最強の戦術

 両腕をまるで格闘技のようにシラスナが構えると、ステルス迷彩を施した「見えない剣」が彼女の手元に帰還した。特異体質を持ったシラスナだけに見えるその刀は、柄を真ん中にして両サイドに伸び、不気味な「羽音」を立てている。その音の正体は柄の部分に内蔵された小型の浮遊装置が風を吐き出す時の音だ。




「行くわよ!」




 シラスナとホージロは一直線にならび、シラスナから一歩半離れた先にホージロが立った。この戦形は影の王が予想した通り、ホージロがシラスナのサポートに回る時のものだ。




「はい、シラスナさん!」




 ホージロは愛刀を抜くと刃を分裂させてシラスナの周りに散らせた。小さな鉄の粒が空中でシラスナを保護するように動き回っている。影の王は一瞬でシラスナの懐に入り込もうとしたが、彼女は完全に読んでおり、見えない剣が真横から襲いかかる。影の王は避けきることができず、むき出しの鋼鉄の体に剣がぶつかって火花が散る。




「ぬおおっ!」




 初めて驚くように声を上げた影の王はそのまま横に飛んでいき、固い床に叩きつけられた。シラスナはそこに狙いを定め、見えない剣を飛ばした。しかし影の王はすぐに立ち上がり高速移動して姿をくらましてしまう。




(逃がさない!)


「右上後方です」




 索敵能力が高いホージロはすぐに影の王を見つけ出した。シラスナはホージロの指示通りに剣を飛ばすだけだ。




「何だと?」




 影の王は逃げた先に飛んできた剣を受け止めるも、細い剣は攻撃に耐え切れず剣の形が歪んだ。




(こっちの動きが読まれているのか。だとすれば早く二人を引き離さないとな)




 影の王は両手で針剣をもって見えない剣を弾き飛ばすと、シラスナとホージロを目で追った。二人は先ほどの陣形から動いていないようだ。遠距離攻撃を仕掛けることができる以上、距離をとっていては影の王は不利だ。




「まだまだ!」




 シラスナは空中の剣を操りながら、影の王に何段にも攻撃を仕掛けていく。影の王も細い剣でなんとか受け止めてはいたが、次第に格納庫の端へと小さな体は追い込まれてしまう。




(スピードがここまで速いと音が聞こえていてもかわすので精一杯か。なんとしてもあの剣を見える状態にしないと)




 シラスナの剣術は南方戦線で戦った時よりもさらに上達をしていた。そこが影の王の誤算でもあり、同時にシラスナの驕りとなった。




(ここまで距離をとれば奴は攻撃できないわ。あとは私がこいつをどう始末するかね)




 シラスナはここまで影の王を追い込んでも助けようともしないアルトが少し気になった。彼の参戦に気を張り、ホージロにも警戒をさせてはいるが格納庫の戦闘機の上から一向に動こうとはしない。まあ所詮、皇帝軍なんてこんなものだろうか。内心そう思いながらも、若干の気がかりをシラスナは抱えていた。影の王はまだ何かを隠している。




「ちっ、ここまでか」




 見えない剣に襲われて影の王は壁まで追いつめられる。背中にはもう後ずさりするスペースは空いていない。




「終わりよ」


「くっ、まだだ」




 影の王は間一髪脱出し、シラスナと距離を詰めようとするがホージロの分裂した刃が彼に雨が降り注ぐように襲い掛かる。さらに後ろから見えない剣が影の王を追うように飛び、挟み撃ちに会ってしまう。見えない剣はかわし、分裂した刃は受け止める影の王。しかしそうしていられるのも時間の問題だった。

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