円城寺家と新田家
ユッキーにマドカのレズ疑惑を調べてもらってたんだけど、話が複雑になってしまっている。コトリちゃんの幕末から明治にかけての話も絡んで来て大変なのだ。
「さすがに良く調べてある。だが円城寺家の方に神の存在の可能性があるのはわかるが、新田家は関係あるのか」
「あるはずなのよ。神が人の世に安定して住むには生活拠点が必要なのよね」
たしかにそうなのだ。いくら記憶や能力を継承出来たって、人として死んだら一旦御破算になるのは良くわかったものな。ユッキーがエレギオンHDやってるのもそれだろうし。
「多いのは親子継承かな。そうすれば財産は自動で手に入るでしょ」
ちょっと違うがユッキーの大聖歓喜天院家時代みたいなものか。
「ただいくら生活拠点を作っても時代の変化で維持できなくなる時があるのよ。おそらくだけど、維新の動乱で倉麿に宿ってる神の拠点が使い物にならなくなったと考えてるの」
神と言えども未来を見る能力のあるのは少ないって言うからな、
「そこで目を付けたのが北田家」
「円城寺家じゃないのか」
「あそこは北田家に近づくための手段に過ぎなかったのよ」
なるほど貧乏男爵家なら入り込みやすいし、支配もしやすいか。
「問題は倉麿に宿った神がどこに行ったかなのよ」
「息子の久麿じゃないのか」
「違うと思う。久麿の時に北田財閥は解体されて、この頃は南武グループと円城寺家の関係は薄くなってるんだよ」
「そりゃ、妙だ。倉麿は歩くヤリチンだが経営手腕も凄そうじゃないか」
「久麿の子どもは普通に三人。もっとも最初の奥さんに子どもが出来なかったのもあったけど」
たしかに残された実績からすると、倉麿と久麿は別人、いや久麿はただの凡人として見て良さそうだ。
「そんな円城寺家を南武グループに戻したのが三代目の敏雄」
「七人の娘の政略結婚だな」
「経営手腕も優れていて、旧北田財閥を再結集して南武グループを作り上げ、その中核に南武HDを置いたのは敏雄の手腕によるもなんだよ」
へぇ、これが敏雄の実績か。こりゃ、殆ど一社員から伸し上がってるとして良さそうだ。これは確かに倉麿を彷彿とさせるわ。
「今の栄一郎はどうなのだ」
「会ったこともあるけど普通の人、神じゃない。南武グループは苦労してるよ。もっとも、誰がやっても今の南武グループは難しいと思うよ。グループに斜陽産業が多いからね」
「子どもは」
「男一人、女一人」
栄一郎はユッキーも見てるから神じゃないで良さそうだ。もしユッキーより強い神なら力を見せないことも出来るそうだが、この業績じゃな。でも、確かにおかしい、どうして一代おきに神が宿るのだろう。
「問題の新田家だけど、コトリが気合入れて調べ直してくれたのよ。まず克行は存在してたかもしれないけど、新田克俊とは縁もゆかりもない。さらに新田克俊と新田孝もそう。さらに新田孝と新田和明もそう」
どうなってるのだ、
「これは推測になっちゃうんだけど、倉麿が円城寺家を乗っ取る時に新田の名前を使ったんじゃないかと考えてる」
「どういうことだ」
「倉麿は現われた瞬間に円城寺家を支配してる。ここでなんらかの神の力を使った可能性もあるけど、そうじゃなくて滋麿さんを脅迫したんじゃないかって」
ミステリーも良いところだな。
「円城寺家には秘密があったのよ。円城寺家が曲がりなりにも華族になり男爵家に滑り込めたのはコトリの力だよ」
「それは聞いたが」
「コトリは二つのウソをついて長州志士の妾になってるんだよ。一つは実は極道屋の娘で『神算のコトリ』とまで呼ばれた筋金入りの博徒だったこと」
そっかそうだった。
「もう一つは年齢よ。もう三十歳なのに十八歳って誤魔化してるのよね。これはついでみたいなものだけど処女でもない」
それもそうだった。
「これを知っているのは滋麿さんご夫妻と、滋麿さんのお母さんと、新田三太夫さんだけ。おそらく綾麿さんにさえ伝えていないはず。ここはコトリもどうしてもわからなかったみたいだけど、倉麿は嗅ぎ付けたんじゃないかって」
