シオンとコスプレ
私はこれといった取柄もなく平凡で、催しがあればそれを眺める側だと思っていたのに、なぜこんなことになっているのだろう。
「シオンちゃん似合う~!」
ゲームでの狩り中に、マリンとモカに同人イベントに行くと話したら、どうやら同じイベントに行く予定だったらしく、コスプレをすることになってしまった。
「あっちの世界ならともかく、こっちはちょっと~」
「もう諦めて」
更衣室でマリンに鏡を見せられて恐る恐る見れば、がっつりコスプレメイクをされた自分の顔に、思わず目を疑う。
「えーっ! すごい!」
目元は大きく見えるようになり、ハイライトやシャドーで顔の輪郭すら違って見える。少し幼い印象になって、ゲーム内の自キャラに雰囲気がよく似ている。
衣装は和風バトル物の作品の女の子で、我ながら可愛いのではないか。などと思ってしまう。
「こんなに変わるんだぁ……」
レイヤーというものは、元の素材がいい人ばかりなのだと思っていたが、メイクや加工のマジックは思った以上に凄いのかもしれない。マリンも元はいいが、やっぱりメイクをしているとちょっとアニメ的で、雰囲気が違う。それに、今日のマリンは男装で凛々しくて格好いい。
「マリンちゃん好き」
「どーしたのよ」
「えへへ……。今日、かっこいいなーって」
「や、やだなぁ……それじゃ、モカちゃんと合流しようか」
照れるマリンは可愛らしい。そして、当たり前なのだが、モカは男子更衣室にいる。
更衣室を出て待ち合わせ場所に行くと、女装をしているモカがいた。女装をしている姿に何も疑問を持たないし、似合っていて可愛らしい。身長も私より少し低くて違和感がまるでない。
「おー、二人とも似合うっすねぇ」
「モカちゃんも可愛いねぇ。で、どこ行くー?」
「わ、私は本を買いに……」
それが当初の目的だ。
「ボクも行っておきたいとこあるっすー」
「それじゃ、あとで合流にしよっか」
コスプレ衣装は少々歩きづらいが、この姿でいるのは少し楽しい。ゲームの世界の時は色々な衣装で気分転換をしていたものだが、あの時の気持ちに少し似ている。
そして、目当ての島へ行って、チェックリストと照らし合わせて本を買い漁っていく。
それほど大きなジャンルではないので、大手が少し並んでいる程度で目的の買い物はあっさり終わってしまった。
周囲には何のジャンルがあるのだろう。と、ポスターを見れば、見知ったゲームの装備が描かれた島がある。
「へぇ~。エリュシオンもサークルあるんだ」
絵を描く暇があったらゲームをしてしまうMMOというジャンル的に描き手は少ないのか、それほどスペース数は多くない。でも、興味を惹かれて様子を見に行く。
自らのキャラクターやギルドを題材にした実録漫画や日常系漫画、人気NPCを題材にした物語、奥の方には男性向けのえっちなポスターが見える。
男性向けがあれば女性向けもある。ちらりと視線をやった先には、どう見ても友人を題材にしたような本があった。触手×ヴァンピール男みたいなその本のキャラクターはとても友人のキャラクターに似ている。髪型も、装備も、カラーリングも。
リアルを知っている友人をそういうネタに使われるというのは、なんとも言えないものである。その本を手に取って軽くページを捲る。
一人称『オレ』で、基本敬語のキャラは、やはりそうなのだろう。
読みながら心の中でツッコミを入れる。
いやいや、セーレさんが触手ごときに捕まるのとか、解釈違いなんですけど。
ていうか、セーレさんこんなこと言わないし。
こんな顔しないし……!
