第10話 vs.中級ウイルス①

「えぇ、私よ! 出たわ! 目は一つ、中級ね。数は1、周囲の人は避難させたわ。うん、だから私中心に30m程で展開して!」


 例の、空中に展開するデバイスを開き、何か指示を送る少女。


「おい! なんだ? なんかすんのか?」


「あ、あなた……! なんで来たの! さっきの店に戻りなさい!」


 少女に驚いた顔で言われた次の瞬間、青みがかった透明な膜が、ドーム状に周囲を包んだ。


「うおっ! なんだこれ!? 今言ってたやつか!?」


「……遅かったようね。はあ、仕方ない‥‥‥」


 呆れるように言った少女は、携えていた鞘から刀を抜き出して構えた。


その刀は、柄から刃の先まで、全てが黒く染まっていた。


「黒刀ってやつか‥‥‥」


 お店で話したときから気になってはいたけど、あの携帯していた鞘は、やっぱり刃が付いた刀だったか。


プラズマソードのように光っていないところを見ると、『質量のあるプラズマ』ってやつか。

危険で一般市民の所有は禁止されている武器‥‥‥。


「私がウイルスを駆除し終わるまで、出来るだけ距離をとって隠れてて」


「いや、俺も戦おうと………」


「一般市民が何言ってるの! 遊びじゃないのよ!」


「うっ………」


 先程までとは違う、真剣な声色に少し怯む。


「いや、ただ俺は疑いを晴らすため……に……」


 少女の毅然とした態度と、睨みつけるような瞳を見ている内に、徐々に発する言葉がすぼんでしまった。


「……その話は後で聞くから、今は任せて。私には市民を守る義務がある。あなたの言う通り、確かに疑いは持っているけど、それこそ、あなたがただの市民だと言うなら、尚更、巻き込めないわ。だから、今は下がって」


「……わかった」


 少女の気迫と言い分に押されて、引き下がった。

 考えてみれば、物質の武器を持っている以上、下手に割り込めば、プラズマと違って実際に斬られる可能性があるってことだもんな……。


 ここはおとなしくしておこうと、隠れるところを探すため、周囲を見渡す。


しかし、ドーム状のバリアの中で、隠れられそうなところが見当たらなかったため、とりあえず数歩下がることにした。


少女の背中越しに前方へ目をやると、店で一瞬しか姿を確認できなかったウイルスの全容がよく見えた。


 さっき倒したほうのウイルスが、『コウモリ』をモチーフにしたようなビジュアルとしたら、こっちは『クモ』と言ったとこか。


 黒々とした、大小2つの球体がくっ付いたような身体。後ろ側の大きい球体からは足が6本。そして、前側の小さい球体には先が鎌のようになっている腕が二本と、こちらをギョロリと見る一つ目の目玉。


 その鎌蜘蛛は、こちらが会話している間もジッとしていた。


「……なんで攻撃してこないんだ?」


 思わず呟いた疑問に、黒刀少女が答えた。


「多分、近距離型なのよ。あなたがさっき助けてくれたときの攻撃から見ても、あの鎌のついた腕の届く範囲があのウイルスの射程距離のようね」


 さっきのあれ、一応、助けてくれたと思ってくれてたんだな。さらっと受け身とって、すぐ追っかけて行ったし、こっち頭打って倒れたまんまだったから、てっきり、ノーカウントなのかと。


「ってことは、向こうは攻撃を仕掛けてくるのを待ってるのか?」


「恐らくね」


 団子野郎はガンガン突っ込んできやがったが……ウイルスにもタイプがあるようだな。


「……ん?」


 思考を巡らせていると、どこからか音が聞こえたような気がした。注意深く耳を済ませると、ピシッ……という音が確かに聞こえた。

その何かが割れるような音は下から聞こえているようだった。


「……」


 足下の地面を見つめていると、石畳の一部にヒビが入っており、音が聞こえる度に少しずつ割れ目が広がっていった。


「ま、まさか……!」


 嫌な予感がし、咄嗟にその場を避ける。

後ろ側には出現したバリアのような壁があるので、前方へと、背を向けて後退する。


 音と割れ目が少しずつ大きくなり、足元に振動を感じた途端、石畳が跳ね飛ばされるように大きく割れ、黒い物体が飛び出した。


もちろん、その黒い物体というのはウイルスだった。

カブトムシのような形をしていて角の下に、一つ目がある。


「もう一体、いやがったのか……!」


 飛び散る石の破片を避けようと、更に後退すると、背中に柔らかい感触が当たった。


「きゃっ!」

「うおぉ!」


 思わぬ所でぶつかったこと、悲鳴に似た声が耳元に響いたことのダブルで驚いた。


振り返ると、悲鳴を上げた当人の黒刀少女も驚きと羞恥に満ちた表情だった。


「わ、わりぃ!」


「だ、大丈夫よ……」

「あ、あぁ……ほんと、わりぃ……」


 黒刀少女の表情と、胸を抑えている仕草から、さっきの背中に感じた柔らかい感触は……と勘づいてしまい、気まずさで2回謝ってしまった。

ここでラッキースケベか……。うん、今じゃねえな。


「……あれ?」


 ふと思ったが、今のこの状況……。

バリアで囲まれた空間。その両端、対になるように2体のウイルス、そして、ちょうどその中心に俺たち2人。


「これって……」


「えぇ、挟み撃ちね」


「やっぱりそうか……コイツら……!」

 肉団子の時から感じてはいたが、このウイルス達は『知性』というものを持っているようだ。


 コンピュータウイルスなのだから、生活というシステムに少しトラブルを起こす程度、たまに家に出る害虫くらいに考えていたが、どうやら、ただカサカサ動くだけの害虫と違い、『挟み撃ち』を思い付くくらいには頭を使うようだ。


「アンタの市民を守る義務ってやつを放棄させるようで悪いが、どうやら……」


 借りたプラズマソードを取り出して構える。


「強制参加のようだ……!」

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