手渡すとマキ先輩はゆっくりそれを飲んだ。


 それからしばらくして落ち着いたマキ先輩が口を開く。

「すまない、助かったよ。もう少しで曾お祖父さんに会いに行くところだった」

「東京に行くところだったんですか?」

 本当に生きてるの曾お祖父さん?尚更心配になってくる。


 俺はノートが汚れていないことを確認して席に着いた。

「まったく、マキ先輩って顔は良いんですから変な行動で好感度下げるのはやめた方がいいと思いますよ」

 俺がそう忠告すると、マキ先輩は至って真面目な表情になる。

「なんだ急に褒めてきて。彼女になって欲しいならしっかりそう言え」

「……そういうとこですよ」

 俺はため息をつき、ほとんど溶けてしまったシェイクを飲む。



 ……うわっ、めっちゃ見てくるこの人。




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