第13話 約束と嘘

 葛様作った食事を無事食べ終え、不意に真剣な目を向けて来た。

「所で、お主は覚えておるかな?」

 何の事だと言いそうだが、先程の夢で鮮明に思い出して居るので覚えては居る。

 恐らく子供の時にした約束、結婚したいと言った指切りの件だろう。

「・・・・すいません、何の事です?」

 真っ直ぐ見て来る目に対して思わず目を逸らして、否定する。

 何も知らなかったあの頃なら兎も角、今はこの人が何者であるのかとか、自分との立場の違いとか、そんな物が色々見える様になってしまった、こうなってしまうと、自分が本気で釣り合うのかと言う雑念の方が多い。

「ふむ・・・・」

 葛様から期待半分と言った様子の笑みが消え、つまらない事を言いおったな? と言った様子の厳しい目が向けられる。

「所で、儂は人では無く稲荷大明神(宇迦之御魂神)の第一の神使にして、八百万の神々の一柱である葛の葉、土御門の祖とも言われる、安倍晴明の母親と言えば判るかのう?」

「はい・・・」

 其れは自分で調べて知っている、と言うか、其の事を知ってしまったからこその気後れだ、未だ何物でもない自分が釣り合うとも思えない・・・・

「神や神使と言う物は、人間以上に約束に縛られる物だと言う事は知っておるかな?」

「いいえ・・・」

「先ずは手を出せ」

 葛様が右手を握りこぶしにして小指を立てて突き出して来る。

「良いから出せ、指切りじゃ」

 剣幕に押されて、此方も右手の薬指を差し出すと、むんずといった勢いで葛様の小指にからめとられた。

「ゆーびきーりげーんまーんうーそついたらはりせんぼーんのーます ゆびきった」

 最後にぎゅうと握りしめられた、万力の様な感触で指が痛いが、離してくれない。

「所で、之わらべ歌の契約は古くてのう? 約束の形として指を斬り、約束を果たさなかった場合、拳骨を万回、針を千本呑めと言う中々に恐ろしい内容じゃ・・・」

 既に先程迄の上機嫌は消えている。

「こんな所で神でも有る儂相手に嘘をつきおって、純粋に覚えておらん訳でも無く、其の歳でつまらん保身と世間体か?」

 ギリギリと小指を握りしめられる、今にも指が折れそうな感触で色が変わってきている、当然痛いが、そんな文句を言える雰囲気では無いし、自分の付いた嘘が原因なので文句を言う資格は無い。

「儂の拳骨なら塵も残らんな? 電車に轢かれた死体の如くタタキかミンチ、鶏様(にわとりさま)にでも成りたいか?」

 咄嗟に夜鬼を殴り飛ばしたあの時の拳を思い浮かべ、気圧されて思わず首を横に振る。

 因みに、全て電車と真正面からぶつかった時の隠語だ、全身バラバラの肉片に成る様を意味する。

「其れともハリセンボンか? 針を準備するのも面倒じゃな? 之でも飲むか?」

 何時の間にか葛様の手に一枚の符が握られていた、恐らく動きが自然過ぎて見えなかったのだろう・・・・

 符がパタパタと自動で折り畳まれ一匹の魚が折り上がる。

 それは、ずんぐりむっくりとした魚だった、端的に言えば膨らんでいない段階の河豚の様だが、表面に何処かトゲトゲとした飾り折りが見える。

「儂オリジナルの符術でな? こうして力を籠めると・・・」

 みるみる中に折り紙の魚は膨れ上がる、どうやらハリセンボンだったらしい、トゲトゲを逆立てた形と成り、ボンと破裂した。

 折り紙だと言うのに、其の棘は自分の手に突き刺さった。

 痛いなあと、他人事の様に考える、血がにじむが、失望顔の葛様が、呆れ顔で目の端に涙を浮かべて居る事に今更気が付き、其方に目を奪われてそれ所じゃ無くなった・・・・

「何を呆けておる? お主の立場は判っておるか?」

 先程と同じ符が葛様の左手に握られていた。これ見よがしに目の前に掲げられる。

 何でこの人が涙を? 自分が嘘をついただけだと言うのに・・・

「こうなる訳じゃ、分かっておるか?」

 その言葉はもう耳に入って居なかった。葛様の口調は自分を責めて居るが、目尻に浮かんだ涙は、何時の間にか溢れて流れ、涙の道を作っていた。

「分かって居ます・・・・」

「いいや分っておらん! あの約束の為に儂がどれだけ根回しをしたと思っておる?! 万難を排して待っておったのじゃぞ?! お主が覚えていますと、約束は守りますと言うだけで婚約は成立じゃったのじゃぞ?! あの時の約束に浮かれて10年待っておった儂の立場はどうなると思ってるんじゃ?!」

 葛様の口調は叩き付ける様に成って居た。

 最早言葉でどうにかなる段階では無い、思わず葛様の手から符を握りしめて奪い、其のまま丸め込んで口に放り込み、強引に飲み下した。

「な?!」

 当然、飲み下せる訳も無く、順当に喉に詰まって呼吸困難でのた打ち回る事と成った。葛様の驚いた顔が妙に印象的だった・・・




 追伸

 前作主人公、矢鱈と手の速かった和尚と違い、陽希は当人の主観的に余り評価されていないと言うか、自分が何者で何を要求されて居るのか分かって居ないタイプです、据え膳に手を出すには自分の自信が足りません。葛は其れも含めて構わんと手を広げて待っていてくれたと言うのに、このような形に成ってしまいました。

 性欲で走れば問題無いと言うのに、無駄に理性的と言うか、前述の通りに器から溢れる精気と言う段階に至れていないので、思春期の癖に今一性欲が薄いのです。

 対比にされた和尚に関しては、彼奴は良くも悪くも現代だろうと異世界だろうと何所に放り出そうと一人で生き残れます、其のことが自信に成って居るので、一人二人身内に取り込んでも生存出来る自信が有った訳です、性欲が有ったのも確かですが、あの状態で手を出さない方が失礼ですよね? って感じの状態です。

 平たく言うと、うだうだ言ってないで責任取って手を出せ陽希。

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