すり替えの真相

「ところでゲシュティンアンナとドゥムジの関係をどう見る」

「やはりゲシュティンアンナ優位でイイと思う。冥界から地上界に戻る方法もゲシュティンアンナがドゥムジに伝えたと見れるから」

「コトリもそんな気がする。その手の秘術はアンからエレシュキガル、さらにゲシュティンアンナに伝えられたと見るべきやもんな」


 ちょっと待てよ、


「ドゥムジとゲシュティンアンナは出来てたんじゃないか」

「コトリもやはりそう思うよね。関係があったのは地球に来る前のエラン時代しかないと思うわ。エラン時代のゲシュティンアンナは女だからね」

「そやけど、心は男」

「ドゥムジが襲ったんじゃない」


 ユッキーはあくまでも推測だとしてたけど、ゲシュティンアンナと関係を結んだドゥムジはエライ目にあったはずだとしてた。そりゃ、心は男やし、サディストやからな。この時の苦すぎる性体験がドゥムジの性嗜好を歪めたんじゃないかって。


「どんだけやられたんやろ」

「う~ん、現代地球で例えれば、縛り上げられて身動きできない状態でのムチとかローソクが初歩段階ぐらいかも」


 その時にドゥムジは女がコリゴリぐらいになり、とはいえ男にも走れないぐらいやろか。あれこれ探し回って、生まれつきの女より男が望む女になる、


『女の心を持つ男』


 こちらに性嗜好が傾き、これも男のままでは愛せないから女に性転換させたぐらいやろ。


「やっぱり女性への性転換技術はドゥムジが作り上げた秘術やろな」

「必要は発明の母っていうし」


 ドゥムジやゲシュティンアンナが冥界に送られた理由はわからんとこが多いけど、


「やっぱりドゥムジは冥界の番人でエエと思うねん。ゲシュティンアンナは本来が女であることがなにかの拍子でバレて、天の神アンに嫌われたぐらいちゃうやろか」

「そこで四千年ぶりぐらいの再会ね。地上にいる時のゲシュティンアンナの姿は男性だったはずだからね」


 ここでユッキーがまたウンザリする説を立てたんや。


「・・・そんな二人がヨリなんか戻すはずあらへんやんか」

「う~ん、ヨリが戻るというか関係が復活したぐらいじゃない」


 エラン時代にサドのゲシュティンアンナに虐げられたドゥムジは、マゾヒズムに目覚めたんじゃないかって。


「今回の事件はとにかく歪んだ性嗜好が多いから疲れるけど、ドゥムジがたった一人の女にした男に満足して、地上で目立つような活動をしてへんのは、その女を女王様と崇めてマゾヒズムを楽しんでいたからってか」

「そう考えれば、ドゥムジがあれだけ大人しいのが説明できちゃうじゃない」


 四千年ぶりぐらいに再会したドゥムジとゲシュティンアンナが冥界でSMプレイをやらかしたかどうかは不明やけど、サドのゲシュティンナンナが主導権を握った関係になったぐらいはこれで説明出来るもんな。


「ゲシュティンアンナは冥界から地上に戻れる秘術を知っていたんだろうけど、伝わり方が不完全だったのか、冥界での限界があったのか、二人一組で交代にする必要があったと見てるの」

「それって、ある種の仮釈放みたいなもんか。そういやイナンナの冥界下りでもそんな話があったものな」

「かもしれないわ。地上に出るために人質みたいなものを置くのと、地上での宿主代わりができず、さらに地上界に出るとある一定期間は冥界に過ごさざるを得ないぐらいだと見てるわ」


 これはゲシュティンアンナとドゥムジの地上界での活動時間の差からの推測やねん。ゲシュティンアンナはたまたまかもしれんが、倉麿が八十四歳、敏雄に至っては九十歳まで生きてるんよね。


 一方で倉麿時代が終り敏雄時代が始まるのは三十年後と見れるんよ。これは敏雄の実業界での活躍が突如と言う感じで変わるのがこの時期やからねんよ。この時にゲシュティンアンナが敏雄に宿ったとしか見えへんねん。


「でもさぁ、別にそれやったらドゥムジが出て来んでもエエやんか」

「そこらへんはわかんないけど、ゲシュティンアンナは男相手のSMプレイを冥界でドゥムジ相手にするのがイヤだったのはあると思うのよ。エランの時は襲われた報復でやったんだろうけど、基本は男の体が好きじゃないだろうし」


 まあそうやろな。ゲシュティンアンナの心は男やし、


「むしろ出たかったのはドゥムジじゃない。だから性転換の秘術をゲシュティンアンナに教え、期間もゲシュティンアンナが冥界で過ごさなければならない間だけでエエと懇願したぐらい」

「そうなるとマドカさんは」

「ドゥムジからゲシュティンアンナへの献上品」


 ゲシュティンアンナは女を屈服させることでサディズムを満足させてるんやけど、さらに極上の御馳走の調達をドゥムジに命じているでエエと思う。これは『男の心を持つ女』に加えて定番の、


