第57話 違う種類の涙~玲奈~

「はっはっはっは!」


 突然やけに芝居がかった笑い声がし、怜奈を含めた全員が振り返る。


 笑っていたのは神代だった。


「怜奈さんが本当の主催者? なにを言ってるんですか? 私が本物の『かみさま』に決まってます」


 一体神代がなにを言っているのか、怜奈にはさっぱり分からなかった。

 怜奈が黒幕だと理解した他のメンバーも同様だ。


「皆さんまんまと怜奈さんに騙されましたね。そんなものは全部演技ですよ」

「いや実際に怜奈さんは僕の経歴まで知っていた。それに怜奈さんの嘘の経歴を神代さんは見抜けなかった。それはどう証明する?  それにそもそもなんのために怜奈さんは真の主催者だって嘘をつく必要がある? 」

「それは……そんなの大した問題じゃないの! 私が主催者で本物だから!」


 賢吾の的確な指摘に、神代は顔を赤くして乱暴な論をごり押ししてくる。


「怜奈さんの行動を思い返せば本物の主催者だと言うのも──」

「なぁんだ! そうだったんだ! 危うく騙されるとこだった! だよね。やっぱ神代ちゃんが主催者なんだよね」


 賢吾の声を遮ってなにかを察した表情の阿里沙がみんなに目配せをしていた。


「おお、なんだ。怜奈ちゃんの芝居か。騙されたよ」

「怜奈も人が悪いな。案外女優だ」


 伊吹も翔も話をあわせ始める。


「違います! 私は本当に皆さんを騙して」

「はいはい。分かったよ。もうお芝居はいいから」


 賢吾も神代の嘘に騙された振りをして乗っかる。


「君が優勝したんだ。そんな嘘はつかなくてもいいんだよ」

「違うんです、悠馬さん! 神代さんが嘘をついているんです!」

「まだ言うの? あんまり変なこと騒ぐと失格にして追放しますよ?」


 神代は笑いを噛み殺して怜奈を脅してきた。

 全員が団結してすべて『怜奈の狂言』ということにしてしまおうとしている。

 その優しさに怜奈の目頭が熱くなった。


「なんで……私はみんなを騙したのにっ……どうしてそんなに優しいの……」


 涙が止まらなくなり、呼吸をするのも難しくなってしまう。

 阿里沙が優しく肩を抱いてくれ、より激しく嗚咽を漏らしてしまった。


「では優勝者である怜奈さんの『願いごと』を確認します!」


 神代は封を破り、箱を解錠して中から怜奈の『願いごと』を取り出す。

 それを広げて確認した瞬間、神代はピクッと眉を動かし、静かに微笑んだ。


「怜奈さんの『願いごと』はこれでした」


 そう言って紙をみんなに見せる。



『みんなが無事に怪我なく旅から帰れますように』



「なにこれ⁉ かわいい!」

「いかにも怜奈さんらしい『願いごと』だね」

「確かにこれは譲れない願いだな」

「だから僕が崖から落ちて怪我した時や、伊吹さんが足をくじいた時に血相を変えて心配してたんだね」


 みんなから一斉につっこまれ、怜奈は顔を赤くする。


「なんだ、この『願いごと』は? 小学生じゃないんだから」

「オムレツよりはいいでしょ!」


 堪えきれず翔にだけ言い返す。


「はぁ⁉ なんで俺だけ反論されるんだよ⁉」

「日頃の行いじゃね?」


 阿里沙が笑いながら翔の肩を叩いた。


「もし自分が優勝したらどうするつもりだったの?」


 賢吾が笑いながらこそっと怜奈に問いかけてくる。


「そうならないよう、指名されたら当てられたことにして失格するつもりだったんです。だけど全然誰も私を指名してもらえなくて……」


 思惑が外れ、怜奈は結局一度も指名されなかった。

 存在感がないみたいで恥ずかしくなる。


「じゃあ優勝者の怜奈さんの願い通り、皆さんの安全第一で帰路につきますか」


 運転手が帽子をかぶって声をかける。


「ちょっと待って! 花火見ようよ!」


 阿里沙が怜奈の手を引き見晴らしのいいところへ駆ける。

 短い花火は既に花火はフィナーレを迎えていて、次々と連発で打ち上がっていた。


「きれい……」


 涙で滲んだ目でそれを見詰める。

 それは旅の終わりにふさわしい、美しくて爽やかな景色であった。

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