第16話 店を出す

 現在、俺はボルチックさんの助けを借りて面接の最中だ。

 店では小売はしない、おろしだけをする。


「次の方」


 ノックをして若い男が入って来た。

 一礼して椅子に座る。


「デルバジルです」

「何が出来ます」

「計算と帳簿付けが出来ます。接客もある程度なら」

「幻術士をどう思います」

「禁忌持ちでは無いですけど、良い気分ではないです。いっその事、教会が取り締まればいいのに」

「そうですね。結果は追って知らせます」


 これが、一般の反応だ。

 職業による差別が染み付いている。

 十人ぐらい面接したが似たり寄ったりだ。

 職業に差別を持たない人間が応募してくれればいいのだが。


「次の方」


 おどおどした女の子が入って来た。

 黒い髪に黒い目で日本人のハーフを思わせる容姿だ。

 なんとなく親近感が持てる。

 彼女は椅子に座ろうか考えているようだ。


「お座り下さい」

「はい」

「お名前は」

「シャデリーと言います」

「何が出来ます」

「掃除と接客が出来ます」

「幻術士をどう思います」

「差別されてかわいそうだと思います」


 おや、おどおどした様子はなくきっぱりと答えたぞ。


「教会による職業の差別を無くしたいと考えています。どう、思います」

「たいへん立派なこころざしだと思います」


 おお、好印象だ。


「差し支えなければ、あなたの職業を教えて下さい」

「火魔法使いです」


 おっ、なんか今、目が泳いだぞ。

 何か隠しているな。

 うーん、職業に対する意識は好印象なんだが、どうだろう。

 雇ってみるか。


「明日から来れますか」

「ええ、大丈夫です」

「俺はサクタ。よろしくな。副会頭としてジュサという子がいる。後で紹介するから会ってくれ」

「はい、よろしくお願いします」


 店の場所も決まり営業を始めた。

 店と言っても本体は倉庫で、店は試供品を食わせる場となっている。

 俺はジュサと馬車に商品を満載して店に訪れた。


「ジュサよ。あなたがシャデリーね。仲良くしましょ」

「シャデリーといいます。よろしくお願いします」

「固いわね。もっと柔らかく」

「シャデリーです。よろしく」

「それでいいわ。試供品が余ったらつまみ食いしてもいいから」

「おい、おい。俺の見てる前でそんな事を言うなよ」

「いいじゃない。店員たるもの扱っている商品の知識も知らないと」

「まあ、いいか。ほどほどにな。倉庫の品には手をつけるなよ」

「そんな事しません」


 リビングアーマーに商品を降ろさせてから、俺達は店を後にした。


 その後何度も店を訪れたが、シャデリーは真面目に勤めているようだ。

 初対面でのおどおどした感じは既に無くて、人当たりも良い。

 いい人を雇ったな。

 一週間後、俺は一人で商品の補充に店へ来た。


「あれは何です!?」


 シャデリーに詰め寄られた。


「あれって何の事だ」

聖氷肉せいひょうにくです」

「おかしな事でもあったか」

「おかしな事だらけです」

「例えば?」

「普通の火で焼いたら食えた物じゃない」

「それは最初に説明しただろう」

「氷属性だから、氷属性の薪でしか調理できないでしたっけ。ならなんで私の魔法で調理できるんです」


 あれ、火魔法で調理しても大丈夫だったのか。

 そんなはずはない。

 禁書にもゾンビやスケルトンは火魔法に弱いと書かれていた。

 だよな。

 アンデッドのダメージにならない炎なんて闇魔法以外にあるのか。

 いや、ないはずだ。

 確かめてみよう。


「どういう経緯でそう思った」

「試供品を客に食べさせようとして、薪を切らしていたのに気づいたんです。しょうがないので私の魔法で調理しました。味見もして大丈夫だったので客に出しました」

「なら別に問題ないだろう」

「大ありです。普通の薪をその後に買って来て試したら、不味くて食えませんでした」

「そういう属性だからな」

「ならなんで、聖水漬けの油炒めが私の魔法で調理したのと、普通の薪で調理したのでは味が違うんですか」

「おう、そこに気づいたか。お前、闇魔法使いだな」


「なぜそれを」

「そんな物決まっているだろ。聖氷肉せいひょうにくも氷属性の薪も聖水漬けもみんなアンデッドだからだ」

「ということは、死体術士」

「その通りだ。でどうする」


 シャデリーはしばらく考えて決意したようだ。

 何時になくきりっとした目をして口を開いた。


「こうなったら、一蓮托生いちれんたくしょうよ」

「そうか、改めてよろしく」


「まだあなたの事を完全に信用した訳じゃないわ。でも秘密を握った同士。対等よ」

「そうだな。俺達の目的はシュプザム教会をぶっ潰す為に活動している。考えに賛同してくれるなら協力してくれ」

「そんな事できる訳ないと思うけど。教会も聖騎士も嫌いだから、協力してあげる」

「そうか良かったよ。殺し合いにならなくて」

「そうなったら私の負けね。今まで人を殺した事がないから」

「俺は命を狙われたんで、食い詰め者をいっぱい殺したな。もっともやったのはアンデッドだけどな」


「ふーん、ジュサさんも殺しを」

「ジュサは呪術師でな。追っ手の聖騎士を間接的に殺している」

「私も似たようなものね。最初に職業がばれた時に闇の炎で火事を起こしたわ。聖騎士が逃げ遅れて焼け死んでいる」

「そうか。その後はどうやって誤魔化した」

「闇魔法の炎に鉄粉を混ぜると炎が赤くなるのよ。黒い炎は殆んど光らないから、普通の炎に見えるわ」

「なるほどな。詠唱を誤魔化せば、ばれないって訳だな」

「そうよ」


「シャデリーは引き続き店員をやってくれ」

「ええ、分かったわ」


 一人、教会転覆てんぷくのメンバーが増えたな。

 案外、禁忌持ちってのは多いのかも。

 バリバリ稼いで資金稼ぎを続行しますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る