011 イベントボス遭遇!

 ソウはログインすると森に向かった。

 その間に適当なNPCを捕まえて、森に名前が付いているのか尋ねたところ、教会裏を北として東西南北の森と呼んでいることが判明。ついでに北の森は精霊の森と呼ばれているとか。

 ここでひとつの疑問が浮上してきた。

 サービスが開始してから一ヶ月が経過しようとしている。新たな街が解放されたとはいえ、プレイヤーも増えていることだろう。イベントも行われていることからモノリスには多くのプレイヤーが集まっているはずだ。NPCクエストの存在はSNSで拡散されているので、少なからずNPCに話しかけるプレイヤーはいる。

 俺がフェリアと出会ったことで精霊の情報は全体公開された。又聞きで掲示板でも話題となっているのも知っている。ならば、精霊の存在についてNPCに尋ねるプレイヤーがいるはずなのだ。それでも精霊の森に関する情報が出てきていないことに引っかかっていた。

 ここで考えられる仮説は、条件をクリアした人間だけが精霊の森に入れるということだ。俺が幽霊現象の正体だとするならば、他のプレイヤーにはあそこにある扉が見えていない。つまり、北の森の存在を認知できないようになっている可能性が大いにある。

 さらに、昨日話題に上がった領主の娘に贈られたポーション。本来ならば調合ギルド辺りが絡む案件であるはずだ。しかし、啓子が言うには調合ギルドは関与しておらず、ポーションの出処も領主が黙秘したことで不明という点も気になるところだ。


「やはり、ご老体を問い詰めてみるしかあるまい」


 泉の水が有用な薬に変わるのであれば、今後の攻略の助けとなることだろう。

 占いギルドの2階にある部屋で起きたソウは先日フクロウに案内された順番で階段にたどり着くと下に降りた。

 壁を抜けてカウンターを見ると無人。フクロウもいない。

 

「ふむ、仕方ない。レベル上げに行くか」

 

 居ないのでは何も聞けんからな。昨日は受けなかったが、可能な限り期限なしのクエストはため込んでおくとしよう。

 昨日みたいにフォレストウルフを討伐したのにクエストを発注していないためノーカンになってしまうのを防ぐためだ。

 ソウは大水晶に触れてクエストを受けていく。

 すると、クエスト欄から赤文字で受注上限という警告が出てきた。

 なるほど、並行受注できるクエスト数は8つまでなのか。

 ならば、討伐クエストを優先受けて、あとは薬草採取。……水汲みはいいか。

 受注クエストを整理したソウはレベルアップしていたのを思い出し、STRにポイントを振っておく。改めて占いギルドを出た。


「次は別の森に向かってみるとしよう」


 フェリアのクエストがイベントと連動しているのであれば、後一週間の間に解決しなくてはならない。

 康太郎の言ではレベルが低いほどイベントボスとの遭遇率は高い傾向がある。とはいえ、生まれたてにその補正がかかっているとは思い難い。

 ボスのレベルが25ほどとなっているならば、大体15~20辺りか。

 なんにしてもレベルが3の俺は早急に上げる必要が出てきた。

 

「逃げてもいいとは言われているが、そうも行くまい」


 これまで位置的に南の森を散策していたソウだが、今回は行ったことのない東の森へ向かうことにした。

 大通りを南側に向かって進み、街の中央に位置する十字路を左に曲がる。道なりに進んでいくと大きな建物が左右に見えた。東側には魔法ギルドと鍛冶ギルドがあるのか。

 大きな円柱状の建物上部に杖の描かれている看板が魔法ギルド。レンガで構成されており、炉と金槌の描かれた看板を掲げているのが鍛冶ギルドである。やはり、調合ギルド同様に賑わいを見せていた。

 なんとなくだが、商業ギルド以外のEXギルドは辺鄙な場所に設置されている気がしてきた。基本職ギルドは目に付きやすいよう大通りに面しているのだろう。

 大手ギルドを横切って少し行くと東の森に出ることができた。

 ぐるりと見渡す限り、南の森以上の数のプレイヤーを発見した。


「狩場としてはこちらの方がいいのかもしれんな」


 ソウはなるべく人がいない場所を目指して森の奥へと進んでいく。無論、道中で薬草を拾うのは忘れない。また、毒草、痺れの原料となる草も発見できたので同時に採取。

 蜂の巣を見付けたが蜂のモンスターが巣を守っていた。短剣では虫相手は辛いため、泣く泣く蜂蜜の採取を断念。

 そういえば、この世界の食べ物はきちんと味があるのだろうか?

