第27話
幸いなことに罠に使う素材はE級の木材やクルシュが持っている糸、他にはただの土だったり、と大した素材は必要にならなかった。
それを使い、周囲にありったけの罠を仕掛けていく。
罠自体も水晶に表示された周囲の地図(おそらく半径1kmほど)のどこに仕掛けるかを押すだけで仕掛けられたので、かなりの数を用意することができた。
「ソーマ、急いで! もう来るわよ!」
「ま、待ってくれ。あと少し……」
慌てた様子のラーレが急かしてくる。
その様子を見る限りだとかなり近くまで来ているようだ。
突然襲われる可能性も考えて、クルシュには近くにある『いやし草』を集めてもらっておいた。
そして、アルバンにはなるべく休んでいてもらった……はずが「ソーマ様、大丈夫ですか? 私も手伝います」とそわそわしていたので、逆効果だったかもしれない。
まぁ、それでも今取れる最大限の対応をしておいた。
あとは、何が来てもいいように臨機応変に対応するだけだな――。
◇■◇
ソーマの領地近くを歩いている男たち。
その手には剣や槍、杖といった武器を持ち、殺気を出しながら周りを見渡して、何かを探しているようだった。
「本当にこの辺りに現れたのか?」
「あぁ、間違いない。伝説のドラゴンを見かけたとの報告がある。奴を捕らえたら俺たちは一生遊んで暮らせるぞ!」
ドラゴンの素材はかなり効果な値がつく。
それが伝説級ともなれば額が跳ね上がり、天文学的な値段を出してでも買おうとするものが現れる。
十人以上で山分けしたとしても、一生遊んで暮らせ、それでも金が余るほどの収入がある。
つまり、男達は別にソーマの領地を狙おうとしているわけではなく、たまたま近くに現れたというドラゴンを狙っていただけだった。
「し、しかし、それほどの相手、我々だけで勝てるのか?」
「大丈夫だ。噂によると理由はわからんが、既に弱っていたらしい。そんな状態ならわざわざ人数を増やして金を分け与える理由もあるまい」
男は不敵な笑みを浮かべていた。
「それもそうだな。遊ぶ金は多いに越したことはないからな。がはは……って、うぁぁぁぁぁ……」
笑い声を上げていたはずの男は、突然叫び声を上げながらその姿を消していた。
一瞬、周りの男たちは何が起こったのかわからずに固まっていたが、すぐに慌て出す。
「わ、罠だ! ドラゴンのやろうが転移の罠を張ってやがるぞ!」
「くそっ、転移魔法なんてどう防げば良いんだよ!」
「足元だ! 足元に注意しろ! 転移魔法が仕掛けられた地面は微妙に色が変わる……なんて噂を聞いたことがあるぞ!」
「おっ、確かに所々色が変わっている地面があるな。あそこに転移魔法の罠があるんだな。場所さえわかればその程度の罠、引っかかるはずが……。うわぁぁぁぁぁ……」
ジッと下を見ていたはずの男が一瞬で空に飛ばされて姿を消していた。
「地面だけじゃないぞ! 一体どこに罠が!?」
「ま、まさか俺たちは填められたのか!? に、逃げろぉぉぉ……」
その場から逃げだす男達が現れる。
しかし、その誰もが姿を消していった。
「な、なぜだ……。どうしてこんなことに……。俺たちはただ、ドラゴンを――」
その瞬間に男の目の前に白銀のドラゴンが姿を現した。
巨大な体と思わず見惚れてしまうその姿を見て、男は幻を見ているような気持ちになる。
ただ、ドラゴンが咆哮を上げた瞬間に我に返り、その場から逃げ去った瞬間に体が突然縛られる。
「ぐっ……、お、俺を殺す気か……」
必死に抵抗しようとするが逃れきれず、何とか体を動かしてちょっとでもドラゴンからはなれようとした瞬間に体が宙を舞っていた。
「くそっ……、ドラゴンになんて関わるんじゃなかった……」
◇■◇
白銀のドラゴンも目の前に起きている現象をただ茫然と眺めていた。
すでにほぼ魔力は付き、更には体も傷つき、今はまともに戦うこともおぼつかない。
そんな状態で殺気だった男達に囲まれたのだから、命を落とす覚悟すらしていた。
しかし、どういうわけか自分は生きている。
かなりの数がいた男達は、落とし穴に嵌まり、または網に捕まり、木の上に括り付けられたり、またある者はロープによって身動きを封じられていた。
これはどう見ても人間が仕掛けた罠だった。
そして、それによって得をするのはドラゴン。
(私を助けてくれたものがいる? 一体どういう理由で? ま、まさか、これが俗に言うドラゴンの救世主様!?)
ドラゴンは自身を助けてくれた者に興味を抱き、罠についた匂いを元にその人物を探し始めた。
◇■◇
襲いかかってくるであろう集団を待ち構えていた俺たち。
ただ、殺気だった集団が現れると思っていたのだが俺たちの前に現れたのは白銀のドラゴンだった。
ど、どうして、ドラゴンが?
突然現れた最強クラスの魔物に俺は動揺を隠しきれなかった。
究極の魔物。
伝説の生物。
最高のかませ犬。
等々と言われる最強クラスの魔物だ。
……いや、最後のは少し違うが。
とにかくまともに戦うのはまずい。
でも、対人用に仕掛けた罠が効くような相手ではない。
薬の爆発なら……。
いや、刺激をしない方がいいな。
もし、爆発一回で倒しきれなかったら俺たちはあっさり全滅するだろう。
「と、いうより相手は人間じゃなかったのか!?」
小声でラーレに問いかける。
すると、ラーレも慌てて答える。
「し、知らないわよ! 私が感じたのは間違いなく殺気だった人の集団だったわ! でも今はそれも消えて――」
「あ、アルバン、ドラゴンの相手はできるか?」
「さすがの私でも勝ち目はないです。ですが、ラーレと共にソーマ様やクルシュ様が逃げる時間を確保しますので、急いで離脱を――」
剣を抜くアルバン。
すると、クルシュは大慌てで叫ぶ。
「だ、ダメですよ! アルバンさんもラーレさんも自分を犠牲にするなんて……」
「ちょっと待って! 私は犠牲になるなんて言ってないわよ!?」
「と、とにかく、今はあのドラゴンを刺激しないように、穏便に帰ってもらうぞ……」
冷や汗を流しながら、俺はドラゴンに声をかける。
「えっと……、ここに何か用でも?」
相手はドラゴン。
流石に返事が返ってくるとは思っていなかった。
しかし、ドラゴンからは人の言葉で返事がくる。
「あなたが救世主なのですか?」
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