第23話 「紳士な暗殺者」
シャルレット傭兵団を撃退してから1週間、村は平穏を取り戻した。
まだいくつかの傭兵団がここら辺にやってきているが、俺はシャルレット傭兵団の屍者1000人ほどでその都度撃退して、その躯を手勢にくわえてきた。
そうしているうちに近隣の村からも保護を求められた。
彼らは俺を‘忌みスキル持ち’ではなく、‘守護者’とみなしてくれているようだ。
俺は周辺の村々でも屍者を起こし、村人を守るとともに、その生活を助けさせた。
「最初、ネクロマンサーだからって不気味な奴だと誤解していてすまなかった! あなたこそ我らが救世主だ!」
「わしらの生活がすっかり良くなったわい。もっとはやくあなた様を頼るべきじゃったわ」
「骸骨みたいな人を想像していたら、いい男じゃない!」
いや、徳を積むのは気分がいいよね。
こののどかな辺境に根を下ろすのも悪くないが、
王族に復讐する――。
その目的が達成されるまでは安寧はない。
まあ、戦力がある程度そろったとはいえ、反撃のタイミングはまだ先だろう。
今俺の配下にある屍者は2000を超えている。
だが王国軍は最大10万を超す大軍だ。
とても現状で太刀打ちできる相手ではない。
まだここで草の根で力を蓄えるしかない……。
そう、その日のために、俺は屍者たちに地道な作業をさせていた。
「アレク様、あの屍者さんたちはなにをしているんですか?」
「いいことを聞いてくれたね、リア。彼らにはトンネルを掘らせているんだ」
「トンネル? 何でですか?」
「ほら、屍者がそこら辺をうろうろしてたら、みんな怖がっちゃうだろ? だからああやって、屍者専用の通り道を作っているのさ」
「わぁ、すごいです!」
「ゆくゆくは、王国全土に伸ばすつもりだ」
実際は違う。
その日が来たら、地下に待機させた屍者たちで一斉に王国中を制圧するためのものだ。
まだまだ完成度は低いが……。
さて、日も暮れてきた。
今日も一日、有意義に過ごすことができた。
まあ、辺境の村々なので、貧しいままなのは確かだ。
今日は休んで、明日からは効率のいい金策を考えるとしよう。
――その夜――
リンダ・ムンシュヘン――または
王国の諜報部は身寄りのない子供をスパイとして育成しており、彼女もその例にもれない。
しがない村娘だった彼女は3人の家族を失ったのち、諜報部で暗殺術を叩き込まれ、諜報部長であるトランスヴァル直下のエリートとして頭角を現していった。
その少女が鉄糸を右手に巻き付けながら、廊下を音をたてないように歩く。
絞首刑執行人の名の通り、鉄糸を音もなく相手の首にかけて絞殺する――それが彼女の
彼女は領主の間の扉に手をかけて――
「待つっス!」
「チッ、まさか私が見張りに見つかるとは……!」
背後から声をかけられて、深くかぶったフードの下で暗殺者は舌打ちする。
こんなヘマをやらかすことは、彼女の任務歴でめったにないことだった。
「変な臭いがすると思ったら、やっぱ侵入者っスか」
暗殺者はリルトに向き直る。
「そうですね、誤解のないように説明すると私は暗殺者です。個人的な恨みはありません。ただ、アレク・バーデン=ブロッホを暗殺するよう命じられただけです」
「随分と口の軽い暗殺者じゃないっスか!」
リルトがダガ―で斬りかかる。
キィィン!
金属のぶつかる音が館に響く。
「何事だ!?」
俺は嫌な物音を聞いて飛び起きた。
寝巻姿のまま、廊下に出ると、黒いローブをまとった人影が、リルトのダガーを両手に張った鉄糸で防いでいた。
――しまった。
条件反射的に飛び出したのはいいが、武器を持ってない……。
リルトと、黒いローブの人物が同時に俺を見る。
「下がってっス、こいつの狙いは旦那っスよ」
「これはこれは……」
黒いローブの人物からは女性の声がした。
彼女はリルトを押しのける。
リルトは俺を守るように、前に立つ。
「用心するっスよ。こいつは暗殺者っスから」
――暗殺者か。
俺は最近、恨みを買うようなことはしていないはずなんだが……?
双方相対する――。
先に行動を起こしたのは暗殺者の方だ。
暗殺者は、フードに隠されたその凛々しい顔をさらけ出し、黒いローブの裾を掴んで、その下から武器でも出すのかと思いきや――
「こんばんは、アレク・バーデン=ブロッホ様。私は暗殺者のリンダ・ムンシュヘンと申します。断っておきますが、偽名ではございません」
恭しくお辞儀をした。
自己紹介されてしまった……。
「最近の暗殺者は、暗殺対象に本名で自己紹介するのか?」
「私の主人の命令はあなたの殺害……。ですが、私の目的は主人とは別にあります。主人、トランスヴァルをあなたに殺してほしいのです」
……………………は?
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