「一冊ください」
「ありがとうございます。500円になります」
まぁ、絵は好みだし、エロ本に解釈もクソもないし。と、本を購入して買い物袋にしまう。
壁の方を見ると、ゲームの世界で見かけたプレイヤーの絵柄であると思われるポスターがあった。
もう列ははけたのか、壁の近くの客はまばらで、ちょうどいいなと思って見に行く。あの世界では白黒の印刷だったが、こちらではフルカラーのイラスト本だ。白黒も味わいがあったが、こちらの印刷技術は細かい描写もしっかり出ていて、段違いに綺麗だ。
「一冊……、あ、限数なければ三冊お願いできますか?」
モカとマリンも欲しがるだろうと思って、二人の分も購入しておく。
「ありがとうございます~。三冊で三千円になります」
「あ、あの。作者さんですか?」
「はい。私です」
スペースに座っていたうちの一人の女性が立ち上がる。
「違ったら申し訳ないんですけど……表紙がエルフとヒューマンの白黒のイラスト本出してませんでしたか? えーっとエルフの方が女性で、ヒューマンが男性で、装備が……」
ゲームの世界と言っていいものか迷って、微妙に言葉を濁しつつ伝えると、目の前の人物は驚いた表情の後に、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「わーっ、それ私です!」
「やっぱり~! すごく素敵でした。特に、エルフのソーサラーの男性の絵がかっこよかったです」
「ありがとうございます。うわー。覚えていてくれて嬉しいです。手元に何も残らなかったから……。なんか、幻の作品みたいになっちゃって……」
女性は少し寂しそうに笑う。
「私のギルドの人も気に入ってたので、覚えている人いっぱいいると思います!」
「ありがとうございます。よかったらプレイヤー名教えていただけませんか?」
「はい。シオンって言います」
「えっ……。シオンさんって……あっ、その顔、サウザンド・カラーズのシオンさんですよね!?」
「は、はい。そうですけど……」
自分の名前が認識されていることに驚いて、あたふたとする。
「うそーっ! シオンさん?」
一緒にいた売り子の女性二人も私の顔を見てきて、隣のスペースのサークルの人たちまでこちらを見てくる。
「あ、あのう……。あまり見られると恥ずかしいです」
今日の私はマリンのメイクのおかげで、人に見られてもそれほど恥ずかしくない外見になっているとは思うものの、そうまじまじと見つめられると消えてしまいたくなる。
「すみません。でも、シオンさんこういうイベント来る人なんですね」
「えへへ。結構オタクで……」
「レイヤーさんだったんですね~」
「いえ、これは友人に着せられただけで、普段は全然」
「えーっ、可愛いじゃないですか」
可愛いのはだいたいマリンのおかげだ。
そんなことを思っていると、マリンから電話がかかってくる。
「あ、すみません。ちょっと電話」
用事が早く終わったから合流したいとのことで、今いる場所を伝えればこちらに来るそうだ。
マリンとモカが合流した後、サークルの人たちと盛り上がって、アフターまで一緒に行くことになった。イラスト本を売っていたサークルの人は三人とも同じギルドらしい。
「レオンハルトさんとセーレさんは、いらっしゃらないんですか?」
「二人は、こういうイベント興味ないみたいでー」
「そっかー、残念」
「セーレは一度連れてきたことあるんだけど、コスプレさせたら話しかけられまくって、二度と行きたくないって」
マリンが笑いながら言う。
「セーレさんって、リアルでもカッコイイんですか?」
「うんうん。その時のコス写真あるよ。見る?」
「わー、見たいです」
「ボクも見たいっすー」
「ちょ、ちょっとマリンちゃん。勝手に見せたらダメだよー!」
「めっちゃメイクしてあるから大丈夫っしょ。でもまぁ、一応聞いてからにするか……」
と、マリンがセーレにメッセージを送っている。
しばらく別の話をしつつ、食事を楽しんでいるとセーレから返事がきたらしい。
「オッケーだって。せっかくだから画面大きい方がいいかな」
