第二節 帰り道
部活後はとにかくお腹がすく。
美術部帰りの有華の前で澪のお腹が盛大に鳴った。
「運動部の宿命だね」
テニス部の部室に来た有華は快活に笑う。悪気はないが、有華は思ったことをハッキリ言うタイプだ。赤面する澪の背中を叩いて千夏がこぶしを挙げる。
「なんか食べいこー」
千夏は空気を読んで、お決まりのコースを提案する。澪も有華も待ってました!と、はしゃぎ合う。学校から少し離れたカフェに向かうため、学校を出てもバスには乗らず、三人は駅前に向かった。
美味しいケーキとパフェが評判のカフェ。
メニューは種類豊富で、この店のスイーツは宝石のような果物が甘くて美味しい。同じ高校の制服の子はもちろん、他校の生徒も足を延ばすカフェには活気が満ちている。
今日はケーキの気分かな~と澪は二人とメニュー表を眺めた。
この何でもない日常が楽しい。
実際に二人と出会った高校一年生を澪は、今もまざまざと脳裏に思い浮かべることが出来る。
席が近くて最初に澪に話しかけたのが、有華。勉強が良く出来て、美術部でもバリバリ絵を描いているらしい。たまに澪にキツいことを言うけれど、それがおっとりした澪にはちょうど良い。根底には友情があって、澪には頼れる存在だ。そういえば、有華がこの間の休日に着ていたワンピース、可愛かったな、と澪は思う。性格に反してキュートな服が似合う甘いフェイスをしている。
同じクラブがきっかけで仲良くなったのが、千夏。ツッコミ役の有華に対し、千夏は明るいムードメーカーだ。テニス部ではハッキリ言って、澪より実力がある。筋肉質な身体つきをしていて、ボールをバネのある身体で強くスマッシュする姿がカッコいい。
千夏のよく手入れされたピカピカの爪がパフェ専用の長いスプーンを握っている。千夏はオシャレでカッコよくて羨ましい。他校に彼氏がいるのも頷ける。恋愛基本禁制のテニス部内では微塵も彼氏アリなところを見せないところもスマートだ。
「もう、澪。また、ボーっとしてる!」
有華の声でハッと澪は我に返る。
「ごめんごめん」
自分の思いに浸ってしまうと、つい澪は人の話を聞き流してしまう。
特に綺麗なもの、好きな物、美しいものを見たり思ったりしたら、ついつい、うっとりとしてしまうのだ。
駅前で澪は二人と別れて、バスは使わず徒歩で家に向かう。
もう日は落ちているが、自宅には駅前からなら少し歩けば着く距離だ。
今晩の夕食はなんだろう?昨日のカレーの残りだったら嫌だなぁ。
などと考えながら、暗い角を曲がった。
その時、ヒヤッとした感覚が澪の全身を襲った。
そして、強烈な光が澪の視界をつぶした。
曲がった角から強烈に澪を照らしたライト。
ドンッとした衝撃が身体全身を襲う。
不思議なことに、痛みは感じなかった。
澪にはその一瞬がまるでスローモーションに見えた。
跳ね上がる自分、視界に映る自動車の眩しい光。運転手の驚いた顔。
カバンが、
テニスラケットが、
宙に舞う。
クラクションは遅れて耳をつんざくように聞こえ、そこでパソコンが強制終了されたように澪の意識はブツンッと切断された。
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