009 小さなことからコツコツと
占い師ギルドへ戻ったソウは大水晶にクエスト完了の報告をした。
報酬の500マーニを貰うとメルダを探す。
「ふむ、ご老体は外出中か」
カウンターには誰もいないので上だろうか。試しに階段のある壁に向かって通り抜けようとする。
「痛っ」
壁と熱烈なキスを交わしてしまった。
【観察眼】が発動し、“どうやら主不在によりロックがかけられているようだ” という説明分が浮かび上がっている。
「むう、納得はできるが事前に説明してほしいものだ」
「それはすまないねぇ」
唐突に背後からしわがれた老婆の声が聞こえてきた。
さすがにもう驚きはしなかった。
ソウは声のする方へ振り向くと、黒フクロウが入り口の上に留まっていた。本人ではなかったが意思疎通できるならどちらでも構わない。
「ご老体、泉の水を汲んできたがどこに置けばいいだろうか?」
「おや、水を汲めたのかい。よくやったものだよ」
「確信犯が何を言う」
「ふぇふぇふぇ」
亀のこと隠しておいてよく言うものだ。
「フェリアとの関係は今のところ聞くつもりはないがね」
「おや、そうかい。なら、瓶は貰おうかね。袋を用意したからそこに入れておくれ」
袋なんてどこに――カウンターを見れば皮袋が置かれていた。
転移魔法もあるのか。これを知れば魔法師たちがお祭り騒ぎになる案件だろうに……。
「ご老体、実は魔女だったと言われても驚かんぞ」
「そうかの」
皮袋に水を入れたポーション瓶を詰めると、ソウは皮袋を掲げる。玄関口に止まっていたフクロウが降りてくると、器用に取手を咥えた。フクロウをひと撫でし、行ってこいと顎で外を指す。フクロウは頷くと玄関口から飛び去っていった。
クエストクリアのアナウンスとともに報酬が振り込まれたようだ。
「さて、俺はレベル上げだな」
そういえば、ジョブレベルが上がったんだったか。
ウサギの時もスキルが上がっていた気がしたのでここで、ステを見ておくか。
コンソールを出してステータスをタップ。
果たして、今はどうなっているだろうか。
・名前:ソウ 種族:ヒューマン 所持金:2200マーニ
・ジョブ:占い師lv2 盗賊lv1
・HP102 MP50
・STR:10 VIT:10(+3) AGI:30
・DEX:30 LUK:20
・SP2
・スキル 【未来視】lv1 【回避】lv2 【観察眼】lv2
・称号 なし
・加護 創造神の祝福
・武器:水晶玉 獣骨の短剣
・防具:旅立ちセット
なるほど。ジョブレベルが上がるとHPが自動的に上がるのか。MPは据え置きだが、予想では2レベにつき上がるとかだろう。
SPが増えているので割り振りが可能になった。このゲームはレベルアップごとに割り振れるステが決まっているようで、それはジョブに依存しているようだ。今回はAGI、DEXにしか振れないようなのでそれぞれ割り振っておく。ジョブ選択外のステについてはMPと似たものだとか。ジョブの組み合わせで変わってくるためにテーブルがまだ出来上がっていないと聞いたな。
ステータスの設定を終えたので、ソウは改めて森に向かうことにした。
*
森に到着したので真っ先にウサギたちを狩っていく。ステが上がったおかげかウサギの討伐が楽になった。
ドロップ品を確かめようとしたところで接敵を知らせるアラートが響いた。次はオオカミが相手か。
名はフォレストウルフ。其れも2体同時と来た。向こうのレベルはそれぞれ4。2レベとはいえ格上に違いはない。
「さて、行こうか」
獣骨の短剣と水晶玉を構えると同時に向こうから迫ってきた。ホーンラビットとは違い、飛び道具がない分ソウにとっては戦いやすい相手かもしれない。
そう思って油断していた。
噛みつこうとしてきた場所に水晶玉を合わせるが、
「ぐっ!」
思ったより向こうの動きが早くてタイミングが合わなかった。水晶玉の横をすり抜けられ、左肩に噛みつかれてしまう。左手を振って横っ腹に打撃を与えようとするもすぐに顎を離して撤退されてしまった。
空振ったところを突かれて別のオオカミに右足を噛みつかれてしまう。
これでは埒が明かなかった。
「ちい、速い」
オオカミを蹴り上げて無理やり引きはがす。HPは3割ほど減っている。
「2発でこれか」
向こうは並んでいたが有利と見て散開。挟撃を目論んだようだ。
