次期国王も狙える俺の能力が忌みスキル《ネクロマンサー》だったため追放されましたが、実はこれチートスキルでした～俺を追放した奴らの死体を使って国を乗っ取るため、辺境で力を蓄えながらスローライフします～

プロローグ～そして没落へ～

第1話 「尾羽打ち枯らしちゃったね」

　人生において勝ち負けがあるとすれば、俺は間違いなく「勝って」いる。

　生まれながらにして金のスプーンを加えてきたといっても過言ではない。

　なんたって俺アレクは名門貴族バーデン＝ブロッホ家の当主で王族の婿養子、つまりゆくゆくは国王の座が転がり込んでくることもあるかもしれない。

「兄上、この度の成人おめでたく存じます」

「よせよせ、ガエウス。兄弟だろ？　そんなかしこまんなって」

　こいつはガエウス。いつも俺の後をついてくるかわいい弟だ。

「いやいや、バーデン＝ブロッホ家の当主様として立派にやってる兄さんには頭が上がりませんよ。なんたってバーデン＝ブロッホ家は、偉大なるベルジア王国、そのなかでも家臣として最大の領地を与えられ代々重職につく王国で知らない人はいない名門貴族ですよ」

「プレッシャーかけないでくれ。成人式の前だってのに胃が重くなってきたじゃないか」

「ははっ、そういう気さくなところが兄さんらしいや」

「兄弟で仲のよろしいことですわね」

　そう声をかけてきたのは俺の婚約者にして王国第二王女ナタリア・グーデホープだ。

「やあ、ナタリア。未来の旦那の礼装を拝みに来たかな？」

「もう、冗談がお好きなんですから。式典の準備が整ったって父君がお呼びよ」

「そういえば俺たちの式はいつ上げるんだい？　なんなら君も今からウェディングドレスに着替えてきてダブル式典してもいいんじゃない？」

「まったくもう、お好きなんですから。私そんなに冗談ばかり言う人は嫌いです」

「おいおい、勘弁してくれよ！？」

「ふふっ、冗談です。これはお返しですよ」

　俺たちが式典会場の扉をくぐると、そこには王国中の王侯貴族であふれていた。

　ここにいる人々の総資産だけで王国民を１０年は扶養できるんじゃないか？

　なんて想像を巡らせながら、謁見の間の奥に鎮座する国王へと近づく。

　その脇には王族たちがずらりと並んでいた。

「陛下の臣、マショナ公爵アレク・フォン・バーデン＝ブロッホにございます」

「おお、久しいな。アレクよ。お主のことは我が息子も同然に思っている。此度の儀は形式的なものじゃ。そう改まらんでもよい」

　俺の目の前で温かい笑みを浮かべるこの老人はベルジア王国第１４代国王ズールー・グーデホープは威厳のある風格とは裏腹に親しみやすい人物だ。

　俺はしばらく国王の形式的な文言を聞きながら、緊張の糸を張っていった。

「それでは成人を迎えたそなたにスキルを付与いたそう」

　来た。

　これがこの式典の要の内容だ。

　スキルとは神から人に与えられた才能――その能力は個人によって異なる。

　でも神は人に平等じゃない。

　俺のような貴族はそのスキルを生まれ持った人種だ。

　スキルは平民に対する支配権であり、個人のステータスだ。

　強力なスキルを持つ者が幅を利かせる。

　成人と同時に発動できるようになり、代々『鑑定』スキルを持つ国王が貴族たちに「授与」するという形式でスキルを白日の下に晒す。

　この数週間、自分のスキルがはずれでないことだけを祈っていた。

　まあ、仮にはずれスキル引いたとしても周りはいい人ばかりだし、それくらいで俺の評価が揺るぎはしないだろう。

「トランスヴァール公爵アレク・フォン・バーデン＝ブロッホ。貴様のスキルは＜ネクロマンサー＞」

　……？

　＜ネクロマンサー＞？

　なぜその単語がここで出てくるのか、まったく結びつかない。

「陛下、今なんと言われたのですか？　それは何かの間違いではないのですか？」

「いや、間違いないぞ。アレクよ。貴様は確かにこのスキル＜ネクロマンサー＞を神より授かったのだ。それとも貴様は王である余の言葉を疑うというのか？」

　＜ネクロマンサー＞――

　９９９９９９９９９分の１の確率でしか授からないというアレが！？

　死者を意のままに操る死霊術師。

　死を司ることから縁起の悪い忌みスキルとしてスキル保有者は社会的に孤立するという。

　それをなぜ俺が？

「貴様に言うのはそれだけだ。下がれ。式はまだ終わりではないのだ」

「え……？」

　のどが震えて情けない声で訊き返す。

　自分でも今どんな顔をしているのかわからない。

　そして式典が終わっていないと告げた王の視線の先は俺でなくその背後にあった。

　後ろを振り返ると、弟がほくそえんでいた。

「ガエウス、貴様をバーデン＝ブロッホ家当主及びマショナ公爵として認める。そしてアレク、貴様は忌みスキルを授かったがために当主としても公爵としても不適格。ゆえにこれをはく奪する」

「そんな……！」

「ありがたく存じます、陛下。これからは陛下の一臣下として、公爵として、当主としてより一層陛下の支えとなるべく邁進していく所存でございます」

　俺の目の前でガエウスが恭しく王にひざまずく。

　まるで俺の存在など最初からなかったかのように進行していく。

　いったいこれは何の悪夢だ？

「えー、それではお集りの皆様！　ここでバーデン＝ブロッホ家の新当主として自己紹介したいと思います！」

「お前、何を言って……！？」

「あれ～？　やだなー、兄さん。忌みスキルの保持者が名門バーデン＝ブロッホ家の当主になれるはずないじゃん！　そうとも知らずに当主面していた兄さんは本当、滑稽だったよ！」

　何だこの用意周到さは……？

　まさか初めから用意されていたのか……？

　貴族たちの動揺した様子はおそらくこのことを知らなかったに違いない。

　しかし、王族たちはどうだ？

　あいつらみんなニヤニヤと笑っていやがる。

　これは初めから俺を陥れるために仕組まれていた！

　この公の場で俺が失墜する様を見せしめているんだ！

「アレク……」

「ナタ……リア……？」

「かわいそうなアレク、王族入りまで約束されていたのにね。私、あなたとの婚約を破棄するから。そして、ガエウスと新たに婚約することをここに宣言するわ」

　なぜだ……？

　俺が何をしたっていうんだ？

　ただ、よき婚約者として、よき兄として、よき当主として振る舞ってきただけだ……。

　その仕打ちがこれだと……！？

　見れば最初は驚いていた貴族どもも今はこの公開屈辱ショーを見て笑っていやがる。

　俺は最初から宮廷道化師として呼ばれていたんだ。

　王が用意した即興、その見世物の主役が俺だ。

　ああ、思い出したぜ……！

　貴族ってのは人の破滅する様を最高のエンタメと考える連中だってことをな。

「相変わらず察しの悪い人よね。私の心はずっとあなたの弟にあったっていうのに、間抜け面さらし続けていたなんてね」

「こうして真実の愛は成ったというわけだな。ガエウスよ、これからは余のことを『お義父さん』と呼んでよいぞ」

「そんな、恐縮しちゃいますよ～」

「父さんだったら調子いいんだから」

「よし！　では今宵は宴としよう！　おい、そこの下郎、さっさとどかぬか！　目障りだ！」

　その言葉を背に俺はとぼとぼと逃げ出すように、出口まで歩いて行った。

　俺の心に宿るのは激しい憎悪だった。

「惨めだね、兄さん♪」