接触

――ダゴヤ市街――




 短い旅を終えて、レッドとホージロはダゴヤにたどり着いた。見上げると首が痛くなるほどの高いビル群。二人は驚きながらダゴヤの町中を歩いた。




「大きなビルね」


「ああ、オズカシ村とは大違いだ」


「ねえレッド。共存軍の司令部に行く前に何か食べない? 私お腹すいちゃった」




 ホージロは商店街の前でレッドに言った。ロボットも人間と同じ料理を食べる。ホージロと旅をしてレッドははじめてそのことを知った。




「そうだな、何か食べるか」




☆☆☆




 国際空港の滑走路が見渡せるカフェのテラスでレッドとホージロは昼食をとった。サンドウィッチ二つにシェパードパイ。ホージロは小柄な割によく食べる。レッドは愛刀を腰から外し、椅子の横に立てかけてコーヒーカップに口をつけた。




(料理はおいしいがなんだこの苦い飲み物は……)




 ホージロが美味しそうに昼食を食べる前でレッドはブラックコーヒーに苦戦していた。オズカシ村にはない珍しい味だ。苦しそうな顔をするレッドにホージロは軽蔑の眼差しをむける。




「コーヒー飲んだことないの?」


「ああ、苦くてとても飲めたものじゃないな」


「子ども舌なのね」


「悪かったな」




 意地悪なロボットの少女にからかわれてレッドは動揺した。まわりからはどう見ても自分の方が年上に見えるはずだ。あたりを見渡すと隣の席の女性と目が合ってしまった。




「あっ」


「ふふっ」




 レッドの反応を面白く思ったのか、彼女は目を見るなり微笑んだ。




「いい剣ね。その剣で何人殺したのかしら?」




 ホージロも彼女の存在に気づきサンドウィッチを口に運ぶのをやめた。




「あっ、ありがとうございます。何人ってのは」


「一人」


「えっ?」


「一人でしょ。違う?」




 レッドが答える前に彼女が答えを出してしまった。確かに一人だ。レッドは愛刀でサンガオーを斬り倒している。




「そうです。なぜわかったんですか?」


「お姉さん鼻が利くから人間の血の匂いくらい簡単に嗅ぎ分けられるの。あなたの剣から一人分のくさーい血の匂いがしてるわよ」




 白いコートに黒いスカートの彼女は自慢げに言った。見たところ三十代だろうか。大人の女性だ。




「くさい? すっ、すみません!」




 レッドは慌てて愛刀を手で覆った。




「いいわよ、私その臭いが大好きだから。久々に血の匂いを嗅げてリラックスできたわ」




 蛇のように吊り上がった目が不気味に輝いた。一瞬、ホージロはただ者ではない雰囲気を感じ取った。




「あなたの剣からはおろしたての新品の匂いがするわ」




 女性は足を組みなおすとホージロを見つめて言った。ホージロは馬鹿にさせた気がして彼女を睨む。




「あなたの匂いが最初につくかもしれませんね」


「あらあら怒らせちゃった。ごめんなさいね」


「あなたこそその剣で何人殺したんですか?」




 ホージロは挑発するように言った。レッドは驚いた。この女は剣などどこにも持っていない。そもそも剣士には見えそうにない。しかしホージロの問いかけに女は嬉しそうに笑った。




「へえ、この剣が見えるね。少しはできるのかしら。私はシラスナ。あなた名前は?」


「魔法使いの国のホージロ」


「オズカシ村のレッドです」




 シラスナはレッドを一瞥すると




「あなたには聞いてないわ」




と言い、コーヒーを飲み干して立ち上がった。




「ホージロちゃん、あなたのことは覚えておいてあげる」




 白いコートに巻いた髪が跳ねる。




「何人殺したかは忘れちゃった。だって気づいた時にはみんな死んでるんだもの」




 シラスナの後姿を見ながらレッドは尋ねた。




「なあホージロ、あの人剣なんか持ってたか?」


「背中から肩あたりをよく見てみて」




 レッドはホージロに示されたとおりシラスナの背中へ目を凝らした。薄っすらと剣の形が太陽光に反射して浮き上がっている。




「見えない刀?!」


「そう。多分、剣自体にステルス塗装をしてるんだと思う」


「なんて奴だ……」




 レッドは驚きを隠せなかった。ロボットのホージロでなければ見抜くことは難しいだろう。




「それだけじゃない」


「なんだって?」




「あの人の剣。風を纏ってた」


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