どちらも相手にしなくてはならない分、有効な手と言える。一応両方とも視界には捉えてはいるが、木を隠れ蓑にするつもりなのかソウが見失うのは時間の問題だった。
「賢いじゃないか」
こうなったら、視覚に頼るのを一旦止めるか。改めて構えたソウは目を閉じて、周囲の音を聞くことに集中する。
ノイズが多いが、こちらに近づく草の音が段々と大きくなってきている。
……右のほうが遠い。
左から近づいてきたオオカミの大きな足音がした途端、後の音が消えた。
つまり…… ソウは後ろへ大股で一歩下がって目を開けると丁度鼻先にオオカミが通り過ぎようとしていた。
「よう」
逆手に持った短剣をその空いた横っ腹に切りつける。
「ぎゃん!」
いい初ダメが入ったな。
振りぬいた後、右からも音が消えた。短剣を振りぬいたことで、右の相手を背にしてしまった。ソウは反転すると、音の消えた方へ遠心力を載せて左手をフルスイング。
「ジャスト!」
水晶玉がオオカミの顔面に食い込んでいた。モロに食らったオオカミは振りぬかれた方へ飛んで行ったった。体幹がいいのか無事着地していたのが癪だった。脳震盪までは行かなかったらしい。
STRが低いから仕方ないか。
再度、構えて向こうの出を待つ。
やはり、獣。動くのにそう時間はかからなかった。カウンターが来ることは承知の上で突っ込んでくる。今度の音が消えたのは同時だった。迷った挙句、ソウはまたもやバックステップを選択。
一匹の攻撃はやり過ごしたが、こちらの攻撃がギリ届くくらい。
まさか――
そう思ったとき、背後から爪が食い込む感触がやってきた。
「ぐう」
見事にやられた。HPが半分を切る。
「出し惜しみしてられんか」
ソウは水晶玉を消して青ポーションを煽る。
HPは全快したが、受けた痛みは消えないようで背中で鈍痛が起こっている。
痛覚設定で抑えられているものの、完全無効にはしていない。日常では味わうことのない感覚にソウのアドレナリンが分泌されているのを直に感じた。
とはいえ、これで向こうの行動が噛みつきと引搔きだということは分かった。炎とか吐いてきたら知らん。大人しく死に戻りするしかあるまい。
それを加味して、ソウは一匹を常に視線上に置く立ち回りを始めた。すると、チャンスとばかりに背後から足音が消える。無論、隙を突いて来ることなど予想していた。
「囮だよ、犬」
ソウはサイドステップで身体をズラす。通り過ぎたオオカミに向かって今度はソウが飛び込んでいく。
がら空きの背中に短剣を突き刺して、素早く引き裂いた。肉を引き裂く感触が刃から右手を通して伝わってきた。
「ぎゃん!!」
クリティカルが入ったらしい。オオカミはポリゴン化したのち消滅した。
「次ィ」
視界に入れようとしたとき、背後からまたもや痛みを感じた。
攻撃を受けるのは分かっていたので必要経費だが、同じ個所は痛みが増すのか。つくづくリアルだな。現実であれば立ってなどいられないだろう。
相方は倒しているので、ヒット&アウェイを決めたオオカミをすぐさま捉える。
これまでの戦闘で奴の飛ぶタイミングとこちらに接触するまでの時間も大体把握できた。後はタイミングを合わせるだけか。速さが分かってしまえば今のステータスでもどうにかついていけるようだ。
飛び込んできたオオカミに水晶玉を投げつける。
飛び上がったのが仇になったな。回避できないだろう。
オオカミは頭を捻って避けはしたが、避け切れずに胴体に当たってしまう。その間にソウはオオカミの進行方向のずれた方へ斜めに走り、落ちた水晶玉を拾い上げた。
「さて、犬よ。あと何発耐えられる?」
それからはもう、作業だった。結局水晶玉ではHPの減りが残念だったので短剣を4、5回当ててようやく倒すことができた。
水晶玉よ、お前は本当に武器かね?
なんにせよ無事にオオカミを討伐したところで、ソウのHPは半分にまで減ってしまっている。各種レベルアップを告げるアナウンスが流れた。格上2体だから上がってもらわなくてはな。
「これ以上は無理か、引き上げよう」
青ポーションもないので、これ以上の戦闘は死に戻り前提となってしまう。出来ればそれは避けたいので、一度だけホーンラビットと戦闘を挟みつつソウは速やかに森を抜けた。
調合ギルドで青ポーションを補充した後、占いギルドへと向かうのだった。
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