マリンがタブレットを取り出して、セーレのコスプレ写真を表示すると感嘆の声が漏れる。セーレの衣装は、以前アニメになった円卓の騎士をモチーフにした作品で、クール系イケメンキャラだ。銀髪に黒い鎧で、ゲーム内のセーレと雰囲気が似ている。
「えっ、やばい」
「野生のモルドレッドじゃん……」
「推し実在したんだ……」
「マリンちゃん、その写真送って」
「ボクも欲しいっす」
皆で食い入るように画面を眺める。
「鎧もすごいっすねー。マリンさん、こういうのも作れるんすか?」
「あー。それは、バル爺が作ってくれたの」
「へぇぇ~。そういう特技あるんだ」
確かに、バルテルは工作などが好きだから納得する。
「これ、全身ね」
セーレの立ち姿は美しく、鎧姿は威圧感がある。あまり身体のラインは見えずに、身長もあるので男にしか見えない。
「うわ、股下3メートルくらいありそう」
「ゲーム内のキャラのコスしてほしー。アビス装備見たい」
「わっかるー」
セーレのことを褒められたマリンは、嬉しそうにニコニコとしている。
「ゲーム内のキャラかぁ……」
VRのグラフィックも綺麗で見応えはあるのだが、やはり映像は映像で触れることはできない。また、あの姿の皆に会ってみたいと思ってしまう。
そんなわけで、イベントから月日が流れたある日。
ファンタジー風のセットがあるスタジオを借りて、皆で集合する。
「えーっ、コンタクトしたことないから、カラコンって怖いんだけど……」
琥珀色のコンタクトレンズを差し出されたレオンハルトが、気乗りしない様子でそれを眺めている。
「それでもパラディンっすか?」
「しがない会社員でーす」
文句を言いつつもレオンハルトがコンタクトレンズを装着すると、ゲームの装いのレオンハルトが完成する。その隣に、モカが並べば見慣れた光景だ。
「んー。違和感あるのう」
ボリュームのある髭をセットしたバルテルが髭を撫でていて、その様子をクッキーが眺めている。クッキーはコスプレせずに、コーギーのぬいぐるみを抱いている。
「おまたせー。セット終わった」
マリンとセーレが部屋に入ってきて全員が揃えば、さすがに装備の質感は少し違うけれど、あの日々がそのまま再現されたかのような光景になる。
「懐かしい~!」
まだあれから一年も経っていないけれど、自分が最初に見た皆の姿が現実にあるのは感無量だ。
「声が一緒なら完璧なんすけどね~。あーあーあー、どうっすかね?」
モカが声を高くして喋る。女の子っぽくはなったが、少し調子が違う。
「うーん、なんか違うっすね」
自ら、結論を出して元の声に戻る。
「さっきの声、可愛いと思うよー。もっとやって~」
マリンがモカに言うと、モカは機嫌をよくしたのか高い声でしゃべり始める。
「ありがとうっす。セーレさんも声低くしてみたらどうっすか?」
「しません」
「えー。やってくださいよぅ」
断るセーレに私が言うと、セーレが少し困った顔をする。可愛い。
期待を込めた眼差しで見つめていると、セーレが口を開く。
「これで、いいですか?」
セーレの地声は低いが、さらにそこから一段低くした声は、ゲーム内の声に似ている似ていないは、この際どうでもよくて耳が幸せだ。
「い、イケボ~!」
「あんた、相変わらずシオンちゃんには甘いね~。それじゃ、そろそろ撮影しよー」
撮影の配置などはカメラを構えたクッキーが指示して、クッキーの持っていたぬいぐるみは、今はモカが抱えている。クッキーは意外とこだわりがあるのか、ライティングやポーズなど指示が細かい。
セットの場所を移動しつつ、全員である程度取り終わると個別で撮ったり、二人か三人で撮ったりなどし始める。
「次どうしよー」
「はい!」
「どうぞ、シオンちゃん」
「レオさんとセーレさんで、剣持って刃を交えている絵面が見たいです」
欲望に忠実にそう伝える。
「相変わらずっすねぇ」
少し暗い廃墟チックなセットの前に行って、要望通りに二人が剣を構える。あの世界で散々剣を振っていただけあって、ポーズはなかなかサマになっている。
「ちょっとレオさん、顔にやけてる。もっと真剣な表情で!」
「ごめんごめん。昔、特訓したなーって懐かしくなって」
クッキーの撮影の邪魔にならないように、私も自前で持ってきたカメラで撮影をする。
