第69話 沈む島

 島の主であるクトルーが打ち取られた影響か、ルルイエの島全体が沈み始めた。

 ゴゴゴゴゴゴゴと気持ち悪い地震の様な微振動を繰り返し、寄せては返す波の位置が段々と陸上を浚う範囲が広がって行く。

 葛様が良く寝たと言う感じにのんびり伸びをして起き上がる。

「えっとこれ、どうするんです?」

 もう要済みじゃなとばかりに小狐丸を収納した葛様に合わせて、咄嗟に預かって居た鳴狐を葛様に返しつつ聞く。

「どうにもならん、先刻海面を跳んで来た時に見た通り、岩礁と浅瀬だらけで、船で迎えは来れん、海流も酷いもんじゃし、距離的にも泳いで船まで戻るにも1㎞は有るから先ず無理じゃ」

 慌てる必要は無いとばかりに落ち着き払って居るが。

「詰んでません?」

「まあ、岩礁もこの島も沈み切れば海流も落ち着くし、この程度の沈下速度ならタイタニック号の乗客みたいな海流に巻かれてバラバラに成る様な事も無いじゃろう」

 死にはしないとあっけらかんと言う。

「来た時みたいにハスターで跳んで行くのは?」

「蜂蜜酒のドーピングはあの一撃で切れとるからな、未だお主が開眼状態なら見て見れば納得したじゃろうが、クトルー相手の一撃で全部使ったからすっからかんじゃ」

「蜂蜜酒の在庫はもう無いんですか?」

「アレ結構な貴重品じゃからな? 命の危険も無い全部済んだ帰り道に使うには勿体無いし、そもそも在庫は無いぞ?」

 そんな事を言いながら空間収納の荷物を漁り出す。

「そんな訳で……」

「そんな訳で?」

「ゆっくり浮かんで待つとしようか?」

 救命用のライフジャケットと浮き輪、序に水着が出て来た。

「用意周到ですね?」

「着衣水泳は効率が良くないからな?」

 絵的にも映えんしと小さく聞こえた。

「其処で頑なに女物な辺りにはツッコミを入れても無駄なんですね?」

 パットとサポーターがしっかりついたセパレートビキニだった。

「そもそもお主、男物着ると色々憑りつかれて体調崩すじゃろうが、パレオついて居る事に温情を感じても良いぞ?」

「アリガトウゴザイマス」

 思わず棒読みで礼を言いつつ着替えて、散々からかわれつつ写真撮影された。




 小一時間程水面でぷかぷか浮かんでいると、船と言うか巨大な白いオオカワウソが迎えに来た。一三さんが操る管狐の水中形態らしい。

「ワハハハハハハハハ」

 獣とは思えない笑う様な鳴き声にびくりと退く。

「思ったより早かったな?」

 葛様は驚いた様子も無くオオカワウソに跨る。

「ほれ? 来い」

 予定調和と手を伸ばして来るので、迷わず掴み返すと、するんと持ち上げられた。

 抱えられる様にタンデムする。

 何時もの感触とは違う、柔らかいモノが首の後ろに当たって居た。

「毛皮をしっかり掴め、じゃあ、頼んだぞ?」

 葛様が勝手知ったると言った調子で巨大オオカワウソに指示を出す。

「ワハハハハハハハハ」

 了解とばかりに笑う様な鳴き声を上げると、凄い速さで泳ぎ出した。



「ご無事で何よりです」

 船に戻ると、何だかんだで疲れた様子の部長が出迎えてくれた。

 甲板に深き者共の死体が山と成って居た。

 巨大オオカワウソが深き者共の死体を齧り出した、未だ活きが良いらしく、血が飛び散る、食事風景がひたすら悪者っぽい。

「キングオオカワウソモード解除、省エネモード」

 ぐったりとした様子で甲板の椅子に寝転んでいた一三さんが指示を出すと、オオカワウソが分離して何時もの大きさの小さなオコジョに戻るが、其のまま噛り付いて居るので白い毛皮が真っ赤に成って居た。

「流石に疲れました」

 げんなりといった調子で一三さんが呟く。

「はしゃぎ過ぎたか? 蜂蜜酒入れて限界稼働は反動がきついじゃろう?」

「この子達の全力稼働は私には荷が重いです」

「まあ、多少は慣れておけ、その内又出番があるかもしれんからな?」

 葛様が苦笑しつつ一三さんを労う様に頭を軽く撫でている。

「変なフラグ立てないで下さいよ‥‥‥」

「まあ、其の内じゃ、今直ぐじゃ無いから安心せい」

 曖昧な返事に改めて一三さんが恨みがましい目を向けつつぐったりと倒れ伏す、占いの時に変なモノでも見ていたのだろうか?

「今運転すると飲酒運転になっちゃうので、今は休ませてください」

 言葉を止めて何とも言えない表情で此方を見る。

「……言うまでも無くバカンス準備完了してるみたいですけど」

 当然だが、揃って水着のままだった。葛様に押し付けられた、セパレートビキニである、ビキニでは有るが若干骨ばる部分をカバーする形に布地は多く、あつらえたようにぴったりで今更違和感は感じない。

 因みに、葛様の方も水着に成って居る、目が覚める様な紅に白の縁取りのされたビキニだった、着替えるシーンが無かったので、恐らくちゃんとした服では無く、巫女服と同じく化けの方なのだろうが、最早突っ込むだけ無駄だと思うので「よく似合いますね」としか言えなかった、露出は激しいのだが、堂々とし過ぎてエロス的な感じは無く、只健康的に見惚れるほど奇麗で眩しいだけだ。

「何なら水着貸すか? サンオイルと日焼け止めどっちが良い?」

 葛様に堪えた様子は一切無く、いっその事バカンスモードに引きずり込む気だ。

「日焼け止めでお願いします」

 諦め気味に水着と日焼け止めを受け取って、着替える為か船室の方に引っ込んで行った。

「流石に男物は無いぞ?」

「男なんて上着脱ぐだけで十分です」

 特に残念な様子も無く上着を脱いだ、改めて見るとこの部長、ムッキムキである、男として内心羨ましく思いつつ、ぼんやり眺める。

「何でサイズあってるんですかと言うか、何で此処迄準備を‥‥」

 一三さんが腑に落ちない様子で水着に着替えて戻って来た。

 割と露出が激しい紐ビキニだった。

 服の上からは判りにくかったが、結構鍛えて居る様子で、良く引き締まった格好良い身体をしていた。

「良く似合いますね」

 思わず褒め言葉が出て。

「ありがとうございます、陽希さんも良くお似合いで、可愛いですね」

 打ち返された言葉で思わずがくりと崩れ落ちる。

 葛様がお腹を抱えて大笑いしていた。


 そんな訳で、仕事終わりにバカンスの如く日光浴をする羽目に成った。言うまでも無く、全員力尽きていたので、其のまま甲板で寝ていただけなのだが。のんびりとして居て良い時間だったと思う。



 後日、飛行するポリプ相手に一三さんが七尾の狐で空戦する羽目に成るのは、この時点ではまた別の話だ。



 追伸

 まあ、変なネタをばら撒き気味に挟みますが、回収せずにそろそろ終わるつもりですので、余りお気になさらず笑っといて下さい。

 感想、応援、評価の☆☆☆、レビュー等、気軽にお願いします、読者の方々が思っている以上に影響がデカいのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る