 青ポーションは水だったのであまり気にしていなかったが、現実同様の味が再現できるのであれば、また変わってくるのだろうな。

 ソウは閑散とした場所を見つけると、近くのモンスターを狩っていった。

 もはや彼にとってホーンラビットは脅威でなかった。フォレストウルフもサブレベルが上がったことで動きが追えるようになっていた。

 結果、ホーンラビット20体、フォレストウルフ6体、偶々見つけたランドスネーク1体を討伐した。

 全長が1mほどのランドスネークであったが、牙に毒がありそうだったので噛みつきに合わせて水晶玉ガードをすれば特に怖い攻撃はなかった。移動速度はこちらが上だったので難なく討伐。

毒袋をドロップした。奴さんは毒を持っていたらしい。牙を避け切って正解だった。


「毒霧があったら怖かったな。そろそろ状態異常回復ポーションにも手を出すか」

 

 残念なのはこいつの討伐クエストがなかったことだ。

 レベルも一気に上がり、占い師がレベル5、盗賊も4になっていた。ポイントはSTR・AGIに3、DEX・LUCKに1ずつ割り振っておく。レベル5に到達したことで、MPが5増えていた。5レベル毎の上昇なのだろうか?

 ステータスを更新したソウは唐突な警告音に、驚かされた。


「なっ、何だ⁉」


 異常を知らせる警告音。ソウがそれに気付いたのは丁度コンソールを閉じたときだった。


「がっ!!」


 背後から強い力がかかり、ソウは端の木の近くまで飛ばされた。不意打ちであるが故受け身など取れるはずもなく、ソウは地面に腹から着地してそのまま滑った。木と正面衝突したことでようやく身体が停止した。


「つぅ……」


 痛みを堪えて立ち上がり、己を飛ばした原因を見た。


「猪、か」


 全長はソウの3倍ほどで茶色の猪だった。現実と違うところといえば牙がやたら長く重力に逆らって伸びていることだろうか。

 猪は興奮しているのか、前足をその場で蹴っていた。

 ソウは敵の名前を見た。


「レベル15、ワイルドボア……イベントボスとは、やってくれるものだ」


 ランダムエンカウントとはいえ、もう少しまともな登場であってほしかったものだ。

 先ほどの戦闘を無傷で乗り切ってよかった。

 ソウのHPは今の攻撃によって半分を切っている。すなわち、突進をあと一度でも受けるとサヨナラといったHP帯だ。

 イベントリから青ポーションを取り出して飲む。全快した。

 

「青はあと2本。レベル差10はキツイかもしれん」


 とはいえ、すでに戦闘が始まってしまっているのでログアウトはできない。すでに、この場は個別フィールドに変更されていることだろう。ほかのプレイヤーに共闘を頼むこともできない。


「出会ってしまった以上、仕方ないことだ。相手をしてやる」


 その声が引き金となり、ワイルドボアはこちらに突進してきた。

 ソウにはワイルドボアが一瞬にして距離を詰めてきたことに、驚く暇もない。とっさに横へ身を投げ出した。間一髪のところで回避に成功。重い接触音が背後から聞こえた。

 ソウはすぐさま立ち上がってそちらを見る。すると、木が徐々に向こう側へ倒れていった。


「まじか」


 どうやら手加減されていたらしい。あの威力であればソウのHPは優に消し飛んでいたことだろう。

 とはいえ、向こうは木との衝突で怯んでいた。


「チャンスはモノにすべきだ」


 ソウは駆けだして、その大きな背中へ獣骨の短剣を振り下ろした。

 しかし、刃は通ることなく弾かれてしまった。

 反動で腕が上がり、肩にダメージが入った。それが景気でワイルドボアはこちらに振り向いてしまった。反動でバランスを崩したソウだが、体幹をうまく使って姿勢を正すと僅かでも距離を取る。


「堅いが、ダメージは通ってる」


 敵のHPを見れば、大体5%ほど削れている。つまりこの短剣で20回切り込めば倒せる。が、正直なところ短剣の耐久値が持たないだろう。


「これは、やるしかないか?」


 冷や汗を流しながら、ソウはこれから始めようとする己の愚行に辟易とした顔をするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る