『お金持ちの品行方正のお嬢様』


 たぶん嫁にするんやろ。敏雄の嫁も克俊が調達したんかもしれん。けどされたら悲惨や。中毒に確実にされるし、産んだ子も次々にゲシュティンアンナの餌食や。それを見せつけられながらも、禁断症状に耐えられずに求めてまうんやろな。


「その辺の男を引っ張り込んで女にして楽しまへんのが賢いところやな」


 神であっても地上では人のルールに従わなあかんねんよ。ゲシュティンアンナぐらいになると警察に逮捕されても逃げるのは簡単やけど、指名手配とかになると人として暮らしにくくなってツマランのよ。


「ドゥムジは手の込んだことしてるな。さすがは神やな」

「そうよね、ここまで手が込んでると、すぐには見抜けなかったわ」


 ドゥムジが目を付けたのは円城寺の娘。ここでやけど、円城寺の娘本人じゃゲシュティンアンナの要求を満たせないのよね。ゲシュティンアンナは栄一郎の息子に宿る予定のはずやから、兄妹相姦はやれても嫁に出来へん。


 ドゥムジは栄一郎夫妻が二人目の子作りに励んでる情報を察知したでエエと思う。それぐらいは住み込みで働いてるわけやから知ろうと思えば知ることは可能や。もちろん、なんらかの誘導工作をやった可能性も高いと見てる。


 和明の妹の集団レイプ事件も酷いもんで、監禁暴行で延々と三ヶ月ぐらいやられてるんよ。それこそ休む暇もないぐらい次々にや。あそこまでやられれば気も狂うというか、気が狂うのを目的にしてたとしたらエエわ。


「どうしてそこまで。妊娠させるだけなら、そこまでやらなくとも」

「そりゃ、意識が正常のままやったら堕ろしてまうやんか」


 これも調べたら出て来たんやけど、和明は妹の妊娠を知っていたにも関わらず産ませてるんよね。出産日が一日違いなのはさすがに偶然やろけど、目的は同い年の子どもを作らせる事やってんよ。


「でもさあ、栄一郎夫人にしろ、友美さんにしろ生まれてくる子どもが娘か息子かわからないじゃない。ある程度成長したらエコーで性別もわかっちゃうし」

「できたんちゃうやろか」

「ま、まさか、男女産み分けの完全誘導・・・」

「チャンスは一回やから、出来たと考えてる」


 栄一郎夫妻はマドカさんの出産後に夫婦仲は冷え切るんやけど、あれもドゥムジの工作が入ってる気がする。それでも和明の姪の身の上には素直に同情したんや。そりゃ、すると思うわ。和明は執事としては信用篤いから我が子同様に育てるとしたら、


『うちのマドカと同様に』


 こういうとこに持って行くのはドゥムジなら赤子の手を捻るようなもんやろ。



 一回目のすり替えは姪にしたマドカさんの心を円城寺家のお嬢様にするため。一方でもう一人のマドカは、いつでもすり替えられるように容貌はもちろんやけど、同じ教養、同じ教育、同じ記憶を持てるようにし、円城寺家の内情も常に知る立場にしてる。


「じゃあ、小野寺の息子の登場にも」

「そこは偶然やろけど・・・」


 小野寺の息子が合気道やってたのは偶然やろし、その小野寺の息子にもう一人のマドカが熱中したのも偶然やと思う。


「ドゥムジはこれを利用したんやろ」

「なるほど、新田まどかではなく円城寺まどかが付き合ってる風に誘導した訳ね」

「そして婚約まで話を運んでいったんや」


 円城寺家の娘となるとモロやなくとも、ある程度政略絡みの結婚になるのは仕方がない部分があるんよね。さすがに昔みたいに当人の意志を完全に無視しての頭ごなしはないとしても、そういう組み合わせが出来れば、これ幸いってところかな。


 当然やけどマドカさんは嫌う訳や、そりゃマドカさんの心は男やから、男に体を開くなんて絶対拒否でエエやろ。追い詰められたマドカさんは、もう一人のマドカに身代わり話を出すわけや。


「なるほど、ここまで同じ容貌、同じ教育、同じ環境、違和感が出ない程度の同じ記憶を持たせた意味が生きてくるわけね」

「むしろそれが目的やし栄一郎夫妻を子育てにタッチさせなかったのもや」


 小野寺に好意というかお熱のもう一人のマドカの心は動くやろし、実質的に二人の親代わり的な立場を演じ続けた和明夫妻の後押しがあれば、二回目のすり替えは容易に成立することになる。


「それにしてもの手間ヒマね」

「ああ、それでもこれで、


『円城寺まどかの記憶を持つ新田まどか』


 これが出来上るんよ」


 回り回って元の鞘に納まったようにも見えるけど、


「それとゲシュティンアンナの注文の、


『男の心を持つ正真正銘のお嬢様、血縁なし』


 これが完成や」


 後はゲシュティンアンナが、冥界からの復帰第一号の生贄としてタンマリ楽しむぐらいやろ。ああ、ケッタクソ悪い。


「それにしてもドゥムジもよくこれだけやるわ」

「そうさせられるのがドゥムジにとって快感だからかもね」

「マゾも行き過ぎるとエライ迷惑やで」

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