冥界談義

「マドカさんはケリついたみたいやな」

「そうね、上手くいって良かったわ」

「さすが名医や」

「元もイイとこだけど」


 あれで良かったかどうかは言いだせばキリがないけど、人の命なんて短いから、その間が満足できればエエと思てる。とりあえずマドカさんのことは置いといて、新田和明に宿ってる神が問題になるんやけど、


「どっちやと思う」

「やっぱりドゥムジでしょ」


 叙事詩ではドゥムジとゲシュティンアンナは半年ごとに地上と冥界を行き来するとなってるけど、実際は宿主代わりの時に交代するで良さそうや。


「そやけど倉麿にしろ、敏雄にしろ男やで。女神のゲシュティンアンナが宿るやろか」

「そこなんだけど、ゲシュティンアンナの性嗜好もまともじゃないと考えたらどうかしら」


 どうも今回の事件はややこしくて困る。だいたい和明に宿る神の、


『女の心を持つ男を本当の女にして愛する』


 これからしてようわからん。それやったら、最初から女を愛せば良さそうなものやんか。その方が手間かからんし。


「コトリの言う通りなんだけど、そういうタイプの女の方がより女らしいのはあると思う」

「ホンモノの女よりか」

「なにがホンモノかを言いだすとキリが無くなるけど、そうね、男が望む理想の女性像になるぐらいかな」


 なるほどね。女が考える女と、男が考える女は必ずしも同じじゃないから、男がなる女は、男の考える女性像になるしかないものね。


「ほんじゃ、ユッキー。ゲシュティンアンナの性嗜好はどんなん考えてるんや」

「ドゥムジの裏返しかな」

「そんじゃ、男の心を持つ女を男にして抱かれるとか」

「それも考えたけど、ゲシュティンアンナはヤリチンよ」


 そやもんな。倉麿なんか典型やけど、育った子どもだけで三十三人やで。


「マドカさんと同じと考えてる」

「男の心を持つ女か」

「だから男に宿ってるし、男そのもののヤリチンよ」


 神だって元は人の意識そのもの。当然やけどホモだって、レズだって、バイもいるはず。性同一障害だっているだろうけど、宿主の性別は自由に選べるから心が男なら、男に宿れば問題にならへんのよね。


「だから男に宿ってるのよ」

「それでもゲシュティンアンナは女神やで」

「バレたんじゃない」


 なるほど! そうかもしれん。ゲシュティンアンナは叙事詩でも元は地上の神。というか、冥界の神と言ってもすべて元は地上の神。冥界特有の神とは天の神アンが放り込んだものか、エレシュキガルが引っ張りこんだものやねんよ。


「ミサキちゃんからエレシュキガルの冥界の様子を聞いたけど、そこでは人に宿るのではなく意識だけで実体を作っていたみたいじゃない」


 アンの冥界もその可能性は高そうやもんな。そこで女神であることがバレたんかもしれへん。だからどうってほどの話やないけど。


「ユッキー、そもそもなんのために天の神アンは冥界作ってんやろ」

「ユダぐらいなら知ってるかもしれないけど、聞きに行きたい?」

「ヤダ」


 ユダとは一応友好関係にあるけど、とにかく神同士。言葉が信用できないのもあるけど、何かでもめれば生死を懸けなあかんもんな。そこまでのリスクを押してまで会う気はせえへん。


「それでも天の神アンの支配時代があったのは信じてもエエやろ」

「アンの支配は力の支配でイイと思うわ」

「神を支配するにはそれしかないやろ。反抗する神を瞬殺していったのは信じてもエエんちゃう」

「瞬殺しなかった神の行き場が牢獄である冥界じゃないかしら」


 力の支配は恐怖支配としてもエエやろ。瞬殺するのもその一つやけど、見せしめ系も有力ってことかな。でもそういう場合は人相手なら法律で締め上げるんやけど、神の場合はどうしとってんやろ。


「ミサキちゃんはなかなか話してくれないけど、エレシュキガルの冥界の神はアレばっかりやってたみたいよ」

「なんかそんな感じやな。そりゃ、楽しいやろけど、そればっかりって世界もウンザリしそうや」

「それでドゥムジとゲシュティンアンナがあんなでしょう。天の神アンはそんなのが嫌いだった気がする」


 どんな性嗜好を持とうが当人同士の勝手みたいなものやけど、嫌悪感持つ奴も多いからな。ましてや絶対権力者がそうなったら排除に走る例は少なからずあるわ。


「エレシュキガルの冥界の場合は、乱交門、SM門、レズ門、ホモ門、バイ門ぐらいはあったみたいだね」

「ミサキちゃんは途中から夜叉になって問答無用の皆殺しで進んだから、後の二門はわからんって言ってたな。なんとなく女装子門と男装子門ぐらいやと思うけど」

「でもここまでは性別は変わらない性嗜好じゃない。アンの冥界はもっとディープだった可能性がある気がする」


 なるほど!


「アンの基準での排除者の強制隔離収容所みたいなものが冥界かもしれないわ」

「その収容所長がドゥムジとゲシュティンアンナってところか」

「収容所長だから交代で地上に戻って休暇を楽しんでるぐらいじゃない」


 わからんけど、事実からいうと二人が交代で地上に戻り、宿主一代の間に好きなことをやってるとして良さそうや。


「とりあえずドゥムジは放置やな」

「そうね、絡むことが無い限り争う神じゃなさそうだし」

「やってる事もマドカさんは例外として、性同一障害で苦しんでいる人への神の性転換手術みたいなもんやしな」


 そやそや、


「ところでマドカさんと新田和明の奥さんに宿ってる神はどないなるんやろ」

「あれだけ薄々じゃ宿主代わりは難しいんじゃない」

「一代限りやろな」


 よくあれだけ薄い神が作れると思うぐらい薄かったわ。コトリも危うく見逃すとこやった。それでも性転換は完璧やから、あれもある種の秘術やろな。

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