「でもどうやって」
「東京じゃ難しいけど、京都なら神算のコトリを知ってる者も少なくないよ」
神算のコトリが亡くなったのは維新から二十年ぐらいだから、京都なら円城寺家の娘に化けてたのを知っている者が生きていても不思議ないか。
「倉麿が京都に住んでいた可能性は?」
「あるかもしれない。ただね、円城寺家に現れる前の倉麿についてはいくら調べても、なにもわからないのよ」
でもこれでやっと話が見えてきたぞ。
「だから三太夫さんの子孫が必要だったんだ」
「そういうこと、三太夫さんの子孫と名乗り、三太夫さんから聞いたと言われれば滋麿さんの顔も蒼くなったと考えてる。これがコトリの嫁ぎ先にバレたら、まだその長州志士は健在だから、怒って円城寺家に報復されるかもしれないじゃない」
まあ、詐欺にあったようなものだものな。
「それとこれはコトリの推測だけど、滋麿さんはコトリのことを考えてくれたんじゃないかって」
「どういうことだ。その時には、コトリちゃんもう死んでるではないか」
「そう、本妻扱いでね。立派な墓が残ってるよ。お世話になったコトリを円城寺の娘のままにしておきたかったんじゃないかって」
コトリちゃんがこの調査に半端じゃないぐらいの気合を入れてる気が良くわかった。そりゃ、二百年ぐらい前の話だが、コトリちゃんにとっては大切な思い出だし、滋麿さん一家や三太夫さんはコトリにとって大事な人なんだろう。
「克俊が円城寺家に入ったのは倉麿が死んだのと入れ替わりで良さそうなの。戦後の混乱期で食うに困ったんじゃないかとしてた。どこかで円城寺家と新田家の関係を嗅ぎ付けたぐらいしかわからなかったわ。だから、本当に苗字が新田で、名前が克俊も怪しいとしてた」
「克俊は活躍したのか」
「ぜんぜん、久麿と残された円城寺家の財産を食いつぶしながら生きてたぐらいで良さそうよ」
なんだ、その克俊ってのは、
「じゃあ、新田孝は」
「これは純粋に苗字が同じだっただけ」
そうなると、
「新田和明も円城寺敏雄が死んでから入れ替わるように出現したとか」
「そうよ、和明は三太夫さんの血縁だと名乗ってるわ」
「その和明はどうなのだ」
ユッキーはここで一呼吸おいてから、
「コトリが見に行ったのよ。執事だから外出するし」
「そしたら」
「間違いなく神だった。それもあれは半端じゃなく強大だそうだよ」
新田和明が神だって。でも倉麿も敏雄も神だと思う。そうなると新田克俊も神だった可能性が高くなるが。
「新田和明が神なのはコトリちゃんが確認したから確実だろうが、なにかしてるのか」
「それが、ぜんぜん。あれだけの神なのにタダの執事だよ」
「でも神の系譜は、
倉麿 → 克俊 → 敏雄 → 和明
こう伝わってると見るのが妥当じゃないのか」
一代おきにキャラ変換する神っているのだろうか。わたしに宿っているイナンナがそうだったみたいだが、
「キャラ変換の可能性も考えたけど、わざわざ執事に宿るのは変と考えてる。倉麿の次は久麿でイイじゃないの。敏雄の後だって栄一郎でイイでしょ」
そりゃ、そうだ。だったらこれをどう説明するのだ。
「コトリと出した推測は、二人の神が交互に出現してるんじゃなかろうかって」
「二人? だから宿る相手もキャラもそれだけ違うとか。でも宿主代わりの時はどうしてるのだ」
「考えられるのは一つで、宿主代わりは出来ないんだろうって。出来ないは誤解を招くね。地上での連続宿主代わりは出来ないんじゃないかと」
地上とはどういう意味だ。
「地上界以外に行けるところで、神が存在する可能性は冥界」
「でもそれはパリでミサキちゃんが潰したはず」
「ミサキちゃんはエレシュキガルの冥界を潰してるけど、そこでゲシュティンアンナとドゥムジに会っていないはずなのよ」
誰なのだ、その神は。
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