73話 こんな再会の仕方ってある?
二人の意思を確認して、少しの時間他愛もない話をした後、僕はここを後にすることにした。
「遠い場所だけど、また時間があったら遊びに来てね」
母さんが見送りに来てくれる。本当なら、もう少し話をしたいところだったけど、バスの時間がきてしまった。本数が少ないため、これを逃すと、残りは一台だけになり、帰りが朝になってしまう。
「水城ちゃん! これ持っていきな!」
父さんが片手に袋を持ちやってくる。手渡された袋の中を見ると、たくさんの野菜が入っていた。
「今度は春とか夏に来な。その時には、また別の野菜をやる」
「あ、ありがとうございます!」
僕は若干顔を引きつらせながらお礼を言った。嬉しいは嬉しいんだけど、重たい……っ。女の僕には少しきつい……っ。
「そういえば、何で二人はこんな田舎の方に越してきたんですか?」
僕は袋を一度足元に置き聞いた。いくら寧と喧嘩したからといって、ここまで離れる必要なんてあるだろうか。
「まあ、なんというか、もう少しゆったりとした場所に来てみたかったんだ」
「ゆったり?」
「私の提案でもあるの。こういう場所で生活してみたいとも思っていたのよね。人の喧騒を離れ、静かに暮らせるこういう場所を」
母さんは父さんを見て少し申し訳なさそうな顔をする。
「別に俺は夏希を責めていないぞ。まあ、最初は少し抵抗があったのも事実だが、こうしてここに来たことは微塵も後悔していないぞ」
父さんは「そんな顔するな」とおおらかに笑い、母さんの腰を抱き寄せている。息子の前で見せつけてくれるよ。
「もう、真ったら。水城ちゃんが見てるわよ」
「ははっ! むしろ見せつけてやろう!」
父さんはもう少し恥じらいを持って。
別れ際に自分の親のラブラブな様子を見せつけられ、僕はジト目を向けてしまうのだった。
二人の家を後にして、重い袋を手にバス停までの道を歩く。おかしい、厚意でもらったもののはずなのに、嫌がらせのように思えてしまう……っ。
「そこの君、大丈夫かい?」
突然声をかけられ、僕は横を見る。一人のおじいちゃんが、玄関から顔を出し、僕のことを心配げに見ていたかと思えば、近寄ってきてくれた。
「だ、大丈夫です。わざわざご心配していただいて、ありがとうございます」
いくら重くて辛くても、おじいちゃんの手を借りるわけにはいかない。その厚意はすごいありがたいけど。
「そうかい? ならいいけど。君、ここの人じゃないね?」
おじいちゃんは僕を物珍しそうに見てくる。やっぱり、この町に住む人から見たら、わかるんだね。
「はい。今日はちょっと、九重さんのご自宅に用事があって、それでです」
「ほお、九重さんに?」
九重という名前に、おじいちゃんは表情を柔らかくした。
「はい。二人とは知り合いなんですか?」
「ああ。あの夫婦はここではすっかり有名人だからね。あの明るさからは、皆元気をもらっているものだよ」
おじいちゃんは感心した様子を見せる。すごいな、二人がここに来たのは2年前くらいなのに、すっかりそんな有名人になっているなんて。二人の息子として、少しばかり嬉しく、誇らしい気分だった。
「いやぁ、本当に見習いたいものだよ。あの夫婦が来てから2年くらい経つけど、変わらず元気な様子といった感じかな。怪我しても次の日にはすぐにいつも通りの姿を見せてくれるからね」
今までのことを思い返しているのか、おじいちゃんはつらつらと語り始める。できれば、もう少し二人のここでのことを聞いていきたいところだったけど、これ以上は時間が許してくれない。
「すいません、バスがきてしまうので、もう行きますね。お話、ありがとうございました」
「おお、そうだったか。長話で引き留めてしまってすまんね」
「いえ、それでは」
僕は袋を持ち直し、バス停まで歩く。二人の武勇伝のようなものを聞き、少しばかり袋が軽くなるようだった。
バスに揺られること2時間半。ようやく僕の住む町に戻ってきた。時計の針は、ちょうど19時を指していた。
さすがに疲れた。今すぐ帰ってお風呂に入り、ベッドに潜り込みたい気分だよ。けど、その家までの帰り道がひどく億劫だ。原因はもちろん、この重たい袋。
僕は歯を食いしばり、最後の一仕事だと思って歩く。この野菜たち、どんな風に調理してやろうか。
傍から見たら、背を曲げブツブツと呟き、今にでも警察を呼ばれかねない僕の姿。そんな自分を気にもとどめず、ただ闇雲に歩いていた。だから、気がつかなかった。
「――あっ!」
不意に前方から驚いた声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には、僕は曲がり角から現れた人物とぶつかってしまっていた。袋は僕の手を離れ、たくさんの野菜が次々に転がっていく。
「す、すいません⁉」
僕よりも先に目の前の人物が謝ってしまい、すぐさま転がった野菜を拾い始める。
「こ、こっちこそごめんなさい⁉」
完全に僕のよそ見が原因だったから、悪いのは僕だ。それなのにこの人は謝り、あまつさえ野菜を拾ってくれる。申し訳なくて仕方ない。
僕はすぐさましゃがみ込み、野菜を拾い始める。そのため、先にしゃがんでいた人物と目が合った。
「――――えっ?」
野菜を拾おうとした手が止まってしまった。その人物、いや、こいつは、そんな僕を見て首をかしげた。
「あの、どうしました?」
改めてその声を聞き、僕は確信した。
今僕の目の前にいるのは、高校の時の友達、
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