第38話 番外 家に帰る迄が怪異です

「そう言えば、この怪異、きさらぎ駅の詳細ってどんなの?」

 人里を目指して廃線跡を紬(つむぎ)の手を引き歩きながら、今更聞いて見る。

 地図上の直線距離で10キロほど、ある程度舗装された様な道だが、3時間は見て置かなければならい。一寸した湾曲や坂、その他色々影響して最初の見積もりよりは確実に道のりは長い。

 無言で歩くよりは色々話して見た方が建設的だ。

「電車に乗って眠って居ると、電車が何時もと違う路線を走り出して、見た事無いほど遠くに連れていかれて、誰もいない駅で降りる事に成って、時間がズレて、帰り道が解らなくなって、線路を歩いて居ると幽霊やら何やら出てきた挙句に、人里に出てきた所、車で送ってあげるって知らない人に知らない場所に連れて行かれる話です」

 電車から見知らぬ駅と言うのは、怪談としては定番か。

「なるほど、オチは?」

「電池が切れて音信不通です」

 怪談に携帯が入るのはこれも時代か、比較的新しい怪異らしい。

「成程・・・」

 現状の怪異と大体合っては居る訳だ、だがそう成ると・・・・

「まだ終わって無いんだな・・・・・」

 思わず呟き気分が沈む。

 現時点で半分と言った所か、さあて、鬼が出るか蛇が出るか。

「所で、話題変わりますけど、何で女装なんです?」

 今更な所に話題が飛んで来た。

「魔除けで病気避け、厄除け、最近の有名所だとGG(ギアギア)のブリギッテとか言うのもそうだっけ?」

 例を挙げて端的に説明する。

「ああ、今でもそう言うの有るんですね?」

「オウスのオグナがクマソタケルに女装して色仕掛けした時からの伝統芸」

「そう考えると業が深いですね・・・・」

 何やってるんでしょう御先祖・・・

 と、小さく呟いて居る。

「そう言う事で、今の怪異に巻き込まれてることからも判る通り、巻き込まれても生き残れるからコレで助かってる」

 怪異から認識され難く、戦闘時に初撃が取れると言うのはかなり強い。

「有るんですか・・・」

「有るんだ、だから未だに男物が着れない」

 そろそろ大丈夫じゃないかと昔は時々男物を着て見たりもしているが、どうにもしっくり来ないし、憑かれた場合消耗してしまうので、後で祓って女装し直して消耗分を取り戻すまでが手間なので、今は諦めて常時女装中である。

「大変ですね・・・」

 納得はされたらしい。

「恋愛対象は?」

「普通に女の子が好きだよ? ホモじゃ無いってのは先に説明した」

「じゃあ、この手は・・・」

「異界化した空間で一般人を放り出すと行方不明、神隠しか、とりかえばや、チェンジリング式に帰って来れなくなる、帰りたかったら手を離さない事」

 他意は無いと説明する。

 何だか少しだけ残念そうな表情をしているが、此処で手を離して行方不明になられた場合、もう一度此処に来れる保証は無く、救助できる自信は無いので、後々を考えても、絶対に手を離すつもりは無い。

「妙に手慣れてますけど、よくあるんですか?」

「家業的に仕事でやってるけど、うっかり巻き込まれた守備範囲ってだけ」

 感覚としては非番の警察官が事件やら事故に巻き込まれて休日出勤していると言う感じだろうか。

「退魔師? 陰陽師? 霊能者?」

「家系的には陰陽師だけど、霊能的なのは持ってない、退魔師だと思ってくれて良いけど、あんまり表立ってやってる事じゃ無いから、色々内緒にしてくれると嬉しい」

 一応予防線は張って置く。

 一部公務員の方々以外は存在を知らない事になっている。

 すべての人が異界の生き物やらモノノケやら呪いの存在を信じてくれる訳では無いので、表立った活動をするには世間の目が厳しい。

「気を付けておきます、でも、キャラ濃いですねえ?」

 しみじみと言われた。

「好きで濃い訳じゃ無い」

 そう返して置く。

「電車での立ち姿が内又なのは?」

「サンチン、空手とかの構えの一種だよ?」

 一番衝撃に強いのだ、足を大きく広げればもっと安定するが、満員電車ではコンパクトに構えられるこれが一番楽である。

「変な合理性が・・・・」

 紬は何とも言えない表情を浮かべて居た。



「ん?」

 何故か足元に皮が剥けていない青い胡桃くるみが落ちていた。皮が剥けていない胡桃は、胡桃とは認識されない丸い形状をしている。

 出所を探すと、線路の横に胡桃の木が有った様だ。

 思う所があって、一つ二つ拾って置く

「食べるんですか?」

 不思議そうに紬が言う。

「保険、食べる物では無いね」

 そう返しておいた。


 未だ明るい筈の時間帯なのに、この廃線は山の谷間に位置するのか、太陽は山の向こうに隠れ、どんどん暗くなってきた。

 何か嫌な感じがする。

 紬の手を握りながら線路を歩いて人里を目指していたのだが、周囲の森がどんより暗くなり、線路はトンネルに差し掛かった。

『伊佐貫』

 と、トンネルの頭に表札が付いて居る、いさぬき?

 年代が古いのか、読み仮名的な物は付いて居ない。

 反対側の明かりは見えるのだが、途中は真っ暗だ。

 うん、これは危ない・・・・

 二段式の異界だったらしいと言うか、この森と山、トンネルはあまり良くない物だと実感できる。地の底は怪異や異界としては勢いを増す地形だ。

 灯りの為にポケットから取り出したスマホが、又圏外に成って居た。


「黄泉平坂(よもつひらさか)かな?」

 どうやらこの怪異自体がイザナミとイザナギの黄泉下りをモデルにして居る様だ、恐らく駅についてループにはまり、疲れた所であの自販機を利用して黄泉の食物を摂取すると黄泉の住民と成り、この黄泉平坂を越えられない様に成ると言う流れなのだろう、其れならば喉が渇いても自動販売機を使わなかった甲斐は有った訳だが。

(桃ジュースを買って置くべきだったか?)

 あの駅の怪しい自動販売機には桃のジュースがラインナップされて居た、今に成って出番があったんだなと内心で残念に思う。

 買っておけば魔除けに使えたのだが、流石に其処まで気が回らなかった。


 多分、このトンネル越えれば現実と言うか現世(うつよ)だけど、変な気配も感じる。

「コレ持って置いて」

 先程拾った胡桃をポケットから取り出し紬に渡す。

 桃程ではないが、コレも魔除けとして使えるのだ。

「多分、怖いものが居たり見えたりすると思うけど、絶対に手を離さない事、どうしても怖かったらその胡桃を投げつけて」

「はい」

 不承不承と言った様子で胡桃を受け取る。

 じゃあ、行こうか?

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