第九節 結果

翌日、美術部でコンクールに出す絵が清川先生から発表された。


「コンクールに出す絵は草間の絵にする」


そう、清川先生は、はっきりと皆に宣言した。大方、皆の予想通り草間部長の絵が選ばれた。

「いちめんのなのはな」の絵。

澪は少し期待していただけに自分の絵が選ばれなかったことに肩を落とした。


「ほんと、目の上のたんこぶ」


有華がボソッと澪にだけ聞こえる声で言った。

澪は草間部長に憧れているだけに複雑な心境だった。


草間部長が部室の壇上に立つ。


「僕が選ばれたけれど、三年生はもうすぐいなくなるから悪いけど我慢してくれ」


そう言って笑う草間部長はやっぱり爽やかだ。

澪は、草間部長が卒業することを少し残念に思った。


有華は、澪の寂しげな表情に気づいたのか、澪の頬を突っついた。

「おやぁ、澪は部長が……」

「いやいやいや」

澪は必死に首を振る。


「私、何も言ってないのに」

ふふっと有華は相変わらず可愛い顔で笑う。

澪は照れつつ、こんなに可愛い有華の方に彼氏がいないのが不思議だと思った。


「そうだ!三年生を追い出すぞ!」


同級生の田代が、コンクールの結果発表を見越して、祝賀会を開こうと言い出した。同時に三年生を送り出す(追い出す?)会にしようとも思っているらしい。

澪が世話になったのは草間部長だけではない。来栖先輩には、事あるごとに助けられた。

草間部長は美大進学が決まっているが、来栖先輩の進路は知らない。


来栖先輩は高校卒業後、どうするのだろう。

思い切って澪は来栖先輩に聞いてみた。


「俺は……旅にでも出るか」

「えっ?」


突拍子もない発言に澪は目を丸くした。


「はは……嘘だ。家業を継ぎながら細々と絵を描くさ」


「そうですか」


澪は頷きながら、来栖先輩の笑顔は初めてみたな、と感慨深く思った。

来栖先輩の家は酒屋をしているらしい。未成年で家業を継げるかは微妙だが、手伝いをしながらいずれ継ぐという意味だろう。


私も、将来どうしよう……。


漠然と、どこかの大学進学しか考えていなかった澪は考え込んだ。

絵を描くという夢中になれるものを見つけた。

しかし、美大進学を考えると当然、普通の大学よりお金がかかるし、そもそも今回のコンペに通らなかったのである。


その悩みを有華に打ち明けると、有華は「大丈夫」と澪の肩をポンとたたいた。


「澪なら、きっと答えを見つけられるよ。だって、入ってすぐのコンペでここまでの絵が描けたんだもん」


「ありがとう」と澪は、有華に感謝した。コンペで燃え尽きてはいない。むしろ、次はどんな作品を描こうかとワクワクしてしょうがない。


澪は、草間部長の絵がコンクールで良い賞をとるように願っていた。

自分が目指すべき場所がなんとなく見え始めた澪だった。

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