途中、ポーズや表情も変えてもらったりなどしつつ、心行くまで撮影をする。
「そろそろ次~」
マリンが時計を見ながら言う。
「二人が仲良さそうにしてるショットも欲しいっす~」
「仲良さそうにって……」
レオンハルトが首を傾げる。
モカの要望で屋外の撮影スペースに移動すると、モカが鞄から持参した小道具を取り出す。
出てきた物は作り物のクレープだ。
「これをセーレさんが持って、レオさんにあーんって、させてる光景が見たいっす」
モカの要望に、二人が沈黙する。
モカはこの中の誰より腐っていて甘々シチュエーションが好きだ。ついでに言うと、百合も好きで雑食がすぎる。
「お願いするっすよ~! ねぇ、シオンさんも見たいっすよね?」
「う、うん。そういえば、あっちの世界の初日にクレープ食べたよね」
アルヴァラで、セーレが持っていたクレープをレオンハルトに差し出していたような気がする。
「そうなんすよー。なんであの時、あのままレオさんが食べるのを見守らなかったのかと後悔してたっす」
「減るもんじゃなし、やってあげなよ」
マリンがそう言うと二人は頷いて、セーレがモカからクレープを受け取る。
「レオ様、もう少し顔を寄せてくださいませ。あと、口を開きすぎでございます」
クッキーが事務的に、指示をしていく。
そのシチュエーションの写真を撮り終わると、モカがさらに別の注文を言う。
「次は顎クイお願いするっす」
「……やっていい?」
レオンハルトがセーレに聞く。
以前、色即是空のギルドで似たようなことがあった。あの時は、スクリーンショットがないことを後悔したものだ。
「まぁ……。いいでしょう」
レオンハルトは少し申し訳なさそうな表情をして、セーレの顎に手を添える。私は無言で、ほぼ動画のレベルの速度でシャッターを押しまくっていた。モカも手持ちのカメラを二人に向けて、色々な角度から撮っている。
そして、その私とモカの様子をマリンが撮影しているという謎の状況が生まれる。
「ありがとうございましたっす! 次は……」
モカが私とマリンの方を見る。
「マリンさんが、シオンさんにあーんさせてるのが見たいっす」
「え、ええーっ」
「いいねぇ。やろう」
マリンは、あっさり承諾してクレープを手に取る。
「はい、シオンちゃん。あーんっ」
「あ、あーん……」
マリンが悪戯っぽく微笑んでクレープを差し出してくるので、少し恥ずかしいなと思いつつも、私も合わせて口を開く。
「んーっ、シオンさんのそういう、おろおろしてるとこいいっすねぇ」
モカの言葉に恥ずかしさが増す。
クレープのシチュエーションを撮影し終わると、マリンがじっと見つめてくる。
「次はこれかなー?」
と、軽く私の顎に手で触れる。
「おお、いいっすねぇ」
「わーっ! それは……」
マリンもなかなか美人で可愛らしいので、そんなことをされては困ってしまう。
「あー、わたしよりセーレにやってほしい?」
「だだだだ大丈夫ですぅ!」
「えっ、シオンさん。オレにされるのは嫌なのですか?」
「い、嫌なわけないですけど、ダメです!」
セーレがこちらに近寄ってくるので、後退ると建物の壁に当たって逃げ場が無くなる。
「えーっと。壁ドン、と言うのでしたか?」
セーレが私の肩の近くの壁に手を伸ばして、顔を近づけてくる。
「やだもう、顔がいい!」
撮影会は、楽しくてあっという間に時間が過ぎていった。
後日、クッキーから写真が送られてきて、中身を見ればそのまま写真集が出せそうな出来だった。そして、その出来を見たマリンがイベントで本にして売ろうと言い出して、皆の了承が得られたので、サウザンド・カラーズの名前でサークル参加をして本を売ることになった。
セーレは本を販売することに関しては、当初、事務所の許可が云々で乗り気ではなかったが、クッキーがあっさり問題を解決してしまったらしい。
「いやー。まさか、サークル参加することになろうとは……」
イベントの当日、開場前にコスプレをした状態で、スペースでマリンと並んで座って呟く。
「それじゃ、ボク買い物行ってくるっすねー」
三人分の買い物のチェックリストと地図を持って、モカが買い物に出かける。
「いってらっしゃーい。でも、売れるのかなぁ」
