めっちゃ千葉(仮)
貝
第0-1話
「皆様、当MZC211便は、まもなく東京国際空港に到着いたします。 シートベルトをゆるみなく着用してください」
機内のあちらこちらにあるスピーカーから、人生のうちで何度も聞いたアナウンスが流れてくる。
俺は
なぜ高校生が単身で東京なんかにいるのかと疑問に思うかもしれないが、父親が転勤族だった影響でずっと引っ越しに次ぐ引っ越しな生活に嫌気がさし、ついひと月前、親元を離れ東京に一人で暮らすことにしたのだ。別に大した理由ではない。
「いやー、人生初めての飛行機は緊張でいっぱいだったなぁ、ゆぅ」
そう伸びきった声で話す彼女は
なぜ彼女が今、俺と一緒に飛行機に乗ってにいるのか、その理由は、前に俺も訊いたのだが、それによると、
『うちの親がうるさかったんだもん。あんなにぐちぐち言われてたら、誰だってさ、逃げ出したくなっちゃうよ』
という、マイペースな彼女らしい返答が飛んできた。
もともと家を出るという考えはあったものの、極めて漠然なものだったために実現していなかったらしい。
が、今回俺が熊本から東京へ越すという一報を聞いたやいなや、
『東京行くの?なら私も行く!!』
と、こちらの許可も得ず勝手についてきた。
もともと俺も独りには慣れてはいたが、遠出するのに同行者がいるのはなんとなく嫌な気はしなかったので、連れていくことにした。
これだけを聞けば、まるで俺らが愛の逃避行でもしているように聞こえるかもしれないが、決してそんなことはない。
俺はあいつを面白い友達だとしか思ってこなかったし、あっちもそうだろう。
ただ、それであいつが無防備なのは困りものなのだが。
そんなことを考えていると、俺が反応をよこさなかったのに立腹してか、急に俺の横腹を小突いてきた。
「なんで無視するの、ゆぅ! 私じゃゆぅに話しかけることさえ駄目というの!?」
「発想が飛躍しすぎだぞ、陽菜。俺は思案に耽っていただけだ」
「そ、そっかぁ……よかったぁ」
とまぁ、よく見当違いのことを言うもんだから、こいつの頭のねじは本当に外れているのではと何度も心配した。
まあ、俺もそんな彼女に少なからずいい意味でも影響されたところはあるのだろうが……
「それで?お前は東京に着いたら何処に住むつもりなんだ?」
お互いに住む場所に関しては全く打ち合わせをしていなかったので、同居するか否か、そもそも何処に住みたいかも意思の疎通が出来ていなかった。なので、
「え!?………………え、えっっとぉ…………………………その、そのぉ………………」
彼女の無計画さに、今になってやっと気づいたわけだ。
「無計画なのか! お前、東京にまで来て無計画なのか!?」
非都会人にとってはまさに魔境と呼ぶに相応しいような大都市に丸裸で挑むつもりだったのかこいつ。
「だってだってだって」
「だっては一回でよろしい。んで、なんでなんだ?」
「ゆぅの隣なら、どこでもいいかなぁ、って……」
「うっ」
流石に直球には弱い俺が動揺したのを確認してか、更に畳みかける陽菜。
「うーん?ゆぅ、照れてるの?こっち見てみて?」
「や、や、やめろよ……」
まったく、男のツンデレなんて需要がないというのに……いや、俺全くデレてないっすよ?
助けを求めるように、辺りをキョロキョロ見回してみた。勿論知り合いがこいつしかいないこの機内で俺を助けてくれる人などいるはずもなく、老若男女様々な人が、くつろいでいた状態から着陸に備え帰り支度を始めていた。
ここから東京に着いたら、各々の目的地に向かっていくのだろう。そう考えると、乗客たちが皆、笑顔でいるように見えてきた。
陽菜も飽きてきたのか、イジリが止んできたので、俺もそろそろ荷物を全て鞄に仕舞っておこうかな、なんてことを思っているその時、俺は。
彼女に、出会った。
それは俺と同じくらいの年の少女で、黒髪のロングヘアー。夏らしいキレイな白いワンピースを着ていて、彼女もまた帰り支度をしているのだが、その動作一つ一つが、まるでお花畑の中で小鳥たちと遊んでいるのかというくらいに美しかった。
そんな超絶的な美少女が、機内の一角に一人、佇んでいた。
彼女もまた、これから待っているであろう予定に心を躍らせているのだろうと思って、俺は試しに彼女の表情を覗き込んでみた。
思えばこれが、このフシギな物語の、始まりであり、一つの終わりだったのかもしれない。
彼女は、涙を流していたのである。
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