3-07 準備 (fix

 一通り、自己紹介を済ませた後、議題はオリオンアーム星域セクターへ侵入する話に移る。


「しかし……クロエ君とユキムラ君は居ないのか……困ったな……」


 カフカ隊長が顎をつまんでそう言った。


「クランの合流申請だけですし、二人も了承してますから、特に問題ないんじゃあないんですか?」


 俺がそう云うと、マサムネさんが首を振る。


「ナオチカ――いえ、シド君『オリオンアームへ入る』のはそんなに単純な話じゃないのよ……」

「……どういうことです?」


 マサムネさんの表情が曇る。

 昨日の伊澄イスミさんのような、悲しそうな表情をしていた。


「また『話せない話』ですか……」

「その様子だと、シド君は多少知っているのかい?」

「いえ、まったく」


 皆、隠し事が多すぎる。

 イスミさんのことも、まだ黙っていた方が良いだろう。

 カフカ隊長は見知った人だけど、昨日のことを思うと、迂闊に話せない。

 俺も、そうして隠し事が増えているのか。


 それに昨日の伊澄イスミさんも、カフカ隊長も、マサムネさんも、P・B・Dペイル・ブルードットに真剣すぎるのだ。

 もちろんカフカ隊長はイド:ザ・エピックバルブで、最高位のクランの一つを率いていたのだから、ゲームに対して真剣なのは、おかしな話ではないのだけども。

 それにしてもなんだか、みんな、切羽詰まっているような、危うい雰囲気をもって話していた。


「なるほど『初見』か……イスミさんもかい?」

「わたしは……事情は少しだけ」


 そう言ってイスミさんは、ルルさんを掴んで抱き寄せた。


「それは?」

「ルルさん」

「ルル……さん……?」

「ああ、いや、カフカ隊長、それは……」

【シド殿、問題ない】


 俺が話を仲介しようとしたとき、黙っていたルルさんが口を開いた。

 喋り声に合わせて黒い表面にチカチカと七色の明かりが灯る。


「喋った? シド君、これは……一体なんだい?」

「『アノマリー』のルルさん、ですけど……カフカ隊長の知っているのとは違うんですか?」

「俺たちが保有していた『アノマリー』は、虹色の八面体だったが……ものによって形状が違うのか……?」


 カフカ隊長がまじまじとルルさんを観察する。見るとマサムネさんや、レオ君、ミオちゃんも興味深そうにルルさんを見つめていた。


【しゃべってよろしいか? カフカ殿】

「え、ああ、構いませんよ、ルル……殿?」

【正式な呼称はレジェンダリィ・アノマリー09・カハ=ルルィーク】

「では、カハ=ルルィーク殿」

【出来る男だな】

「何か?」

【いやこちらの話だ】


 イスミさんや俺たちが、名前を呼びにくいと云ったの、気にしていたのか。


「レジェンダリィというのは?」

【おそらくは想像している通り、私は通常の『アノマリー』とは別のものだ】

「どういうことです? カフカ隊長」


 話が見えないので口を挟むと、カフカ隊長は面倒くさがりもせずに、きちんとこちらに向き直ってくれる。

 こういうところは相変わらずだった。


「ハヴェルスカーがオリオンアーム星域セクターに突入した際、使用したのは『アノマリーNo.148』だった。レジェンダリィとは付いていないし、名前も付いていなかった。俺たちの感覚では『トリガー』や『キー』のようなイメージのアイテムだったよ、シド君」


 手振りで形と大きさを示しながら、カフカさんは丁寧に説明してくれる。


「ルルさん……いったい何者なの?」


 ルルさんは、イスミさんの腕の中から浮かび上がると、そのまま無重力を泳いでミーティング・ルームの扉を開けた。


中枢区画コア・ブロックへ。それは、オリオンアーム星域セクターに突入する準備をすればわかる】

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