写真集のサンプルをマリンがSNSに上げたところ反響はあったが、エリュシオンのプレイヤーがイベントに来るような層とも思えず、どれくらい売れるかは謎だ。
「通販やってくれって声が多かったから、余ったやつ通販回そうかなーって。どうせめちゃくちゃ余るだろうし……」
「あはは……」
クッキーが手元にデータがあるから入稿すると言い、当日会場に来てみれば想定していたよりはるかに多い量の本が届いていた。
「いやー。オンデマンドで30部くらいでいいって言ったのに……。クーちゃんも、ちょっとずれてるとこあるよね……」
「印刷費やばそう」
「印刷費は気にするなって言われたけど、帰りにセーレの家寄って相談しよ……」
自分用に確保した本を開けば、フルカラーで美しいオフセット印刷だ。
エフェクトなどが足されている写真もあって、見ているのは楽しい。自分も綺麗に撮ってもらっているとは思うが、見るのが恥ずかしくて他のメンバーの写真を見る。とりあえず、本の中には、ふざけてやった壁ドン写真は入っていないようで安心した。
「マリンちゃん、保存用にもう一冊買っていい?」
「タダでいいよー。どうせ余るし」
「いやー。参加費とかもあるでしょー」
「売り子してもらってるしいいよ」
そんなことを話していると開場の時間になり、スペースの前に人が集まってくる。
列ができるというほどでもないが、客足が途切れることがなく驚く。
「ファンです」
「差し入れです。よかったら皆さんで」
そんな有難い声をもらいつつ、本を売る。中にはジャンル外の客もいた。
昼近くになれば客足は多少まばらになってきて、モカが戻ってくる。
「ただいまっす。お客さんどうだったっすか?」
「うん、思ったより来てびっくりしたー」
「おー。よかったっすね。売り子変わるっすか?」
「どっちでもー」
「やってみたいっすー」
そう言うので、モカと交代して後ろで眺める。
「わー、モカちゃん、本当に男の子だったんだ? 可愛い~!」
などとお姉さんたちに言われている。そう言われたモカも嬉しそうにしている。
私も背後で、モカちゃんは可愛かろう。と頷く。
以前のイベントで話をしたイラストサークルの人も買いに来てくれていたし、なんとなく見覚えのあるような顔の人も何人か見かけた。
「三冊お願いします」
そう言ってきた男性の顔にも見覚えがある気がする。黒髪短髪に涼やかな目元の、この青年は誰だろうかと考えている間にマリンが正解を言う。
「あれ、みっちゃん?」
「はい。こちらでは、初めまして。ミストラルです」
ミストラルが爽やかに微笑む。
「おー、ミストラルさんっすか」
その名前を聞いた周囲の人間がミストラルの顔をちらりと見る。そりゃ、この人もホークアイでは最強クラスのプレイヤーだから有名人だ。ミストラルは周囲の視線を気にした様子もなく、会計を済ませて差し入れを渡してくる。
「みっちゃん、こういうイベント来るんだね」
「いえ、初めてで……。迷って着くのが遅くなりました」
「なるほどねー。二冊は、お友だち用?」
「保存用です」
「そっか……」
「それでは、セーレさんたちにもよろしくお伝えください」
そう言うとミストラルは颯爽と去って行った。
「私も、もう一冊保存用に買おうかな」
「シオンちゃんは、そもそもデータあるでしょ!?」
それもわかるのだが、紙媒体で保存しておきたい気持ちもあるのだ。
イベントが終わると、驚くことに本は残り数冊程度になっていた。
「クーちゃん、ずれてるとか言ってごめん」
「でも、これだと通販足りなさそうだねぇ」
「そうだね……。クーちゃんに追加頼んでおこう」
マリンが携帯でクッキーに連絡を取っている。
そして、携帯の画面を眺めて眉根を寄せる。
「まじか」
「どしたの?」
「家にまだ在庫あるって」
「クッキーさん、さすがっすね」
「執事には、それくらい朝飯前だと……」
本は通販も順調に売れて、次も本を出してほしいと言われて、皆それなりに乗り気だったので、そのうちまた企画されるだろう。
リアルでもゲームでも思わぬ展開になったものだなぁ。と、しみじみ思った。
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