第3話 平安時代からやってきた青年

顔面に強い衝撃を受けた後、投げつけられた何かを

手で塗りたくられる感触がした。


結構強めだ。


ぐりぐり。ぐりぐり。


「ちょ、痛ッ…!!」


思わずそう声を上げた時。


またもや顔面に衝撃を受けた。


そして冷たいッ!


水をぶっかけられたのだ。


"何でこんな事されないといけないんだ!"

恐怖を怒りが追い越したその時、

私は思い切って目を開けた。


「え」


「…」


目前には老人の顔があった。

暗くてよく見えなかったため、

一瞬岸部さんに首ったけのおじいさんかと思った。


しかし、違う。

あの老人はこんなに"しわしわ"ではない。

梅干を食べた時のような口を半開きにし、

私の顔をじっと見ている。


「清彦様、このお方ですじゃー!!」


眼前5センチほどの近距離で叫ばれ、

鼓膜がはじけ飛びそうになった。


お前はマ〇ハンドか。

しわしわのおじいさんはなかまをよんだ!

そんな状況で、一瞬でもくだらない事を考える

自分にあきれながら身構えたその時。


街灯が2、3回ほど点滅し、消えた。


間もなく少し先に、スッと人影が現れた。

本当に、「スッ」と。

急に現れたのだ。


「紫乃姫…」


そう呟くと

人影はこちらに近づいて来た。


人影が小刻みに揺れている。

どうやら私の身体は震えているようだ。

右手で左腕を掴み、震えを抑えようとした。


その時。

風が吹いた。

雲が取り払われ、青年の姿が煌々と

月明りに照らし出された。


まだ幼さを残した、少年っぽい印象の顔。

その顔がはっきりと月明りに照らされている。


今にも涙が溢れそうな綺麗な目。

どことなく高貴な微笑みをたたえた表情。


私は後じさった。


青年は真っ黒な平安時代の服を着ている。

さらにゆっくりと近づいて来る。


私は震えて動けない。


青年はこう言った。


「間違いない。」


何が?


「やっと、会えましたな…」


は?



私は失神した。

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