2-18 刹那 (fix

 粒子端末グリッターダストが作り出す煙幕を外套マントのように纏いながら、両肩の肩部武装区画アーセナルが開き、二門の亜光速サブライトカノンが覗く。


 連射された亜光速徹甲弾サブライト・シェルの列が、ステーションの外壁を吹き飛ばしながら〈ディヴィジョン〉を通過。

 命中弾を、可動防御板シールド・モジュールが楯になって防ぐと同時にはじけ飛んだ。


「そこで突っ込んでくるか、カフカ隊長!」


 即座にサブ・メニューをタッチして、側面のサブアームが保持していた可動防御板シールド・モジュールを前面の防御に移動させながら、マサムネさんの〈アバカン〉を追っていた銃口を咄嗟に引き戻し、トリガーを引き続ける。


 反動で跳ね上がる亜光速サブライトスラグ・ライフルの照準を抑え込みながら、連射した最後の一発が辛うじて、命中。

 大口径スラグ亜光速徹甲弾サブライト・シェルがお返しとばかりに、〈ウォーフレーム〉の右肩側の可動防御板シールド・モジュールを二枚まとめて吹き飛ばした。


「はっはっは! 良いなナオチカ君! 良いぞ!」


〈ウォーフレーム〉は勢いを緩めず、そのまま突っ込んできて、蹴りキック


「ちょッ!」


 壁蹴りウォール・キックは俺もよく使うが、それは攻撃用のモーションではなくて、障害物を使っての急な方向転換などを行う為の骨格艦レヴナント移動所作パルクールだ。

 ダメージも微弱。しかし、骨格艦レヴナントの移動慣性と質量がそのまま掛かるのか、ステータスの安定性スタビリティバーが一気に削れる。


 宇宙空間を扱うP・B・Dペイル・ブルードットでは、安定性スタビリティは重要なステータスで、これが無くなると一時的に錐もみ状態で行動不能になる。

 そうなると、さっきの〈ショーシャ〉や、クロエの〈スノーホワイト〉のように吹き飛ぶのだけど、その間、無防備に撃たれ放題だ。


 さすがに蹴り一発で安定性スタビリティバーが無くなるようなことはないが、ここに追撃をもらうと、大変マズい。


「こん、のッ!」


 大急ぎで姿勢制御のリソース・スイッチを、ピアノを弾く様にフル・タップ。

 粒子端末グリッターダストで構築される量子ニューロン・プロセッサの演算領域が粒子干渉場エルフェルトを用いて繊細な姿勢制御。


「シド君ッ!」


 姿勢を立て直す俺を尻目に、飛び出した〈ラプンツェル〉が、壁蹴りウォール・キックで急速離脱した〈ウォーフレーム〉を追って跳躍。

 残った圧縮粒子ダスターミサイルを全弾発射。


「ユキムラ君も、なまりましたか?」


 自ら撒いた煙幕を使い、死角に回り込んでいたマサムネが、〈ウォーフレーム〉を追って飛び上がってしまったユキムラの背後に滑り込んだ。


「マー、サー、ムー、ネーッ!」


〈アバカン〉のメイン、肩部武装区画アーセナル増設武装区画サブ・アーセナルの、すべての電離弾体アークシェルラピッド・ガンの砲口がユキムラの背中を照準。

 これは、タイミング的にどうしようもない。

 首だけになっても襲い掛かって来そうな断末魔を残して、クロエに続いて、ユキムラの〈ラプンツェル〉も爆散。


 胸部居住区ブレストキャビンを背後から撃ち抜かれた〈ラプンツェル〉の金属が軋むような破壊音に、紛れて――


――ガ、ガ、ガオォンッ!


 連なる咆哮。

 頭上から降り注ぐ三条の亜光速の閃光が、頭部艦橋クラウンシェル胸部居住区ブレストキャビン臀部動力区画リアクターコアの順に吹き飛ばし、〈アバカン〉が真っ二つに吹き飛んだ。


「よし」

「〈アナイアレイター〉! 〈ガーランド〉は!?」

「もう倒した」


 こちらからは見えなかったが、一旦下がった〈ガーランド〉は、イスミさんをけん制していたのだろう。

 戦闘ログを見ると、クロエの撃沈と前後して、〈ガーランド〉の撃沈ログがある。


なまっていたのは、わたしもですか……」


 成仏(?)したマサムネさんの無念そうな声が聞こえる。


「おっと……これは……」

「こちらが詰んだ、かな。はっはっは」


 そう言って、二対一の状況になったカフカ隊長が快活に笑った。

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