センシティ部な僕ら
村上 ユウ
プロローグ
『二十年前のセンシティブベビーの登場以降、センシティブの出生率は増え続けています。現在では、出生数の十パーセントほどをセンシティブが占めており――』
「あっ」
朝食のチーズトーストを飲み込みつつニュースをを見ていると、突如チャンネルが変えられてしまう。
「姉ちゃん、チャンネル変えるなよ。今のニュース見てたのに」
「おはよう。ああー、センシティブだっけ。でも私、ジップ見たいし」
「やだよ、只でさえそういう番組ってぶりっ子の女子アナが多いっていうのに」
『わあ! 大きな蟹! 私、『蟹大好きなんですよ~』』
女子アナのその
「ごめん、ごめん。起きたばっかで忘れてたよ」
「別にいいよ……」
「で、今のはどこの部分が嘘だったの?」
「女子アナが蟹大好きって言ってた部分」
「へえ、よく分かるもんだね」
「まあ、そういうものだから。んじゃ、学校行くわ」
「あ、行ってらっしゃい」
家から高校まではチャリで十五分ほど。すっかり緑色になってしまった桜の木を眺めながら、ボーッと自転車をこいでいく。その間、頭では朝のニュースを反芻していた。
センシティブ。
その言葉通り敏感な人を意味する。ただニュースキャスターの言っていた意味とは違うのだが。
ここでは、能力者とでも言えば正しいのだろうか。不思議な能力を持った人間、それがセンシティブと言われる人たちだ。
しかし、能力者と言っても漫画やアニメで空想されるような、念動力や瞬間移動といったものではない。せいぜい、少し先の未来が見える、超音波が聞こえるといった程度の能力だ。
そして今現在発見されているセンシティブの能力は全て五感にまつわる能力だ。だからセンシティブという名称がついたのかもしれないが。
二十年前、つまりは僕が生まれる五年前、初めてセンシティブ第一号が発見された。それ以降センシティブは増え続けているものの、センシティブ人口は世界総人口の一パーセントにも満たない。
先天的に発現する能力のため出生することでしか増えないのが原因なのだろう。
僕、
* * * * *
昼休みは部室で一人で弁当を食べる。それが僕の日常だ。別に教室に友だちが居ないからだとか、人間強度を保ちたいからだとかなんて理由じゃあない。か、勘違いしないでよねっ!
ただ、『聞こえて』しまうのだ。人が増えるほど会話も増える。そしてそれに比例するように嘘も増えていく。理由は単純。嘘がコミュニケーションを円滑にするから。
この現代社会じゃ、社交辞令が常識と言わんばかりに嘘をつくことを強要する。だから誰しも息をするように嘘をつく。僕は嘘それ自体が嫌いなわけではないのだけれど、どうしたって『聞こえて』しまうから、やっぱり嘘は苦手だった。
人が嘘をつくとき、心にも無いことを言うとき、僕の耳には雑音が聞こえてくる。それは貝の砂を噛んだときの砂のような音であったり、蚊が耳元で飛ぶような音であったり、はたまた黒板を爪でひっかく音だったり。
大抵の場合は、不快度に差はあるにせよ嫌な音が聞こえる。ただ、極々まれに風鈴のような綺麗な音も聞こえることもある。思い出すのも難しいほど、遠い昔だけど。
兎に角、そんな僕には部室は安息の場所であり、ある意味サンクチュアリとも言えるような場所でもあったのだ。
どうでもいいけど、サンクチュアリって格好良くね? 僕は絶滅危惧種だった?
窓の外を眺めながら弁当を食べるという至福の時間、学校にいる間の数少ない心が洗われる時間。
「広瀬、廃部になるかもしれないわ」
そんな至福の時間は、部室に入ってきた部長の言葉のにより崩れ去りそうだった。
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